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[ [ "そんならブロム、ダツチヤアは。", "あれは軍の始まつた時に隊に這入つた。ストニイ、ポイントの進撃の時に死んだといふ人もあるし、又たアントニイス、ノオスの颶風に逢うて溺れたといふ人もある。何しろ帰つては来ない。", "そして教師のフアン、ブムメルは。", "あれも矢張軍に出て、仕舞ひには土兵の大した将官になつて、今では議員だ。" ], [ "ジユヂス、ガアドニイア", "そして貴君の乃翁の名は。", "えゝ、気の毒なのは私の阿爺、名はリツプ、フアン、ヰンクルと云ひました。鳥銃を肩に掛けて、家を出て往つてから、最う二十年立ちましたが、それつ切り音沙汰なしです。伴れて往つた犬は独で還りましたが、主人は自殺でもしましたか、銅色人種にでも引張つて行かれましたか、誰も様子を知りません。私はまだその時に小さい娘で御座りました。" ], [ "そしてお前の老萱は何処に居ます。", "嬢々はたつた此間無くなりました。ニユウ、イングランドから来た旅商人と喧嘩をして、余り怒つたので、卒中とかいふ病を発したのだといふことです。" ] ]
底本:「鴎外選集 第16巻」岩波書店    1980(昭和55)年2月22日第1刷発行    1980(昭和55)年6月30日第2刷発行 初出:「少年園 第二巻 第十三号」    1889(明治22)年5月3日発行    「少年園 第二巻 第十四号」    1889(明治22)年5月18日発行    「少年園 第二巻 第十五号」    1889(明治22)年6月3日発行    「少年園 第二巻 第十六号」    1889(明治22)年6月18日発行    「少年園 第二巻 第十七号」    1889(明治22)年7月3日発行    「少年園 第二巻 第十八号」    1889(明治22)年7月18日発行    「少年園 第二巻 第二十号」    1889(明治22)年8月18日発行 ※初出時の表題は「新世界の浦島」です。 ※初出時の署名は「鴎外漁史」です。 ※翻訳原本は「W. Irving: [#斜体]Skizzenbuch[#斜体終わり]. Deutsch von Karl Theodor Gaedertz (1855-1912). Leipzig, Verlag von Philipp Reclam jun. o.J.」です。 ※「打囲《とりま》い」と「囲繞《とりま》い」、「通り過ぎ」と「通過ぎ」の混在は、底本通りです。 入力:砂場清隆 校正:岡村和彦 2022年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "060357", "作品名": "新浦島", "作品名読み": "しんうらしま", "ソート用読み": "しんうらしま", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "RIP VAN WINKLE. EINE NACHGELASSENE SCHRIFT VON DIETRICH KNICKERBOCKER.", "初出": "「少年園 第二巻 第十三号」1889(明治22)年5月3日<br>「少年園 第二巻 第十四号」1889(明治22)年5月18日<br>「少年園 第二巻 第十五号」1889(明治22)年6月3日<br>「少年園 第二巻 第十六号」1889(明治22)年6月18日<br>「少年園 第二巻 第十七号」1889(明治22)年7月3日<br>「少年園 第二巻 第十八号」1889(明治22)年7月18日<br>「少年園 第二巻 第二十号」1889(明治22)年8月18日", "分類番号": "NDC K933", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2022-07-09T00:00:00", "最終更新日": "2022-06-26T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/card60357.html", "人物ID": "001257", "姓": "アーヴィング", "名": "ワシントン", "姓読み": "アーヴィング", "名読み": "ワシントン", "姓読みソート用": "ああういんく", "名読みソート用": "わしんとん", "姓ローマ字": "Irving", "名ローマ字": "Washington", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1783-04-03", "没年月日": "1859-11-28", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "鴎外選集 第16巻", "底本出版社名1": "岩波書店", "底本初版発行年1": "1980(昭和55)年2月22日", "入力に使用した版1": "1980(昭和55)年6月30日第2刷", "校正に使用した版1": "1980(昭和55)年2月22日第1刷", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "砂場清隆", "校正者": "岡村和彦", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/files/60357_ruby_75861.zip", "テキストファイル最終更新日": "2022-06-26T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/files/60357_75896.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2022-06-26T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "人生においては、たとえどんな場合でも必ず利点や愉快なことがあるはずです。もっともそれは、わたくしどもが冗談をすなおに受けとればのことですが", "そこで、悪魔の騎士と競走することになった人は、とかくめちゃくちゃに走るのも当然です", "したがって、田舎の学校の先生がオランダ人の世継ぎ娘に結婚を拒まれるということは、彼にとっては、世の中で栄進出世にいたるたしかな一歩だということになります" ] ]
底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社    1957(昭和32)年5月20日発行    2000(平成12)年2月20日33刷改版 入力:鈴木厚司 校正:砂場清隆 2011年8月30日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "046658", "作品名": "スリーピー・ホローの伝説", "作品名読み": "スリーピー・ホローのでんせつ", "ソート用読み": "すりいひいほろおのてんせつ", "副題": "故ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿より", "副題読み": "こディードリッヒ・ニッカボッカーのいこうより", "原題": "THE LEGEND OF SLEEPY HOLLOW", "初出": "", "分類番号": "NDC 933", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2011-12-31T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-16T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/card46658.html", "人物ID": "001257", "姓": "アーヴィング", "名": "ワシントン", "姓読み": "アーヴィング", "名読み": "ワシントン", "姓読みソート用": "ああういんく", "名読みソート用": "わしんとん", "姓ローマ字": "Irving", "名ローマ字": "Washington", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1783-04-03", "没年月日": "1859-11-28", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "スケッチ・ブック", "底本出版社名1": "新潮文庫、新潮社", "底本初版発行年1": "1957(昭和32)年5月20日", "入力に使用した版1": "2000(平成12)年2月20日33刷改版", "校正に使用した版1": "2000(平成12)年 2月20日33刷改版", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "鈴木厚司", "校正者": "砂場清隆", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/files/46658_ruby_44679.zip", "テキストファイル最終更新日": "2011-08-30T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/files/46658_44767.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2011-08-30T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "じゃ、奥さんは引っ越しについて文句を言ったのかい", "文句なんて、とんでもない。あれは始めからしまいまで、やさしく、にこにこしていたよ。ほんとうに、こんなに元気がいいときは今までにないほどだよ。あれは、心底からぼくを愛してくれたし、やさしくして、慰めてくれたんだ" ] ]
底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社    1957(昭和32)年5月20日発行    2000(平成12)年2月20日33刷改版 入力:砂場清隆 校正:noriko saito 2022年3月27日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "060227", "作品名": "妻", "作品名読み": "つま", "ソート用読み": "つま", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 933", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2022-04-03T00:00:00", "最終更新日": "2022-03-27T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/card60227.html", "人物ID": "001257", "姓": "アーヴィング", "名": "ワシントン", "姓読み": "アーヴィング", "名読み": "ワシントン", "姓読みソート用": "ああういんく", "名読みソート用": "わしんとん", "姓ローマ字": "Irving", "名ローマ字": "Washington", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1783-04-03", "没年月日": "1859-11-28", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "スケッチ・ブック", "底本出版社名1": "新潮文庫、新潮社", "底本初版発行年1": "1957(昭和32)年5月20日", "入力に使用した版1": "2000(平成12)年2月20日33刷改版", "校正に使用した版1": "2000(平成12)年2月20日33刷改版", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "砂場清隆", "校正者": "noriko saito", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/files/60227_ruby_75260.zip", "テキストファイル最終更新日": "2022-03-27T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/files/60227_75292.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2022-03-27T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "ブロム・ダッチャーさんはどこにおりますかね", "ああ、あの人は戦争のはじめに陸軍へ入隊しなさったが。ストーニー・ポイントの攻撃で戦死したという人もいるし、アントニーズ・ノーズのふもとで嵐にあって溺れ死んだという人もおるがね。わたしはよく知らないんじゃが、二度と戻ってこなかった", "ヴァン・バンメル校長先生はどうしましたね", "あのかたも戦争に行かれて、国民軍の偉い大将じゃったが、今は国会議員になんなさったよ" ], [ "ジュディス・ガーディニアです", "で、お父さんの名前は", "ほんとに、気の毒ですわ。リップ・ヴァン・ウィンクルっていうんですけど、二十年も前に鉄砲をもって家を出られたっきり、その後なんの音沙汰もないんです。犬だけひとりで帰ってきましたけど、お父さんが鉄砲で自殺なさったのやら、インディアンにさらわれておしまいになったのやら、だあれにもわからないんです。あたしはそのころまだほんの子供でしたわ" ], [ "お母さんはどこにいるのかね", "あら、お母さんもつい先頃亡くなりました。ニューイングランドの行商相手にかんしゃくをおこして、血管を破ってしまったんです" ] ]
底本:「スケッチ・ブック」新潮文庫、新潮社    1957(昭和32)年5月20日発行    2000(平成12)年2月20日33刷改版 ※「THE SKETCH BOOK (スケッチ・ブック)」英米文学叢書、研究社出版、1986(昭和61年)1月20日18版発行の原文上では、「アパラチヤ大山系から」は「of the great Appalachian family」、「よく晴れた秋の日、」は「on a fine autumnal day,」、「大丈夫で」は「and a stout」となっています。「アパラチヤ大山系から」と「よく晴れた秋の日、」はママ注記としました。「大丈夫で」には原文の意味もあるので注記はつけていません。 入力:砂場清隆 校正:えにしだ 2019年10月28日作成 2020年3月19日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "053680", "作品名": "リップ・ヴァン・ウィンクル", "作品名読み": "リップ・ヴァン・ウィンクル", "ソート用読み": "りつふうあんういんくる", "副題": "ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿", "副題読み": "ディードリッヒ・ニッカボッカーのいこう", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 933", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2019-11-28T00:00:00", "最終更新日": "2020-03-19T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/card53680.html", "人物ID": "001257", "姓": "アーヴィング", "名": "ワシントン", "姓読み": "アーヴィング", "名読み": "ワシントン", "姓読みソート用": "ああういんく", "名読みソート用": "わしんとん", "姓ローマ字": "Irving", "名ローマ字": "Washington", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1783-04-03", "没年月日": "1859-11-28", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "スケッチ・ブック", "底本出版社名1": "新潮文庫、新潮社", "底本初版発行年1": "1957(昭和32)年5月20日", "入力に使用した版1": "2000(平成12)年2月20日33刷改版", "校正に使用した版1": "2000(平成12)年2月20日33刷改版", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "砂場清隆", "校正者": "えにしだ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/files/53680_ruby_69540.zip", "テキストファイル最終更新日": "2020-03-19T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "1", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001257/files/53680_69591.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2020-03-19T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "1" }
[ [ "旅行から受くる利益と愉快とを貴ぶことはもちろんである。しかし本国に帰ろうと決心した事が度々ある。結局再び考えなおして、そのままにして置いた。", "科学上の智識を得るには屈竟の機会であるから、サー・デビーと共に旅行を続けようと思う。けれども、他方ではこの利益を受けんがために、多くの犠牲を払わねばならぬのは辛い。この犠牲たるや、下賤の者は左程と思わぬであろうが、自分は平然としていられない。" ], [ "サー・デビーが英国を出立する前、下僕が一緒に行くことを断った。時がないので、代りを探すことも出来なくて、サー・デビーは非常に困りぬいた。そこで、余に、パリに着くまででよいから、非常に必要の事だけ代りをしてはくれまいか、パリに行けば下僕を雇うから、と言われた。余は多少不平ではあったが、とにかく承知をした。しかしパリに来て見ても、下僕は見当らない。第一、英国人がいない。また丁度良いフランス人があっても、その人は余に英語を話せない。リオンに行ったが無い。モンペリエに行っても無い。ゼネバでも、フローレンスでも、ローマでも、やはりない。とうとうイタリア旅行中なかった。しまいには、雇おうともしなかったらしい。つまり英国を出立した時と全く同一の状態のままなのである。それゆえ初めから余の同意しない事を、余のなすべき事としてしまった。これは余がなすことを望まない事であって、サー・デビーと一緒に旅行している以上はなさないわけには行かないことなのだ。しかも実際はというと、かかる用は少ない。それにサー・デビーは昔から自分の事は自分でする習慣がついているので、僕のなすべき用はほとんどない。また余がそれをするのを好まぬことも、余がなすべき務と思っておらぬことも、知りぬいているから、不快と思うような事は余にさせない様に気をつけてくれる。しかしデビー夫人の方は、そういう人ではない、自分の権威を振りまわすことを好み、余を圧服せんとするので、時々余と争になることがある。", "しかしサー・デビーは、その土地で女中を雇うことをつとめ、これが夫人の御用をする様になったので、余はいくぶんか不快でなくなった。" ], [ "私が私の心を知っている位か、否な、それ以上にも、貴女は私の心を御存知でしょう。私が前に誤れる考を持っておったことも、今の考も、私の弱点も、私の自惚も、つまり私のすべての心を貴女は御存知でしょう。貴女は私を誤れる道から正しい方へと導いて下さった。その位の御方であるから、誰なりと誤れる道に踏み入れる者のありもせば導き出さるる様にと御骨折りを御願い致します。", "幾度も私の思っている事を申し上げようと思いましたが、中々に出来ません。しかし自分の為めに、貴女の愛情をも曲げて下さいと願うほどの我儘者でない様にと心がけてはおります。貴女を御喜ばせする様にと私が一生懸命になった方がよいのか、それとも御近寄りせぬでいた方がよいのか、いずれなりと御気に召した様に致しましょう。ただの友人より以上の者に私がなりたいと希い願ったからとて、友人以下の者にしてしまいて、罰されぬようにと祈りております。もし現在以上に貴女が私に御許し下さることが出来ないとしても現在私に与えていて下さるだけは、せめてそのままにしておいて下さい。しかし私に御許し下さるよう願います。" ], [ "君の発見はこの本に出てはいないか。調べたのかね。", "いや、まだです。" ], [ "磁気を電気に変えること。", "金属の透明なること。", "太陽の光を金箔に通すこと。", "二つの金箔を電気の極にして、その間に光を一方から他方へ通すこと。" ] ]
底本:「ファラデーの傳」岩波書店    1923(大正12)年5月15日第1版発行 ※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。 その際、以下の置き換えをおこないました。 「佛蘭西→フランス 伊太利→イタリア 伊→イタリア 伊国→イタリア 瑞西→スイス 佛国→フランス 希臘→ギリシャ 獨→ドイツ 獨逸→ドイツ 獨国→ドイツ 佛→フランス 瑞→スイス 墺→オーストリア 巴里→パリ 羅馬→ローマ 土耳古→トルコ 白耳義→ベルギー 亜米利加→アメリカ 墺地利→オーストリア 瑞典→スウェーデン 英→イギリス 埃及→エジプト 瓦斯→ガス 硝子→ガラス 土蛍→ミミズ 沃素→ヨウ素 金剛石→ダイヤモンド 志→シリング シルリング→シリング 磅→ポンド 基督→キリスト 蝋燭→ロウソク 蒼鉛→ビスマス 護謨→ゴム 鍍金→メッキ 吋→インチ 呎→フィート 弗素→フッ素 暫く→しばらく 殆ど→ほとんど 或る→ある 成るほど→なるほど 何時→いつ 如き→ごとき 雖も→いえども 又→また 殊→こと 先ず→まず これ等→これら 委しく→くわしく 迄も→までも それ故→それゆえ 是等→これら 宛も→あたかも 於て→おいて 如何に→いかに 終い→しまい 斯く→かく 此の→この 為す→なす 僅か→わずか 貰→もら 其→その 澤山→たくさん 只→ただ 兎に角→とにかく 啻→ただ 極く→ごく 未だ→まだ 夫故→それゆえ 及び→および 併し→しかし 最う→もう 且つ→かつ 斯様→かよう 即ち→すなわち 却って→かえって 之れ→これ 俤→おもかげ 勿論→もちろん 可なり→かなり 頤→あご 篏め→はめ 一寸→ちょっと 抑→そもそも 然し→しかし 幾分→いくぶん 何れ→いずれ 最早→もはや 若し→もし 遂に→ついに 直ぐ→すぐ 尤も→もっとも 益々→ますます 已に→すでに 依る→よる 之れ→これ 大抵→たいてい 更に→さらに 儘→まま 筈→はず 不図→ふと 唯→ただ 撓む→たわむ 成程→なるほど 折角→せっかく 皆→みな 以て→もって 此處、此所→ここ 有難う→ありがとう お休み→おやすみ 殊更→ことさら 亦→また 乃至→ないし 了つた→おわった 復た→また 復び→ふたたび 流石→さすが 所謂→いわゆる 寧ろ→むしろ 然る→しかる 重な→おもな 斯かる→かかる 則ち→すなわち 此度→このたび 尚ほ→なお 云う、云える、云い、云った、云われて→いう、いえる、いい、いった、いわれて 居った、居る→おった、いる」 また読みにくい漢字には適宜、底本にはないルビを付けました。 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 ※大中小の見出しを用いて全体の構造を示すために、後編冒頭の「研究の三期」は、注記対象から外しました。 ※底本の目次にならって、「ルムフォード伯」「サー・ハンフリー・デビー」「トーマス・ヤング」の上位に、「附記」という中見出しを立てました。 入力:松本吉彦、松本庄八 校正:小林繁雄 2006年11月20日作成 2015年4月5日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "046340", "作品名": "ファラデーの伝", "作品名読み": "ファラデーのでん", "ソート用読み": "ふあらてえのてん", "副題": "電気学の泰斗", "副題読み": "でんきがくのたいと", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 289", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2006-12-24T00:00:00", "最終更新日": "2015-04-05T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001234/card46340.html", "人物ID": "001234", "姓": "愛知", "名": "敬一", "姓読み": "あいち", "名読み": "けいいち", "姓読みソート用": "あいち", "名読みソート用": "けいいち", "姓ローマ字": "Aichi", "名ローマ字": "Keiichi", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1880-07-25", "没年月日": "1923-06-23", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "ファラデーの傳", "底本出版社名1": "岩波書店", "底本初版発行年1": "1923(大正12)年5月15日", "入力に使用した版1": "1923(大正12)年5月15日第1版", "校正に使用した版1": "1923(大正12)年5月15日第1版", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "松本吉彦、松本庄八", "校正者": "小林繁雄", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001234/files/46340_ruby_24806.zip", "テキストファイル最終更新日": "2015-04-05T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "4", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/001234/files/46340_24939.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2015-04-05T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "4" }
[ [ "うん。", "元気がないね。", "うん。", "いつもそんなに黙つてゐるのか。", "うん。", "何とか云へよ。" ], [ "この萩軒は古くからある店である。この室では、絵が壁と共に古びてゐる。テーブルは落ちついた光沢を持ち、数世紀以来の人の世の変転が、実にこの光沢の中に知らない間に捉へられてゐる。見よ。まなこを大にして。その光沢を見つめよ。そして数世紀来の人間歴史の苦悶の叫びを感ぜよ。卒然として来り我等を茫莫のうちに残すもの、ああ……咏歎の星河、燦々の星河、極みなき……。", "それから?", "それから……何だ。", "知らんよ、そんなこと。", "どうかしてやしないか。", "誰が。", "ぼくが。", "してるかも知れん。今の様子だと。", "今日はすこしへんなのだ。", "気候に対する順応性に欠けてるのだよ、君は。天気が変るとへんになる。", "うん、さうかも知れんな。……君は旅をして来たんだらう。どうだつた。", "別に云ふことはない。すこし、くたびれた。", "それだけか。", "それだけだ。", "今日はいい天気だね。", "気がついたか。僕は前から気がついてるんだぜ。風が吹いてね、いやな雲をさあつと吹き払つちやつたんだ。ほら、あの優しくつて力の強い風の神様が乗つてゐたんだよ、きつと。さうするとね、蒼空がすつかり拡がつて、もうそりやきれいの何のつて、僕思はず見とれちやつたくらゐさ。おてんとさまがその真中できらり〳〵と……これはすこしをかしいね? ぴかり〳〵と……これはもつとをかしいや……きら〳〵と……ぎら〳〵と……ぎろ〳〵と……ぎよ〳〵と……だめだ、何て云つていいんだかわかんないや……とにかくとても明るく輝いてゐるんだ。ぼかあ、その時、いい天気だなつて思つてゐたんだよ。その時、すぐと気がついたんだよ。君なんかやつと今、気がついたんだね。", "何を云つてゐるのだい。あほらしい。", "君のさつきのテーブルの光沢の方がよつぽどあほらしい。", "僕はどうかしてるんだよ。君はどうもしてやしない。万才はもう止めよう。", "何しろ、君もたまには旅行したまへ。", "旅行はいいな。", "君は人生にむづかしい理屈をつけすぎる。", "怒るな。", "怒つてやしない。", "さうか。", "何だい。", "何が。", "君の云ひつぷりが。" ], [ "人生論なんか考へるからだよ。", "別に考へてやしない。", "考へたがつてゐる。", "うゝむ。", "むづかしいことさ。", "何が。", "いろんなことが。", "これぢや話になりやしない。", "へんな会話だね。", "うん。", "とにかく旅行して見たまへ。槍ヶ岳のてつぺんで天と地を見較べると面白い。", "こはいだらう。", "すこしこはい。", "何故。", "自分が小さ過ぎるからだよ。又は自然が大き過ぎるのさ。だん〳〵こはくなる。恐らく自分が汚な過ぎるんだ。その場から逃げ出したくなる。", "逃げ出したか。", "逃げ出した。", "だけど……平凡だね。自分が汚な過ぎるつてこと。", "平凡だね。僕は非凡なことを感じる力はない。自分に関する事は、僕には凡だか非凡だか分らない。……もう止さう、こんな話。", "うん。", "ちよつと、用事を思ひ出した。そのうち、君の家へ行かう。" ], [ "ちよつと休みに寄つたの。通りへ出ませう。おくれちやふわ。あなたお疲れ? そんなら構ひませんけど。", "いや、僕は充分休んだ。", "嘘つき。", "え?", "あなた、今いらしたばかりぢやないの。", "あ、さうか。", "へんな方ね。……これからお休みになるんでせう。", "いや、もういいんです。", "だつて。", "いいんですよ。", "あなた、今日、すこしどうかしてらつしやるわ。", "さうですか。", "さうですわよ。", "あなたにはとても敵はない。", "何が敵はないんですの?", "わあ、とても敵はない。……いや、そのね、会話の才に於て敵はないんですよ。", "さうぢやないわ。あなたが今日すこしどうかしていらつしやるからよ。" ], [ "とにかく、歩きませう。時間が無駄です。僕は休みに来たんではないからちつともかまはない。", "ええ。" ], [ "……しました。", "さつき弘さんにお会ひしたのよ。", "ああ、さうですか。", "なんだか話してて張合がないやうですわね。", "同感です。", "あら、未だなほらないわ。どうしませう。", "何がです。僕のこと? とぼけてゐるつてことですか。", "ええ。", "そんなら心配はない。もうぢきなほります。このまゝずつと続くことは決してない。大丈夫です。", "まあ。" ], [ "いや、僕の今の状態は、ほんの一時的なものですよ。もつとも一時的でなかつたら、かうしちや居られないけれど。", "勉強のやり過ぎが毒でないといふ証明にはなりませんわ。", "勉強のやり過ぎだけぢやないんですよ。", "喧嘩なさつたからでせう?", "ええ……まあ。……おやつ、そのこと、どうして知つてるんです。", "さつき云つたぢやありませんか……ほんとにどうなさつたの?", "どうも忘れつぽくていかん。とにかく、あれがあなたに云つたんですね。", "ええ。今兄貴と喧嘩してゐる、つて。", "ちえつ、よけいなことを……。", "あら、何だか御自分がお悪いやうですわね。", "いや、悪いのは弟です。", "何故弘さんにお怒りになつたの。", "然るべき理由があつたからです。女の関はる問題ではない。", "ひどいこと。", "ひどくないです、ちつとも。僕と弟との喧嘩に、他の人が関はる必要はありません。", "関つてますわ。", "どうして。", "弘さんがすつかりお話しになつてよ。", "すつかり?", "僕もたしかに金を使ひ過ぎたんだけど、兄貴が考へてるほどぢやないんだ、ですつて。", "それは嘘だ。", "それでね、若し今兄貴が思つてゐる程、金を使つたんなら、あんなに怒るのも当然だらうが、そんなに僕は使やしなくて、兄貴が何か思ひ違ひをしてるんだ。……", "ちよ、ちよつと……", "まあ、お待ちになつて。それから……兄貴は一度怒ると理性を失つちやつて、いや、理性はあり過ぎる程あるんだけれど、それを統御する力を失つちやつて……とかむづかしいことをおつしやつてたわ……とにかく、前後の見境がなくなつて、いくらほんとのことを云つてもてんで分らないから、逆にうんと怒らせといて、こつちは知らん顔をしてゐる、そのうちにその或るポイントを捕へて話し合ひをやる。すると、分つて呉れる。不思議なもので、こつちの云ふことがとてもよくわかつてもらへる。――けれどその『或るポイント』つてやつを押へるのがむづかしいので、なか〳〵技術の要ることなんだ。ですつて。", "ほう。ほう。或ひはさうかも知れない。", "感心していらつしやるわね。", "感心した。", "あら。……一体弘さんはあなたがお思ひになつていらつしやる程お金をお使ひになつたんですの?", "知らない。", "だつて、そのことで怒つてらつしやるんでせう?", "さうです。", "さうでせう?", "さうですよ。だから僕が間違つてゐたのかも知れない、といふことです。", "いやにおとなしくおなりですこと。", "笑つちやいけません。実際、あなたを経て話を聞くと、みんな尤もらしく思へる。僕には。", "それぢや、弘さんのおつしやつたこと本当?", "本当でせう。", "それなら、お怒りになつて、ぼうつとなさつてらつしやる必要もありませんわね。", "誰が。", "あなたが。", "僕は別に怒る必要はない、つてことになりますな。", "それぢやもう弘さんを赦しておあげになつてもいいですわね。", "変ですなあ。僕は弟のやつをもうすこし叱つてやらなければならん、と思つてゐたんですがね。", "さつき怒る原因はない、とお認めになつたぢやありませんか。", "認めました。", "ぢやあもういいですわね。" ], [ "相変らずぢやありませんこと。", "よくなりましたよ。不思議に。さつき……あなたの涙を見たとき。" ], [ "ほんとに、僕帰りますよ。", "ええ、わたしも帰りますわ。何だか一降り来さうですわね。", "降りますね。今日はいい天気過ぎたかな。ぢやあ……さよなら。", "さやうなら。弘さんによろしくね。", "ええ。" ], [ "おまへ、ひどいことをしたな。戸に鍵をかけて、一人で外出したりして。", "わるかつた。あやまります。", "おれはもう怒らん。実は良子さんに会つたんだ。あのひとは、おまへに会つたと云つてゐた。", "ええ、会ひました。", "そして、おまへがあのひとに云つたことを、みんな聞いて来た。", "彼女は正直ですからね。", "なんだか、おれがおまへを誤解してるつて話だつたが。", "ええ、兄さんは僕を誤解してます。" ], [ "誤解してるならそれでいい。改めよう。たゞし、何処で何故誤解したか、そんなことは面倒くさいから考へない。実際今日は疲れたよ。そのくせ、あんまり不快にもならなかつた。坂谷と、良子さんに会つたからかも知れない。", "兄さんとしては珍らしいな。", "うん。珍らしいね。", "良子さん、何か他のこと云つてましたか。", "いいや。……" ] ]
底本:「新潮 第百四巻第七号」新潮社    2007(平成19)年7月1日 ※本文末の編集部注は省略しました。 ※底本のテキストは、著者自筆稿によります。 入力:フクポー 校正:The Creative CAT 2020年10月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "060159", "作品名": "四人", "作品名読み": "よにん", "ソート用読み": "よにん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2020-11-08T00:00:00", "最終更新日": "2020-10-28T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/002132/card60159.html", "人物ID": "002132", "姓": "芥川", "名": "多加志", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "たかし", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "たかし", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Takashi", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1922-11-08", "没年月日": "1945-04-13", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "新潮 第百四巻第七号", "底本出版社名1": "新潮社", "底本初版発行年1": "2007(平成19)年7月1日", "入力に使用した版1": "2007(平成19)年7月1日", "校正に使用した版1": "2007(平成19)年7月1日", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "フクポー", "校正者": "The Creative CAT", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/002132/files/60159_ruby_72068.zip", "テキストファイル最終更新日": "2020-10-28T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/002132/files/60159_72109.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2020-10-28T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "この頃は折角見て上げても、御礼さへ碌にしない人が、多くなつて来ましたからね。", "そりや勿論御礼をするよ。" ], [ "こんなに沢山頂いては、反つて御気の毒ですね。――さうして一体又あなたは、何を占つてくれろとおつしやるんです?", "私が見て貰ひたいのは、――" ], [ "一体日米戦争はいつあるかといふことなんだ。それさへちやんとわかつてゐれば、我々商人は忽ちの内に、大金儲けが出来るからね。", "ぢや明日いらつしやい。それまでに占つて置いて上げますから。", "さうか。ぢや間違ひのないやうに、――" ], [ "今夜ですか?", "今夜の十二時。好いかえ? 忘れちやいけないよ。" ], [ "まあ、待つてくれ。さうしてその婆さんは、何を商売にしてゐるんだ?", "占ひ者です。が、この近所の噂ぢや、何でも魔法さへ使ふさうです。まあ、命が大事だつたら、あの婆さんの所なぞへは行かない方が好いやうですよ。" ], [ "さうです。", "ぢや私の用なぞは、聞かなくてもわかつてゐるぢやないか? 私も一つお前さんの占ひを見て貰ひにやつて来たんだ。", "何を見て上げるんですえ?" ], [ "お前さんは何を言ふんだえ? 私はそんな御嬢さんなんぞは、顔を見たこともありやしないよ。", "嘘をつけ。今その窓から外を見てゐたのは、確に御嬢さんの妙子さんだ。" ], [ "それでもまだ剛情を張るんなら、あすこにゐる支那人をつれて来い。", "あれは私の貰ひ子だよ。" ], [ "ここは私の家だよ。見ず知らずのお前さんなんぞに、奥へはひられてたまるものか。", "退け。退かないと射殺すぞ。" ], [ "遠藤さん?", "さうです。遠藤です。もう大丈夫ですから、御安心なさい。さあ、早く逃げませう。" ], [ "計略は駄目だつたわ。つい私が眠つてしまつたものだから、――堪忍して頂戴よ。", "計略が露顕したのは、あなたのせゐぢやありませんよ。あなたは私と約束した通り、アグニの神の憑つた真似をやり了せたぢやありませんか?――そんなことはどうでも好いことです。さあ、早く御逃げなさい。" ], [ "計略は駄目だつたわ。とても私は逃げられなくてよ。", "そんなことがあるものですか。私と一しよにいらつしやい。今度しくじつたら大変です。", "だつてお婆さんがゐるでせう?", "お婆さん。" ], [ "お婆さんはどうして?", "死んでゐます。" ] ]
底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月11日公開 2004年2月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000015", "作品名": "アグニの神", "作品名読み": "アグニのかみ", "ソート用読み": "あくにのかみ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「赤い鳥」1921(大正10)年1、2月", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card15.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文學大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/15_ruby_904.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-02-09T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/15_14583.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-02-09T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "この頃は折角見て上げても、御礼さえ碌にしない人が、多くなって来ましたからね", "そりゃ勿論御礼をするよ" ], [ "こんなに沢山頂いては、反って御気の毒ですね。――そうして一体又あなたは、何を占ってくれろとおっしゃるんです?", "私が見て貰いたいのは、――" ], [ "一体日米戦争はいつあるかということなんだ。それさえちゃんとわかっていれば、我々商人は忽ちの内に、大金儲けが出来るからね", "じゃ明日いらっしゃい。それまでに占って置いて上げますから", "そうか。じゃ間違いのないように、――" ], [ "今夜ですか?", "今夜の十二時。好いかえ? 忘れちゃいけないよ" ], [ "まあ、待ってくれ。そうしてその婆さんは、何を商売にしているんだ?", "占い者です。が、この近所の噂じゃ、何でも魔法さえ使うそうです。まあ、命が大事だったら、あの婆さんの所なぞへは行かない方が好いようですよ" ], [ "そうです", "じゃ私の用なぞは、聞かなくてもわかっているじゃないか? 私も一つお前さんの占いを見て貰いにやって来たんだ", "何を見て上げるんですえ?" ], [ "お前さんは何を言うんだえ? 私はそんな御嬢さんなんぞは、顔を見たこともありゃしないよ", "嘘をつけ。今その窓から外を見ていたのは、確に御嬢さんの妙子さんだ" ], [ "それでもまだ剛情を張るんなら、あすこにいる支那人をつれて来い", "あれは私の貰い子だよ" ], [ "ここは私の家だよ。見ず知らずのお前さんなんぞに、奥へはいられてたまるものか", "退け。退かないと射殺すぞ" ], [ "遠藤さん?", "そうです。遠藤です。もう大丈夫ですから、御安心なさい。さあ、早く逃げましょう" ], [ "計略は駄目だったわ。つい私が眠ってしまったものだから、――堪忍して頂戴よ", "計略が露顕したのは、あなたのせいじゃありませんよ。あなたは私と約束した通り、アグニの神の憑った真似をやり了せたじゃありませんか?――そんなことはどうでも好いことです。さあ、早く御逃げなさい" ], [ "計略は駄目だったわ。とても私は逃げられなくってよ", "そんなことがあるものですか。私と一しょにいらっしゃい。今度しくじったら大変です", "だってお婆さんがいるでしょう?", "お婆さん?" ], [ "お婆さんはどうして?", "死んでいます" ] ]
底本:「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社    1968(昭和43)年11月15日発行    1989(平成元)年5月30日46刷 入力:蒋龍 校正:noriko saito 2005年1月7日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043014", "作品名": "アグニの神", "作品名読み": "アグニのかみ", "ソート用読み": "あくにのかみ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「赤い鳥」1921(大正10)年1月、2月", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2005-02-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card43014.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "蜘蛛の糸・杜子春", "底本出版社名1": "新潮文庫、新潮社", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年11月15日", "入力に使用した版1": "1989(平成元)年5月30日46刷", "校正に使用した版1": "2004(平成16)年6月5日67刷", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "蒋龍", "校正者": "noriko saito", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/43014_ruby_17392.zip", "テキストファイル最終更新日": "2005-01-07T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/43014_17430.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2005-01-07T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "目金を買っておかけなさい。お父さんを見付るには目金をかけるのに限りますからね。", "僕の目は病気ではないよ。" ], [ "わたしの美しさを御覧なさい。", "だってお前は造花じゃないか?" ], [ "坊ちゃん、スウェエタアを一つお買いなさい。", "僕は帽子さえ買えないんだよ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年4月20日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000021", "作品名": "浅草公園", "作品名読み": "あさくさこうえん", "ソート用読み": "あさくさこうえん", "副題": "或シナリオ", "副題読み": "あるシナリオ", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 912", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card21.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集6", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年3月24日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年2月25日第6刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/21_ruby_1427.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/21_15157.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "貰ふのは気の毒だ。ぢや朝日を一つくれ給へ。", "何、かまひません。お持ちなさい。", "いや、まあ朝日をくれ給へ。", "お持ちなさい。これでよろしけりや、――入らぬ物をお買ひになるには及ばないです。" ], [ "ぢやそのマツチを二つくれ給へ。", "二つでも三つでもお持ちなさい。ですが代は入りません。" ], [ "朝日を二つくれ給へ。", "はい。" ], [ "朝日を、――こりや朝日ぢやない。", "あら、ほんたうに。――どうもすみません。" ], [ "ええ、あれもココアです。", "ぢやこればかりぢやないぢやないか?", "ええ、でもまあこれだけなんです。――お上さん、ココアはこれだけですね?" ], [ "はあ、それだけだつたと思ふけれども。", "実は、この Fry のココアの中には時々虫が湧いてゐるんだが、――" ], [ "そつちにもまだありやしないかい? ああ、その後ろの戸棚の中にも。", "赤いのばかりです。此処にあるのも。", "ぢやこつちには?" ], [ "さつきね、あなた、ゼンマイ珈琲とかつてお客があつたんですがね、ゼンマイ珈琲つてあるんですか?", "ゼンマイ珈琲?" ], [ "玄米珈琲の聞き違へだらう。", "ゲンマイ珈琲? ああ、玄米から拵へた珈琲。――何だか可笑しいと思つてゐた。ゼンマイつて八百屋にあるものでせう?" ] ]
底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月16日公開 2004年2月12日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000014", "作品名": "あばばばば", "作品名読み": "あばばばば", "ソート用読み": "あはははは", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1923(大正12)年12月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-16T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card14.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文學大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/14_ruby_1261.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-02-12T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/14_14602.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-02-12T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "鴉片煙とは何物ぞ?", "方今承平日に久しく、人口過剰に苦しんでゐる。宜しく大劫の銷除する有るべし。元来大劫なるものは水火刀兵の災に過ぐるものはない。この劫に遇ふものは賢愚倶に滅びてしまふ。福善禍淫の説も往往此に至つて窮まるものである。そこで天帝は諸神の会議を召集し、特に鴉片煙劫を創めることにした。鴉片煙劫とは世間の罌粟の花汁を借り、熬錬して膏と成し、人の吸食に任ずるものである。この煙を食ふものは劫中に在り、この煙を食はざるものは劫中に在らず。その人の自ら取るに任かせて造物の不仁を咎めさせないのである。この劫有りて以て人口過剰の数を銷除すれば、則ち水火刀兵の諸劫は十の五六を減ずるであらう。けれどもこの罌粟と云ふものは草花に属するものであり、古来世間には多いものである。その又汁も淡薄であるから、熬して膏とすることは出来ない。故に九幽の主に命じ、無間地獄中に不忠不孝無礼義破廉恥諸罪の魂を選び取つてこの間に録送し、膏血を搾取して地上山陵原隰墳衍の神に転付し、この膏血をして罌粟の花根内に灌ぎ入らしめ、根よりして上は花苞に達せしむれば、則ちその汁も自然に濃郁にして、一たび熬錬を経れば、光色黝然たらん。子試みに之を識れ。数十年の後、この煙天下に遍からん。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集 第十三巻」岩波書店    1996(平成8)年11月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:林 幸雄 2002年1月26日公開 2004年3月17日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "001138", "作品名": "鴉片", "作品名読み": "アヘン", "ソート用読み": "あへん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「世界」1926(大正15)年11月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1138.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集 第十三巻", "底本出版社名1": "岩波書店", "底本初版発行年1": "1996(平成8)年11月8日", "入力に使用した版1": "", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "もりみつじゅんじ", "校正者": "林幸雄", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/1138_ruby_6111.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-17T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "1", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/1138_15285.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-17T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "けふは半日自動車に乗つてゐた。", "何か用があつたのですか?" ], [ "君たちはまだ生活慾を盛に持つてゐるだらうね?", "ええ、――だつてあなたでも……", "ところが僕は持つてゐないんだよ。制作慾だけは持つてゐるけれども。" ], [ "あの子はあなたに似てゐやしない?", "似てゐません。第一……", "だつて胎教と云ふこともあるでせう。" ], [ "君はまだ独身だつたね。", "いや、もう来月結婚する。" ], [ "あすこに船が一つ見えるね?", "ええ。", "檣の二つに折れた船が。" ], [ "死にたがつていらつしやるのですつてね。", "ええ。――いえ、死にたがつてゐるよりも生きることに飽きてゐるのです。" ], [ "プラトニツク・スウイサイドですね。", "ダブル・プラトニツク・スウイサイド。" ] ]
底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:細渕紀子 1998年4月23日公開 2005年12月2日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "今日は余程暖いようですな。", "さようでございます。こうして居りましても、どうかすると、あまり暖いので、睡気がさしそうでなりません。" ], [ "やはり本意を遂げたと云う、気のゆるみがあるのでございましょう。", "さようさ。それもありましょう。" ], [ "こう云うのどかな日を送る事があろうとは、お互に思いがけなかった事ですからな。", "さようでございます。手前も二度と、春に逢おうなどとは、夢にも存じませんでした。", "我々は、よくよく運のよいものと見えますな。" ], [ "今日の当番は、伝右衛門殿ですから、それで余計話がはずむのでしょう。片岡なども、今し方あちらへ参って、そのまま坐りこんでしまいました。", "道理こそ、遅いと思いましたよ。" ], [ "何か面白い話でもありましたか。", "いえ。不相変の無駄話ばかりでございます。もっとも先刻、近松が甚三郎の話を致した時には、伝右衛門殿なぞも、眼に涙をためて、聞いて居られましたが、そのほかは――いや、そう云えば、面白い話がございました。我々が吉良殿を討取って以来、江戸中に何かと仇討じみた事が流行るそうでございます。", "ははあ、それは思いもよりませんな。" ], [ "それはまた乱暴至極ですな。", "職人の方は、大怪我をしたようです。それでも、近所の評判は、その丁稚の方が好いと云うのだから、不思議でしょう。そのほかまだその通町三丁目にも一つ、新麹町の二丁目にも一つ、それから、もう一つはどこでしたかな。とにかく、諸方にあるそうです。それが皆、我々の真似だそうだから、可笑しいじゃありませんか。" ], [ "いや、そう云う訳ではございませんが、何かとあちらの方々に引とめられて、ついそのまま、話しこんでしまうのでございます。", "今も承れば、大分面白い話が出たようでございますな。" ], [ "面白い話――と申しますと……", "江戸中で仇討の真似事が流行ると云う、あの話でございます。" ], [ "彼奴等は皆、揃いも揃った人畜生ばかりですな。一人として、武士の風上にも置けるような奴は居りません。", "さようさ。それも高田群兵衛などになると、畜生より劣っていますて。" ], [ "引き上げの朝、彼奴に遇った時には、唾を吐きかけても飽き足らぬと思いました。何しろのめのめと我々の前へ面をさらした上に、御本望を遂げられ、大慶の至りなどと云うのですからな。", "高田も高田じゃが、小山田庄左衛門などもしようのないたわけ者じゃ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:野口英司 校正:もりみつじゅんじ 1997年11月17日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000122", "作品名": "或日の大石内蔵助", "作品名読み": "あるひのおおいしくらのすけ", "ソート用読み": "あるひのおおいしくらのすけ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1917(大正6)年9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1997-11-17T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card122.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集2", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年10月28日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第11刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "野口英司", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/122_ruby_172.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/122_15159.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "医科の和田といった日には、柔道の選手で、賄征伐の大将で、リヴィングストンの崇拝家で、寒中一重物で通した男で、――一言にいえば豪傑だったじゃないか? それが君、芸者を知っているんだ。しかも柳橋の小えんという、――", "君はこの頃河岸を変えたのかい?" ], [ "河岸を変えた? なぜ?", "君がつれて行った時なんだろう、和田がその芸者に遇ったというのは?", "早まっちゃいけない。誰が和田なんぞをつれて行くもんか。――" ], [ "あれは先月の幾日だったかな? 何でも月曜か火曜だったがね。久しぶりに和田と顔を合せると、浅草へ行こうというじゃないか? 浅草はあんまりぞっとしないが、親愛なる旧友のいう事だから、僕も素直に賛成してさ。真っ昼間六区へ出かけたんだ。――", "すると活動写真の中にでもい合せたのか?" ], [ "活動写真ならばまだ好いが、メリイ・ゴオ・ラウンドと来ているんだ。おまけに二人とも木馬の上へ、ちゃんと跨っていたんだからな。今考えても莫迦莫迦しい次第さ。しかしそれも僕の発議じゃない。あんまり和田が乗りたがるから、おつき合いにちょいと乗って見たんだ。――だがあいつは楽じゃないぜ。野口のような胃弱は乗らないが好い。", "子供じゃあるまいし。木馬になんぞ乗るやつがあるもんか?" ], [ "和田の乗ったのは白い木馬、僕の乗ったのは赤い木馬なんだが、楽隊と一しょにまわり出された時には、どうなる事かと思ったね。尻は躍るし、目はまわるし、振り落されないだけが見っけものなんだ。が、その中でも目についたのは、欄干の外の見物の間に、芸者らしい女が交っている。色の蒼白い、目の沾んだ、どこか妙な憂鬱な、――", "それだけわかっていれば大丈夫だ。目がまわったも怪しいもんだぜ。" ], [ "二度目もやはり同じ事さ。また女がにっこりする。と思うと見えなくなる。跡はただ前後左右に、木馬が跳ねたり、馬車が躍ったり、然らずんば喇叭がぶかぶかいったり、太鼓がどんどん鳴っているだけなんだ。――僕はつらつらそう思ったね。これは人生の象徴だ。我々は皆同じように実生活の木馬に乗せられているから、時たま『幸福』にめぐり遇っても、掴まえない内にすれ違ってしまう。もし『幸福』を掴まえる気ならば、一思いに木馬を飛び下りるが好い。――", "まさかほんとうに飛び下りはしまいな?" ], [ "冗談いっちゃいけない。哲学は哲学、人生は人生さ。――所がそんな事を考えている内に、三度目になったと思い給え。その時ふと気がついて見ると、――これには僕も驚いたね。あの女が笑顔を見せていたのは、残念ながら僕にじゃない。賄征伐の大将、リヴィングストンの崇拝家、ETC. ETC. ……ドクタア和田長平にだったんだ。", "しかしまあ哲学通りに、飛び下りなかっただけ仕合せだったよ。" ], [ "和田のやつも女の前へ来ると、きっと嬉しそうに御時宜をしている。それがまたこう及び腰に、白い木馬に跨ったまま、ネクタイだけ前へぶらさげてね。――", "嘘をつけ。" ], [ "何、嘘なんぞつくもんか。――が、その時はまだ好いんだ。いよいよメリイ・ゴオ・ラウンドを出たとなると、和田は僕も忘れたように、女とばかりしゃべっているじゃないか? 女も先生先生といっている。埋まらない役まわりは僕一人さ。――", "なるほど、これは珍談だな。――おい、君、こうなればもう今夜の会費は、そっくり君に持って貰うぜ。" ], [ "誰だい、その友だちというのは?", "若槻という実業家だが、――この中でも誰か知っていはしないか? 慶応か何か卒業してから、今じゃ自分の銀行へ出ている、年配も我々と同じくらいの男だ。色の白い、優しい目をした、短い髭を生やしている、――そうさな、まあ一言にいえば、風流愛すべき好男子だろう。", "若槻峯太郎、俳号は青蓋じゃないか?" ], [ "そうだ。青蓋句集というのを出している、――あの男が小えんの檀那なんだ。いや、二月ほど前までは檀那だったんだ。今じゃ全然手を切っているが、――", "へええ、じゃあの若槻という人は、――", "僕の中学時代の同窓なんだ。", "これはいよいよ穏かじゃない。" ], [ "君は我々が知らない間に、その中学時代の同窓なるものと、花を折り柳に攀じ、――", "莫迦をいえ。僕があの女に会ったのは、大学病院へやって来た時に、若槻にもちょいと頼まれていたから、便宜を図ってやっただけなんだ。蓄膿症か何かの手術だったが、――" ], [ "しかしあの女は面白いやつだ。", "惚れたかね?" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月10日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000057", "作品名": "一夕話", "作品名読み": "いっせきわ", "ソート用読み": "いつせきわ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1922(大正11)年7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card57.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/57_ruby_1172.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/57_15160.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "今度飛鳥の大臣様の御姫様が御二方、どうやら鬼神のたぐいにでもさらわれたと見えて、一晩の中に御行方が知れなくなった。", "大臣様は大そうな御心配で、誰でも御姫様を探し出して来たものには、厚い御褒美を下さると云う仰せだから、それで我々二人も、御行方を尋ねて歩いているのだ。" ], [ "わん。わん。土蜘蛛の畜生め。", "憎いやつだ。わん。わん。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月7日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000056", "作品名": "犬と笛", "作品名読み": "いぬとふえ", "ソート用読み": "いぬとふえ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「赤い鳥」1919(大正8)年1、2月", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-07T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card56.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集2", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年10月28日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)7月15日第11刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)7月15日第11刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/56_ruby_845.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/56_15161.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "おいやかな。", "……", "どうぢや。", "……" ], [ "すぐ、そこぢや。お案じになる程遠くはない。", "すると、粟田口辺でござるかな。", "まづ、さう思はれたがよろしからう。" ], [ "粟田口では、ござらぬのう。", "いかにも、もそつと、あなたでな。" ], [ "では、山科辺ででもござるかな。", "山科は、これぢや。もそつと、さきでござるよ。" ], [ "やはり、あの狐が、使者を勤めたと見えますのう。", "生得、変化ある獣ぢやて、あの位の用を勤めるのは、何でもござらぬ。" ], [ "それも唯、仰せられるのではございませぬ。さも、恐ろしさうに、わなわなとお震へになりましてな、『遅れまいぞ。遅れれば、おのれが、殿の御勘当をうけねばならぬ。』と、しつきりなしに、お泣きになるのでございまする。", "して、それから、如何した。", "それから、多愛なく、お休みになりましてな。手前共の出て参りまする時にも、まだ、お眼覚にはならぬやうで、ございました。" ] ]
底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 初出:「新小説」    1916(大正5)年9月 入力:j.utiyama 校正:吉田亜津美 1999年5月29日公開 2013年4月28日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000055", "作品名": "芋粥", "作品名読み": "いもがゆ", "ソート用読み": "いもかゆ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1916(大正5)年9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-05-29T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card55.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文學大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "吉田亜津美", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/55_ruby_1843.zip", "テキストファイル最終更新日": "2013-04-28T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "6", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/55_14824.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2013-04-28T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "1" }
[ [ "どうしましょう? 人違いですが。", "困る。実に困る。第一革命以来一度もないことだ。" ], [ "とにかく早く返してやり給え。", "君は――ええ、忍野君ですね。ちょっと待って下さいよ。" ], [ "駄目です。忍野半三郎君は三日前に死んでいます。", "三日前に死んでいる?", "しかも脚は腐っています。両脚とも腿から腐っています。" ], [ "これは君の責任だ。好いかね。君の責任だ。早速上申書を出さなければならん。そこでだ。そこでヘンリイ・バレットは現在どこに行っているかね?", "今調べたところによると、急に漢口へ出かけたようです。", "では漢口へ電報を打ってヘンリイ・バレットの脚を取り寄せよう。", "いや、それは駄目でしょう。漢口から脚の来るうちには忍野君の胴が腐ってしまいます。", "困る。実に困る。" ], [ "これは君の責任だ。早速上申書を出さなければならん。生憎乗客は残っていまいね?", "ええ、一時間ばかり前に立ってしまいました。もっとも馬ならば一匹いますが。", "どこの馬かね?", "徳勝門外の馬市の馬です。今しがた死んだばかりですから。", "じゃその馬の脚をつけよう。馬の脚でもないよりは好い。ちょっと脚だけ持って来給え。" ], [ "あなた、あなた、どうしてそんなに震えていらっしゃるんです?", "何でもない。何でもないよ。", "だってこんなに汗をかいて、――この夏は内地へ帰りましょうよ。ねえ、あなた、久しぶりに内地へ帰りましょうよ。", "うん、内地へ帰ることにしよう。内地へ帰って暮らすことにしよう。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000174", "作品名": "馬の脚", "作品名読み": "うまのあし", "ソート用読み": "うまのあし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1925(大正14)年1、2月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card174.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/174_ruby_1111.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/174_15163.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "哀れっぽい声を出したって駄目だよ。また君、金のことだろう?", "いいえ、金のことじゃありません。ただわたしの友だちに会わせたい女があるんですが、……" ], [ "泳げるかな?", "きょうは少し寒いかも知れない。" ], [ "おい、はいる気かい?", "だってせっかく来たんじゃないか?" ], [ "君もはいれよ。", "僕は厭だ。", "へん、『嫣然』がいりゃはいるだろう。", "莫迦を言え。" ], [ "どうしてもはいらないか?", "どうしてもはいらない。", "イゴイストめ!" ], [ "どこを?", "頸のまわりを。やられたなと思ってまわりを見ると、何匹も水の中に浮いているんだ。", "だから僕ははいらなかったんだ。", "譃をつけ。――だがもう海水浴もおしまいだな。" ], [ "まだだ。君は?", "僕か? 僕は……" ], [ "どうだ、もう一ぺんはいって来ちゃ?", "あいつ一人ならばはいって来るがな。何しろ『ジンゲジ』も一しょじゃ、……" ], [ "そこを彼女のためにはいって来いよ。", "ふん、犠牲的精神を発揮してか?――だがあいつも見られていることはちゃんと意識しているんだからな。", "意識していたって好いじゃないか。", "いや、どうも少し癪だね。" ], [ "感心に中々勇敢だな。", "まだ背は立っている。", "もう――いや、まだ立っているな。" ], [ "水母かな?", "水母かも知れない。" ], [ "魚のこともHさんはわたしよりはずっと詳しいんです。", "へええ、Hはそんなに学者かね。僕はまた知っているのは剣術ばかりかと思っていた。" ], [ "Mさん、あなたも何かやるでしょう?", "僕? 僕はまあ泳ぎだけですね。" ], [ "海蛇か? 海蛇はほんとうにこの海にもいるさ。", "今頃もか?", "何、滅多にゃいないんだ。" ], [ "ええ、全くやり切れませんよ。何しろ沖へ泳いで行っちゃ、何度も海の底へ潜るんですからね。", "おまけに澪に流されたら、十中八九は助からないんだよ。" ], [ "そら、Hさん、ありゃいつでしたかね、ながらみ取りの幽霊が出るって言ったのは?", "去年――いや、おととしの秋だ。", "ほんとうに出たの?" ], [ "幽霊じゃなかったんです。しかし幽霊が出るって言ったのは磯っ臭い山のかげの卵塔場でしたし、おまけにそのまたながらみ取りの死骸は蝦だらけになって上ったもんですから、誰でも始めのうちは真に受けなかったにしろ、気味悪がっていたことだけは確かなんです。そのうちに海軍の兵曹上りの男が宵のうちから卵塔場に張りこんでいて、とうとう幽霊を見とどけたんですがね。とっつかまえて見りゃ何のことはない。ただそのながらみ取りと夫婦約束をしていたこの町の達磨茶屋の女だったんです。それでも一時は火が燃えるの人を呼ぶ声が聞えるのって、ずいぶん大騒ぎをしたもんですよ。", "じゃ別段その女は人を嚇かす気で来ていたんじゃないの?", "ええ、ただ毎晩十二時前後にながらみ取りの墓の前へ来ちゃ、ぼんやり立っていただけなんです。" ], [ "じゃ失敬。", "さようなら。" ], [ "何だ?", "僕等ももう東京へ引き上げようか?", "うん、引き上げるのも悪くはないな。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第三巻」筑摩書房    1971(昭和46)年 初出:「中央公論」    1925(大正14)年9月 入力:j.utiyama 校正:大野晋 1999年1月7日公開 2014年8月26日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "不相変、観音様へ参詣する人が多いようだね。", "左様でございます。" ], [ "私も一つ、日参でもして見ようか。こう、うだつが上らなくちゃ、やりきれない。", "御冗談で。", "なに、これで善い運が授かるとなれば、私だって、信心をするよ。日参をしたって、参籠をしたって、そうとすれば、安いものだからね。つまり、神仏を相手に、一商売をするようなものさ。" ], [ "お爺さんなんぞも、この年までには、随分いろんな事を見たり聞いたりしたろうね。どうだい。観音様は、ほんとうに運を授けて下さるものかね。", "左様でございます。昔は折々、そんな事もあったように聞いて居りますが。", "どんな事があったね。", "どんな事と云って、そう一口には申せませんがな。――しかし、貴方がたは、そんな話をお聞きなすっても、格別面白くもございますまい。", "可哀そうに、これでも少しは信心気のある男なんだぜ。いよいよ運が授かるとなれば、明日にも――", "信心気でございますかな。商売気でございますかな。" ], [ "神仏の御考えなどと申すものは、貴方がたくらいのお年では、中々わからないものでございますよ。", "それはわからなかろうさ。わからないから、お爺さんに聞くんだあね。", "いやさ、神仏が運をお授けになる、ならないと云う事じゃございません。そのお授けになる運の善し悪しと云う事が。", "だって、授けて貰えばわかるじゃないか。善い運だとか、悪い運だとか。", "それが、どうも貴方がたには、ちとおわかりになり兼ねましょうて。", "私には運の善し悪しより、そう云う理窟の方がわからなそうだね。" ], [ "今、西の市で、績麻の鄽を出している女なぞもそうでございますが。", "だから、私はさっきから、お爺さんの話を聞きたがっているじゃないか。" ], [ "死んだおふくろと申すのは、もと白朱社の巫子で、一しきりは大そう流行ったものでございますが、狐を使うと云う噂を立てられてからは、めっきり人も来なくなってしまったようでございます。これがまた、白あばたの、年に似合わず水々しい、大がらな婆さんでございましてな、何さま、あの容子じゃ、狐どころか男でも……", "おふくろの話よりは、その娘の話の方を伺いたいね。", "いや、これは御挨拶で。――そのおふくろが死んだので、後は娘一人の痩せ腕でございますから、いくらかせいでも、暮の立てられようがございませぬ。そこで、あの容貌のよい、利発者の娘が、お籠りをするにも、襤褸故に、あたりへ気がひけると云う始末でございました。", "へえ。そんなに好い女だったかい。", "左様でございます。気だてと云い、顔と云い、手前の欲目では、まずどこへ出しても、恥しくないと思いましたがな。", "惜しい事に、昔さね。" ], [ "はっと思って、眼がさめると、坊主はやっぱり陀羅尼三昧でございます。が、何と云っているのだか、いくら耳を澄ましても、わかりませぬ。その時、何気なく、ひょいと向うを見ると、常夜燈のぼんやりした明りで、観音様の御顔が見えました。日頃拝みなれた、端厳微妙の御顔でございますが、それを見ると、不思議にもまた耳もとで、『その男の云う事を聞くがよい。』と、誰だか云うような気がしたそうでございます。そこで、娘はそれを観音様の御告だと、一図に思いこんでしまいましたげな。", "はてね。" ], [ "その上、相手は、名を訊かれても、名を申しませぬ。所を訊かれても、所を申しませぬ。ただ、云う事を聞けと云うばかりで、坂下の路を北へ北へ、抱きすくめたまま、引きずるようにして、つれて行きます。泣こうにも、喚こうにも、まるで人通りのない時分なのだから、仕方がございませぬ。", "ははあ、それから。", "それから、とうとう八坂寺の塔の中へ、つれこまれて、その晩はそこですごしたそうでございます。――いや、その辺の事なら、何も年よりの手前などが、わざわざ申し上げるまでもございますまい。" ], [ "成程。", "夢の御告げでもないならともかく、娘は、観音様のお思召し通りになるのだと思ったものでございますから、とうとう首を竪にふりました。さて形ばかりの盃事をすませると、まず、当座の用にと云って、塔の奥から出して来てくれたのが綾を十疋に絹を十疋でございます。――この真似ばかりは、いくら貴方にもちとむずかしいかも存じませんな。" ], [ "こっちは八坂寺を出ると、町家の多い所は、さすがに気がさしたと見えて、五条京極辺の知人の家をたずねました。この知人と云うのも、その日暮しの貧乏人なのでございますが、絹の一疋もやったからでございましょう、湯を沸かすやら、粥を煮るやら、いろいろ経営してくれたそうでございます。そこで、娘も漸く、ほっと一息つく事が出来ました。", "私も、やっと安心したよ。" ], [ "しかも、その物盗りと云うのが、昨夜、五条の坂で云いよった、あの男だそうじゃございませぬか。娘はそれを見ると、何故か、涙がこみ上げて来たそうでございます。これは、当人が、手前に話しました――何も、その男に惚れていたの、どうしたのと云う訳じゃない。が、その縄目をうけた姿を見たら、急に自分で、自分がいじらしくなって、思わず泣いてしまったと、まあこう云うのでございますがな。まことにその話を聞いた時には、手前もつくづくそう思いましたよ――", "何とね。", "観音様へ願をかけるのも考え物だとな。", "だが、お爺さん。その女は、それから、どうにかやって行けるようになったのだろう。", "どうにか所か、今では何不自由ない身の上になって居ります。その綾や絹を売ったのを本に致しましてな。観音様も、これだけは、御約束をおちがえになりません。", "それなら、そのくらいな目に遇っても、結構じゃないか。" ], [ "とにかく、その女は仕合せ者だよ。", "御冗談で。", "まったくさ。お爺さんも、そう思うだろう。", "手前でございますか。手前なら、そう云う運はまっぴらでございますな。", "へええ、そうかね。私なら、二つ返事で、授けて頂くがね。", "じゃ観音様を、御信心なさいまし。", "そうそう、明日から私も、お籠でもしようよ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "それは強いことは強いです。何しろ塗山の禹王廟にある石の鼎さえ枉げると云うのですからな。現に今日の戦でもです。私は一時命はないものだと思いました。李佐が殺される、王恒が殺される。その勢いと云ったら、ありません。それは実際、強いことは強いですな。", "ははあ。" ], [ "しかし、英雄の器じゃありません。その証拠は、やはり今日の戦ですな。烏江に追いつめられた時の楚の軍は、たった二十八騎です。雲霞のような味方の大軍に対して、戦った所が、仕方はありません。それに、烏江の亭長は、わざわざ迎えに出て、江東へ舟で渡そうと云ったそうですな。もし項羽に英雄の器があれば、垢を含んでも、烏江を渡るです。そうして捲土重来するです。面目なぞをかまっている場合じゃありません。", "すると、英雄の器と云うのは、勘定に明いと云う事かね。" ], [ "そうかね。項羽はそんな事を云ったかね。", "云ったそうです。" ], [ "弱いじゃないですか。いや、少くとも男らしくないじゃないですか。英雄と云うものは、天と戦うものだろうと思うですが。", "そうさ。", "天命を知っても尚、戦うものだろうと思うですが。", "そうさ。", "すると項羽は――" ] ]
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月7日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "葦原醜男と申します。", "どうしてこの島へやつて来た?", "食物や水が欲しかつたものですから、わざわざ舟をつけたのです。" ], [ "黙つてゐるのは背く気か?", "いいえ。――御父様はどうしてそんな――", "背かない気ならば、云ひ渡す事がある。おれはお前があの若者の妻になる事を許さないぞ。素戔嗚の娘は素戔嗚の目がねにかなつた夫を持たねばならぬ。好いか? これだけの事を忘れるな。" ], [ "あなたが此処にゐる間は、殺されても此処を去らない心算です。", "それでもあなたの御体に、万一の事でもあつた日には――", "ではすぐにも私と一しよに、この島を逃げてくれますか?" ], [ "どうだな。昨夜はよく眠られたかな?", "ええ。御かげでよく眠られました。" ], [ "風があつて都合が悪いが、兎に角どちらの矢が遠く行くか、お前と弓勢を比べて見よう。", "ええ、比べて見ませう。" ], [ "勝負があつたか?", "いいえ――もう一度やつて見ませうか?" ], [ "あの空を見ろ。葦原醜男は今時分――", "存じて居ります。" ], [ "さうか? ではさぞかし悲しからうな?", "悲しうございます。よしんば御父様が御歿くなりなすつても、これ程悲しくございますまい。" ], [ "よく怪我をしなかつたな?", "ええ。全く偶然助かりました。あの火事が燃えて来たのは、丁度私がこの丹塗矢を拾ひ上げた時だつたのです。私は煙の中をくぐりながら、兎も角火のつかない方へ、一生懸命に逃げて行きましたが、いくらあせつて見た所が、到底西風に煽られる火よりも早くは走られません。……" ], [ "そこでもう今度は焼け死ぬに違ひないと、覚悟をきめた時でした。走つてゐる内にどうしたはずみか、急に足もとの土が崩れると、大きな穴の中へ落ちこんだのです。穴の中は最初まつ暗でしたが、縁の枯草が燃えるやうになると、忽ち底まで明くなりました。見ると私のまはりには、何百匹とも知れない野鼠が、土の色も見えない程ひしめき合つてゐるのです……。", "まあ、野鼠でよろしうございました。それが蝮ででもございましたら……" ] ]
底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月17日公開 2004年2月18日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "お前も悪魔に見入られたのか? 天主のおん教を捨てたければ、勝手にお前だけ捨てるが好い。おれは一人でも焼け死んで見せるぞ。", "いえ、わたしもお供を致します。けれどもそれは――それは" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "何か御用ですか?", "はい、少々お願いの筋がございまして。" ], [ "お子さんはここへ来られますか。", "それはちと無理かと存じますが……", "ではそこへ案内して下さい。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「中央公論」    1923(大正12)年4月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2012年3月20日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000125", "作品名": "おしの", "作品名読み": "おしの", "ソート用読み": "おしの", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1923(大正12)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card125.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/125_ruby_1099.zip", "テキストファイル最終更新日": "2012-03-20T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/125_15170.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2012-03-20T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "1" }
[ [ "どうも相済みません。あんまり降りが強いもんだから、つい御留守へはひこみましたがね――何、格別明き巣狙ひに宗旨を変へた訣でもないんです。", "驚かせるよ、ほんたうに――いくら明き巣狙ひぢやないと云つたつて、図々しいにも程があるぢやないか?" ], [ "さあ、こつちへ出ておくれよ。わたしは家へはひるんだから。", "へえ、出ます。出ろと仰有らないでも出ますがね。姐さんはまだ立ち退かなかつたんですかい?", "立ち退いたのさ。立ち退いたんだけれども、――そんな事はどうでも好いぢやないか?", "すると何か忘れ物でもしたんですね。――まあ、こつちへおはひんなさい。其処では雨がかかりますぜ。" ], [ "新公、お前、家の三毛を知らないかい?", "三毛? 三毛は今此処に、――おや、何処へ行きやがつたらう?" ], [ "猫ですかい、姐さん、忘れ物と云ふのは?", "猫ぢや悪いのかい?――三毛、三毛、さあ、下りて御出で。" ], [ "何が可笑しんだい? 家のお上さんは三毛を忘れて来たつて、気違ひの様になつてゐるんぢやないか? 三毛が殺されたらどうしようつて、泣き通しに泣いてゐるんぢやないか? わたしもそれが可哀さうだから、雨の中をわざわざ帰つて来たんぢやないか?――", "ようござんすよ。もう笑ひはしませんよ。" ], [ "もう笑ひはしませんがね。まあ、考へて御覧なさい。明日にも『いくさ』が始まらうと云ふのに、高が猫の一匹や二匹――これはどう考へたつて、可笑しいのに違ひありませんや。お前さんの前だけれども、一体此処のお上さん位、わからずやのしみつたれはありませんぜ。第一あの三毛公を探しに、……", "お黙りよ! お上さんの讒訴なぞは聞きたくないよ!" ], [ "第一あの三毛公を探しに、お前さんをよこすのでもわかつてゐまさあ。ねえ、さうぢやありませんか? 今ぢやもう上野界隈、立ち退かない家はありませんや。して見れば町家は並んでゐても、人のゐない野原と同じ事だ。まさか狼も出まいけれども、どんな危い目に遇ふかも知れない――と、まづ云つたものぢやありませんか?", "そんな余計な心配をするより、さつさと猫をとつておくれよ。――これが『いくさ』でも始まりやしまいし、何が危い事があるものかね。", "冗談云つちやいけません。若い女の一人歩きが、かう云ふ時に危くなけりや、危いと云ふ事はありませんや。早い話が此処にゐるのは、お前さんとわたしと二人つきりだ。万一わたしが妙な気でも出したら、姐さん、お前さんはどうしなさるね?" ], [ "いけないのは知れた事だ。", "打つちや可哀さうだよ。三毛だけは助けておくれ。" ], [ "何をさ!", "何をつて事もないんですがね。――まあ肌身を任せると云へば、女の一生ぢや大変な事だ。それをお富さん、お前さんは、その猫の命と懸け替に、――こいつはどうもお前さんにしちや、乱暴すぎるぢやありませんか?" ], [ "そんなにその猫が可愛いんですかい?", "そりや三毛も可愛いしね。――" ], [ "それとも又お前さんは、近所でも評判の主人思ひだ。三毛が殺されたとなつた日にや、この家の上さんに申し訣がない。――と云ふ心配でもあつたんですかい?", "ああ、三毛も可愛いしね。お上さんも大事にや違ひないんだよ。けれどもただわたしはね。――" ] ]
底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月19日公開 2004年2月19日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000126", "作品名": "お富の貞操", "作品名読み": "おとみのていそう", "ソート用読み": "おとみのていそう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1922(大正11)年5、9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card126.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文學大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/126_ruby_1296.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-02-19T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/126_14861.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-02-19T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "どうもお律の容態が思わしくないから、慎太郎の所へ電報を打ってくれ。", "そんなに悪いの?" ], [ "戸沢さんは何だって云うんです?", "やっぱり十二指腸の潰瘍だそうだ。――心配はなかろうって云うんだが。" ], [ "しかしあしたは谷村博士に来て貰うように頼んで置いた。戸沢さんもそう云うから、――じゃ慎太郎の所を頼んだよ。宿所はお前が知っているね。", "ええ、知っています。――お父さんはどこかへ行くの?", "ちょいと銀行へ行って来る。――ああ、下に浅川の叔母さんが来ているぜ。" ], [ "さっき、何だか奥の使いに行きました。――良さん。どこだか知らないかい?", "神山さんか? I don't know ですな。" ], [ "今日は。お父さんはもうお出かけかえ?", "ええ、今し方。――お母さんにも困りましたね。", "困ったねえ、私は何も名のつくような病気じゃないと思っていたんだよ。" ], [ "姉さんはまだ病気じゃないの?", "もう今日は好いんだとさ。何、またいつもの鼻っ風邪だったんだよ。" ], [ "今、電報を打たせました。今日中にゃまさか届くでしょう。", "そうだねえ。何も京大阪と云うんじゃあるまいし、――" ], [ "二町目の角に洋食屋がありましょう。あの露路をはいった左側です。", "じゃ君の清元の御師匠さんの近所じゃないか?", "ええ、まあそんな見当です。" ], [ "あんな所に占い者なんぞがあったかしら。――御病人は南枕にせらるべく候か。", "お母さんはどっち枕だえ?" ], [ "そら、そこに東枕にてもよろしいと書いてありますよ。――神山さん。一本上げようか? 抛るよ。失敬。", "こりゃどうも。E・C・Cですな。じゃ一本頂きます――。もうほかに御用はございませんか? もしまたございましたら、御遠慮なく――" ], [ "おや、お出でなさい。", "降りますのによくまた、――" ], [ "あら、だって電話じゃ、昨日より大変好さそうだったじゃありませんか? もっとも私は出なかったんですけれど、――誰? 今日電話をかけたのは。――洋ちゃん?", "いいえ、僕じゃない。神山さんじゃないか?", "さようでございます。" ], [ "何だねえ。そんな顔をして。――お前さんの所はみんな御達者かえ?", "ええ、おかげ様で、――叔母さんの所でも皆さん御丈夫ですか?" ], [ "叔母さんもいるし、――今し方姉さんも来た。", "叔母さんにね、――", "叔母さんに用があるの?", "いいえ、叔母さんに梅川の鰻をとって上げるの。" ], [ "目がさめています。", "目はさめているけれどさ。" ], [ "しかし今は学校がちょうど、試験じゃないかと思うんですがね。", "そうか。" ], [ "来るそうです。が、とにかく戸沢さんが来たら、電話をかけてくれって云っていました。", "お絹の所でも大変だろう。今度はあすこも買った方だから。", "やっぱりちっとはすったかしら。" ], [ "ソップも牛乳もおさまった? そりゃ今日は大出来だね。まあ精々食べるようにならなくっちゃいけない。", "これで薬さえ通ると好いんですが、薬はすぐに吐いてしまうんでね。" ], [ "どこだい?", "どちらでございますか、――", "しょうがないな、いつでもどちらでございますかだ。" ], [ "今日ね。一しょに明治座を覗かないか? 井上だよ。井上なら行くだろう?", "僕は駄目だよ。お袋が病気なんだから――", "そうか。そりゃ失敬した。だが残念だね。昨日堀や何かは行って見たんだって。――" ], [ "洋一が悪いんです。さきに僕の顔へトランプを叩きつけたんだもの。", "嘘つき。兄さんがさきに撲ったんだい。" ], [ "ずるをしたのも兄さんだい。", "何。" ], [ "だから一高へはいりゃ好いのに。", "一高へなんぞちっともはいりたくはない。", "負惜しみばかり云っていらあ。田舎へ行けば不便だぜ。アイスクリイムはなし、活動写真はなし、――" ], [ "それから誰か病気になっても、急には帰って来られないし、――", "そんな事は当り前だ。", "じゃお母さんでも死んだら、どうする?" ], [ "僕はお母さんが死んでも悲しくない。", "嘘つき。" ], [ "悲しくなかったら、どうかしていらあ。", "嘘じゃない。" ], [ "お母さんがどうかしたの?", "いいえ、お母さんの事じゃないんだよ。実はあの看護婦だがね、ありゃお前、仕方がないよ。――" ], [ "いくら商売柄だって、それじゃお前、あんまりじゃないか。だから私の量見じゃ、取り換えた方が好いだろうと思うのさ。", "ええ、そりゃその方が好いでしょう。お父さんにそう云って、――" ], [ "私はどうせ取り換えるんなら、早い方が好いと思うんだがね、――", "それじゃあ神山さんにそう云って、今すぐに看護婦会へ電話をかけて貰いましょうよ。――お父さんにゃ帰って来てから話しさえすれば好いんだから、――", "そうだね。じゃそうして貰おうかね。" ], [ "看護婦会は何番でしたかな?", "僕は君が知っていると思った。" ], [ "そりゃおれだって忘れるもんかな。", "じゃそうして頂戴よ。" ], [ "その方がどうかなってくれなくっちゃ、何かに私だって気がひけるわ。私があの時何した株なんぞも、みんな今度は下ってしまったし、――", "よし、よし、万事呑みこんだよ。" ], [ "それだからお父さんは嫌になってしまう。", "お前よりおれの方が嫌になってしまう。お母さんはああやって寝ているし、お前にゃ愚痴ばかりこぼされるし、――" ], [ "谷村さんは何時頃来てくれるんでしょう?", "三時頃来るって云っていた。さっき工場の方からも電話をかけて置いたんだが、――", "もう三時過ぎ、――四時五分前だがな。" ], [ "もう一度電話でもかけさせましょうか?", "さっきも叔母さんがかけたってそう云っていたがね。", "さっきって?", "戸沢さんが帰るとすぐだとさ。" ], [ "困ったな。――もう一度電話でもかけさせましょうか?", "そうですね、一時凌ぎさえつけて頂けりゃ、戸沢さんでも好いんですがね。", "僕がかけて来ます。" ], [ "洋一さん。谷村病院ですか?", "ああ、谷村病院。" ], [ "じゃ今向うからかかって来ましたぜ。お美津さんが奥へそう云いに行った筈です。", "何てかかって来たの?", "先生はただ今御出かけになったって云ってたようですが、――ただ今だね? 良さん。" ], [ "ただ今じゃありませんよ。もうそちらへいらっしゃる時分だって云っていましたよ。", "そうか。そんなら美津のやつ、そう云えば好いのに。" ], [ "おや、この時計は二十分過ぎだ。", "何、こりゃ十分ばかり進んでいますよ。まだ四時十分過ぎくらいなもんでしょう。" ], [ "そうです。ちょうど十分過ぎ。", "じゃやっぱり奥の時計が遅れているんだ。それにしちゃ谷村さんは遅すぎるな。――" ], [ "用は別にないんだそうで、――", "お前はそれを云いに来たの?", "いいえ、私はこれから工場まで行って来るんです。――ああ、それから旦那が洋一さんに用があるって云っていましたぜ。", "お父さんが?" ], [ "この二三日悪くってね。――十二指腸の潰瘍なんだそうだ。", "そうか。そりゃ――" ], [ "明日からだ。お前は、――あすこにお前は何をしていたんだ?", "今日は谷村博士が来るんでね、あんまり来ようが遅いから、立って待っていたんだけれど、――" ], [ "よっぽど待ったかい?", "十分も待ったかしら?", "誰かあすこに店の者がいたようじゃないか?――おい、そこだ。" ], [ "ええ、すぐに見えるそうです。", "じゃその方が見えてからにしましょう。――どうもはっきりしない天気ですな。" ], [ "当年は梅雨が長いようです。", "とかく雲行きが悪いんで弱りますな。天候も財界も昨今のようじゃ、――" ], [ "いや、よくわかりました。無論十二指腸の潰瘍です。が、ただいま拝見した所じゃ、腹膜炎を起していますな。何しろこう下腹が押し上げられるように痛いと云うんですから――", "ははあ、下腹が押し上げられるように痛い?" ], [ "それがいかんですな。熱はずんずん下りながら、脈搏は反ってふえて来る。――と云うのがこの病の癖なんですから。", "なるほど、そう云うものですかな。こりゃ我々若いものも、伺って置いて好い事ですな。" ], [ "そうでしょう。多分はあなたの御覧になった後で発したかと思うんです。第一まだ病状が、それほど昂進してもいないようですから、――しかしともかくも現在は、腹膜炎に違いありませんな。", "じゃすぐに入院でも、させて見ちゃいかがでしょう?" ], [ "二三日は間違いあるまいって云った。", "怪しいな。戸沢さんの云う事じゃ――" ], [ "慎ちゃん。さっきお前が帰って来た時、お母さんは何とか云ったかえ?", "何とも云いませんでした。", "でも笑ったね。" ], [ "ありゃさっきお絹ちゃんが、持って来た香水を撒いたんだよ。洋ちゃん。何とか云ったね? あの香水は。", "何ですか、――多分床撒き香水とか何んとか云うんでしょう。" ], [ "お父さんはいなくって?", "店に御出でだよ。何か用かえ?", "ええ、お母さんが、ちょいと、――" ], [ "どうだえ?", "やっぱり薬が通らなくってね。――でも今度の看護婦になってからは、年をとっているだけでも気丈夫ですわ。", "熱は?" ], [ "受験準備はしているかい?", "している。――だけど今年は投げているんだ。", "また歌ばかり作っているんだろう。" ], [ "僕は兄さんのように受験向きな人間じゃないんだからな。数学は大嫌いだし、――", "嫌いだってやらなけりゃ、――" ], [ "ああ、洋一がね、どうも勉強をしないようだからね、――お前からもよくそう云ってね、――お前の云う事は聞く子だから、――", "ええ、よく云って置きます。実は今もその話をしていたんです。" ], [ "好い塩梅ですね。", "今度はおさまったようでございます。" ], [ "何でもなかった。", "じゃきっとお母さんは、慎ちゃんの顔がただ見たかったのよ。" ], [ "ええ、――姉さんも今夜はするって云うから、――", "慎ちゃんは?" ], [ "僕はどうでも好い。", "不相変慎ちゃんは煮え切らないのね。高等学校へでもはいったら、もっとはきはきするかと思ったけれど。――", "この人はお前、疲れているじゃないか?" ], [ "今夜は一番さきへ寝かした方が好いやね。何も夜伽ぎをするからって、今夜に限った事じゃあるまいし、――", "じゃ一番さきに寝るかな。" ], [ "着物と帽子とが一つになるものかな。", "じゃお母さんはどうしたんです? お母さんだってこの間は、羽織を一つ拵えたじゃありませんか?" ], [ "あの時はお前も簪だの櫛だの買って貰ったじゃないか?", "ええ、買って貰いました。買って貰っちゃいけないんですか?" ], [ "莫迦な事をするな。", "どうせ私は莫迦ですよ。慎ちゃんのような利口じゃありません。私のお母さんは莫迦だったんですから、――" ], [ "何だい?", "お上さんが何か御用でございます。" ], [ "どうかしたんですか?", "今お母さんが用だって云うからね、ちょいと下へ行って来たんだ。" ], [ "用って、悪いんじゃないんですか?", "何、用って云った所が、ただ明日工場へ行くんなら、箪笥の上の抽斗に単衣物があるって云うだけなんだ。" ], [ "しかしどうもむずかしいね。今なんぞも行って見ると、やっぱり随分苦しいらしいよ。おまけに頭も痛いとか云ってね、始終首を動かしているんだ。", "戸沢さんにまた注射でもして貰っちゃどうでしょう?", "注射はそう度々は出来ないんだそうだから、――どうせいけなけりゃいけないまでも、苦しみだけはもう少し楽にしてやりたいと思うがね。" ], [ "今行くよ。", "僕も起きます。" ], [ "慎ちゃん。お早う。", "お早う、お母さんは?", "昨夜はずっと苦しみ通し。――", "寝られないの?", "自分じゃよく寝たって云うんだけれど、何だか側で見ていたんじゃ、五分もほんとうに寝なかったようだわ。そうしちゃ妙な事云って、――私夜中に気味が悪くなってしまった。" ], [ "妙な事ってどんな事を?", "半ダアス? 半ダアスは六枚じゃないかなんて。", "頭が少しどうかしているんだね。――今は?", "今は戸沢さんが来ているわ。", "早いな。" ], [ "少し舌がつれるようですね。", "口が御粘りになるんでしょう。――これで水をさし上げて下さい。" ], [ "姉さんはもう寝ているぜ。お前も今の内に二階へ行って、早く一寝入りして来いよ。", "うん、――昨夜夜っぴて煙草ばかり呑んでいたもんだから、すっかり舌が荒れてしまった。" ], [ "でもお母さんが唸らなくなったから好いや。", "ちっとは楽になったと見えるねえ。" ], [ "御隠居様。旦那様がちょいと御店へ、いらして下さいっておっしゃっています。", "はい、はい、今行きます。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "じゃそのお松と言う女はどうしたんです?", "お松ですか? お松は半之丞の子を生んでから、……", "しかしお松の生んだ子はほんとうに半之丞の子だったんですか?", "やっぱり半之丞の子だったですな。瓜二つと言っても好かったですから。", "そうしてそのお松と言う女は?" ], [ "半之丞の子は?", "連れっ子をして行ったです。その子供がまたチブスになって、……", "死んだんですか?", "いいや、子供は助かった代りに看病したお松が患いついたです。もう死んで十年になるですが、……", "やっぱりチブスで?", "チブスじゃないです。医者は何とか言っていたですが、まあ看病疲れですな。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:大野晋 1999年1月17日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000121", "作品名": "温泉だより", "作品名読み": "おんせんだより", "ソート用読み": "おんせんたより", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「女性」1925(大正14)年6月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-17T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card121.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集6", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年3月24日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年2月25日第6刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "大野晋", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/121_ruby_1285.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "4", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/121_15172.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "土は何の為にあるか。艸木を生やす為にあるのである。では、艸木は何の為にあるか。我々蛙に影を与へる為にあるのである。従つて、全大地は我々蛙の為にあるのではないか。", "ヒヤア、ヒヤア。" ], [ "からら、大変だ。", "ころろ、大変だ。", "大変だ、からら、ころろ。" ], [ "水も艸木も、虫も土も、空も太陽も、みんな我々蛙の為にある。では、蛇はどうしたのだ。蛇も我々の為にあるのか。", "さうだ。蛇も我々蛙の為にある。蛇が食はなかつたら、蛙はふえるのに相違ない。ふえれば、池が、――世界が必狭くなる。だから、蛇が我々蛙を食ひに来るのである。食はれた蛙は、多数の幸福の為に捧げられた犠牲だと思ふがいい。さうだ。蛇も我々蛙の為にある。世界にありとあらゆる物は、悉蛙の為にあるのだ。神の御名は讃む可きかな。" ] ]
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003800", "作品名": "蛙", "作品名読み": "かえる", "ソート用読み": "かえる", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-13T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3800.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1971(昭和46)年6月5日", "入力に使用した版1": "1979(昭和54)年4月10日初版第11刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "土屋隆", "校正者": "松永正敏", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3800_ruby_27201.zip", "テキストファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3800_27289.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "ああ、今夜もまた寂しいわね。", "せめて奥様が御病気でないと、心丈夫でございますけれども――", "それでも私の病気はね、ただ神経が疲れているのだって、今日も山内先生がそうおっしゃったわ。二三日よく眠りさえすれば、――あら。" ], [ "どう遊ばしました? 奥様。", "いいえ、何でもないのよ。何でもないのだけれど、――" ], [ "まあ、気味の悪い。きっとまた御隣の別荘の坊ちゃんが、悪戯をなすったのでございますよ。", "いいえ、御隣の坊ちゃんなんぞじゃなくってよ。何だか見た事があるような――そうそう、いつか婆やと長谷へ行った時に、私たちの後をついて来た、あの鳥打帽をかぶっている、若い人のような気がするわ。それとも――私の気のせいだったかしら。" ], [ "もしあの男でしたら、どう致しましょう。旦那様はお帰りになりませんし、――何なら爺やでも警察へ、そう申しにやって見ましょうか。", "まあ、婆やは臆病ね。あの人なんぞ何人来たって、私はちっとも怖くないわ。けれどももし――もし私の気のせいだったら――" ], [ "もし私の気のせいだったら、私はこのまま気違になるかも知れないわね。", "奥様はまあ、御冗談ばっかり。" ], [ "それこそ御隣の坊ちゃんが、おいたをなすったのに違いないわ。そんな事にびっくりするようじゃ、爺やもやっぱり臆病なのね。――あら、おしゃべりをしている内に、とうとう日が暮れてしまった。今夜は旦那様が御帰りにならないから、好いようなものだけれど、――御湯は? 婆や。", "もうよろしゅうございますとも。何ならちょいと私が御加減を見て参りましょうか。", "好いわ。すぐにはいるから。" ], [ "今日は御苦労でした。", "先ほど電話をかけましたが、――", "その後何もなかったですか?" ], [ "何もありません。奥さんは医者が帰ってしまうと、日暮までは婆やを相手に、何か話して御出ででした。それから御湯や御食事をすませて、十時頃までは蓄音機を御聞きになっていたようです。", "客は一人も来なかったですか?", "ええ、一人も。", "君が監視をやめたのは?", "十一時二十分です。" ], [ "その後終列車まで汽車はないですね。", "ありません。上りも、下りも。", "いや、難有う。帰ったら里見君に、よろしく云ってくれ給え。" ], [ "どの写真?", "今のさ。『影』と云うのだろう。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000064", "作品名": "影", "作品名読み": "かげ", "ソート用読み": "かけ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1920(大正9)年9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card64.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集4", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年1月27日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第8刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/64_ruby_1561.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/64_15175.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "では百人の凡人のために甘んじてひとりの天才を犠牲にすることも顧みないはずだ。", "では君は何主義者だ? だれかトック君の信条は無政府主義だと言っていたが、……", "僕か? 僕は超人(直訳すれば超河童です。)だ。" ], [ "僕は超人的恋愛家だと思っているがね、ああいう家庭の容子を見ると、やはりうらやましさを感じるんだよ。", "しかしそれはどう考えても、矛盾しているとは思わないかね?" ], [ "なぜ政府は雌の河童が雄の河童を追いかけるのをもっと厳重に取り締まらないのです?", "それは一つには官吏の中に雌の河童の少ないためですよ。雌の河童は雄の河童よりもいっそう嫉妬心は強いものですからね、雌の河童の官吏さえ殖えれば、きっと今よりも雄の河童は追いかけられずに暮らせるでしょう。しかしその効力もしれたものですね。なぜと言ってごらんなさい。官吏同志でも雌の河童は雄の河童を追いかけますからね。", "じゃあなたのように暮らしているのは一番幸福なわけですね。" ], [ "元来画だの文芸だのはだれの目にも何を表わしているかはとにかくちゃんとわかるはずですから、この国では決して発売禁止や展覧禁止は行なわれません。その代わりにあるのが演奏禁止です。なにしろ音楽というものだけはどんなに風俗を壊乱する曲でも、耳のない河童にはわかりませんからね。", "しかしあの巡査は耳があるのですか?", "さあ、それは疑問ですね。たぶん今の旋律を聞いているうちに細君といっしょに寝ている時の心臓の鼓動でも思い出したのでしょう。" ], [ "そんな検閲は乱暴じゃありませんか?", "なに、どの国の検閲よりもかえって進歩しているくらいですよ。たとえば××をごらんなさい。現につい一月ばかり前にも、……" ], [ "その職工をみんな殺してしまって、肉を食料に使うのです。ここにある新聞をごらんなさい。今月はちょうど六万四千七百六十九匹の職工が解雇されましたから、それだけ肉の値段も下がったわけですよ。", "職工は黙って殺されるのですか?", "それは騒いでもしかたはありません。職工屠殺法があるのですから。" ], [ "つまり餓死したり自殺したりする手数を国家的に省略してやるのですね。ちょっと有毒瓦斯をかがせるだけですから、たいした苦痛はありませんよ。", "けれどもその肉を食うというのは、……", "常談を言ってはいけません。あのマッグに聞かせたら、さぞ大笑いに笑うでしょう。あなたの国でも第四階級の娘たちは売笑婦になっているではありませんか? 職工の肉を食うことなどに憤慨したりするのは感傷主義ですよ。" ], [ "クオラックス党を支配しているものは名高い政治家のロッペです。『正直は最良の外交である』とはビスマルクの言った言葉でしょう。しかしロッペは正直を内治の上にも及ぼしているのです。……", "けれどもロッペの演説は……", "まあ、わたしの言うことをお聞きなさい。あの演説はもちろんことごとく譃です。が、譃ということはだれでも知っていますから、畢竟正直と変わらないでしょう、それを一概に譃と言うのはあなたがただけの偏見ですよ。我々河童はあなたがたのように、……しかしそれはどうでもよろしい。わたしの話したいのはロッペのことです。ロッペはクオラックス党を支配している、そのまたロッペを支配しているものは Pou-Fou 新聞の(この『プウ・フウ』という言葉もやはり意味のない間投詞です。もし強いて訳すれば、『ああ』とでも言うほかはありません。)社長のクイクイです。が、クイクイも彼自身の主人というわけにはゆきません。クイクイを支配しているものはあなたの前にいるゲエルです。", "けれども――これは失礼かもしれませんけれども、プウ・フウ新聞は労働者の味かたをする新聞でしょう。その社長のクイクイもあなたの支配を受けているというのは、……", "プウ・フウ新聞の記者たちはもちろん労働者の味かたです。しかし記者たちを支配するものはクイクイのほかはありますまい。しかもクイクイはこのゲエルの後援を受けずにはいられないのです。" ], [ "それはむしろしあわせでしょう。", "とにかくわたしは満足しています。しかしこれもあなたの前だけに、――河童でないあなたの前だけに手放しで吹聴できるのです。", "するとつまりクオラックス内閣はゲエル夫人が支配しているのですね。", "さあそうも言われますかね。……しかし七年前の戦争などはたしかにある雌の河童のために始まったものに違いありません。", "戦争? この国にも戦争はあったのですか?", "ありましたとも。将来もいつあるかわかりません。なにしろ隣国のある限りは、……" ], [ "あの戦争の起こる前にはもちろん両国とも油断せずにじっと相手をうかがっていました。というのはどちらも同じように相手を恐怖していたからです。そこへこの国にいた獺が一匹、ある河童の夫婦を訪問しました。そのまた雌の河童というのは亭主を殺すつもりでいたのです。なにしろ亭主は道楽者でしたからね。おまけに生命保険のついていたことも多少の誘惑になったかもしれません。", "あなたはその夫婦を御存じですか?", "ええ、――いや、雄の河童だけは知っています。わたしの妻などはこの河童を悪人のように言っていますがね。しかしわたしに言わせれば、悪人よりもむしろ雌の河童につかまることを恐れている被害妄想の多い狂人です。……そこでこの雌の河童は亭主のココアの茶碗の中へ青化加里を入れておいたのです。それをまたどう間違えたか、客の獺に飲ませてしまったのです。獺はもちろん死んでしまいました。それから……", "それから戦争になったのですか?", "ええ、あいにくその獺は勲章を持っていたものですからね。", "戦争はどちらの勝ちになったのですか?", "もちろんこの国の勝ちになったのです。三十六万九千五百匹の河童たちはそのために健気にも戦死しました。しかし敵国に比べれば、そのくらいの損害はなんともありません。この国にある毛皮という毛皮はたいてい獺の毛皮です。わたしもあの戦争の時には硝子を製造するほかにも石炭殻を戦地へ送りました。", "石炭殻を何にするのですか?", "もちろん食糧にするのです。我々は、河童は腹さえ減れば、なんでも食うのにきまっていますからね。", "それは――どうか怒らずにください。それは戦地にいる河童たちには……我々の国では醜聞ですがね。", "この国でも醜聞には違いありません。しかしわたし自身こう言っていれば、だれも醜聞にはしないものです。哲学者のマッグも言っているでしょう。『汝の悪は汝自ら言え。悪はおのずから消滅すべし。』……しかもわたしは利益のほかにも愛国心に燃え立っていたのですからね。" ], [ "お宅のお隣に火事がございます。", "火――火事!" ], [ "しかし火事は消えたといっても、奥さんはさぞお驚きでしょう。さあ、これを持ってお帰りなさい。", "ありがとう。" ], [ "僕はきょう窓の外を見ながら、『おや虫取り菫が咲いた』と何気なしにつぶやいたのです。すると僕の妹は急に顔色を変えたと思うと、『どうせわたしは虫取り菫よ』と当たり散らすじゃありませんか? おまけにまた僕のおふくろも大の妹贔屓ですから、やはり僕に食ってかかるのです。", "虫取り菫が咲いたということはどうして妹さんには不快なのだね?", "さあ、たぶん雄の河童をつかまえるという意味にでもとったのでしょう。そこへおふくろと仲悪い叔母も喧嘩の仲間入りをしたのですから、いよいよ大騒動になってしまいました。しかも年中酔っ払っているおやじはこの喧嘩を聞きつけると、たれかれの差別なしに殴り出したのです。それだけでも始末のつかないところへ僕の弟はその間におふくろの財布を盗むが早いか、キネマか何かを見にいってしまいました。僕は……ほんとうに僕はもう、……" ], [ "そんなことはどこでもありがちだよ。まあ勇気を出したまえ。", "しかし……しかし嘴でも腐っていなければ、……", "それはあきらめるほかはないさ。さあ、トック君の家へでも行こう。", "トックさんは僕を軽蔑しています。僕はトックさんのように大胆に家族を捨てることができませんから。", "じゃクラバック君の家へ行こう。" ], [ "どうするものか? 批評家の阿呆め! 僕の抒情詩はトックの抒情詩と比べものにならないと言やがるんだ。", "しかし君は音楽家だし、……", "それだけならば我慢もできる。僕はロックに比べれば、音楽家の名に価しないと言やがるじゃないか?" ], [ "ロックも天才には違いない。しかしロックの音楽は君の音楽にあふれている近代的情熱を持っていない。", "君はほんとうにそう思うか?", "そう思うとも。" ], [ "それは君もまた俗人のように耳を持っていないからだ。僕はロックを恐れている。……", "君が? 謙遜家を気どるのはやめたまえ。", "だれが謙遜家を気どるものか? 第一君たちに気どって見せるくらいならば、批評家たちの前に気どって見せている。僕は――クラバックは天才だ。その点ではロックを恐れていない。", "では何を恐れているのだ?", "何か正体の知れないものを、――言わばロックを支配している星を。", "どうも僕には腑に落ちないがね。", "ではこう言えばわかるだろう。ロックは僕の影響を受けない。が、僕はいつの間にかロックの影響を受けてしまうのだ。", "それは君の感受性の……。", "まあ、聞きたまえ。感受性などの問題ではない。ロックはいつも安んじてあいつだけにできる仕事をしている。しかし僕はいらいらするのだ。それはロックの目から見れば、あるいは一歩の差かもしれない。けれども僕には十哩も違うのだ。", "しかし先生の英雄曲は……" ], [ "黙りたまえ。君などに何がわかる? 僕はロックを知っているのだ。ロックに平身低頭する犬どもよりもロックを知っているのだ。", "まあ少し静かにしたまえ。", "もし静かにしていられるならば、……僕はいつもこう思っている。――僕らの知らない何ものかは僕を、――クラバックをあざけるためにロックを僕の前に立たせたのだ。哲学者のマッグはこういうことをなにもかも承知している。いつもあの色硝子のランタアンの下に古ぼけた本ばかり読んでいるくせに。", "どうして?", "この近ごろマッグの書いた『阿呆の言葉』という本を見たまえ。――" ], [ "そうか。じゃやめにしよう。なにしろクラバックは神経衰弱だからね。……僕もこの二三週間は眠られないのに弱っているのだ。", "どうだね、僕らといっしょに散歩をしては?", "いや、きょうはやめにしよう。おや!" ], [ "どうしたのだ?", "どうしたのです?", "なにあの自動車の窓の中から緑いろの猿が一匹首を出したように見えたのだよ。" ], [ "お前の名は?", "グルック。", "職業は?", "つい二三日前までは郵便配達夫をしていました。", "よろしい。そこでこの人の申し立てによれば、君はこの人の万年筆を盗んでいったということだがね。", "ええ、一月ばかり前に盗みました。", "なんのために?", "子どもの玩具にしようと思ったのです。", "その子どもは?" ], [ "一週間前に死んでしまいました。", "死亡証明書を持っているかね?" ], [ "どうしてあの河童をつかまえないのです?", "あの河童は無罪ですよ。", "しかし僕の万年筆を盗んだのは……", "子どもの玩具にするためだったのでしょう。けれどもその子どもは死んでいるのです。もし何か御不審だったら、刑法千二百八十五条をお調べなさい。" ], [ "罰しますとも。死刑さえ行なわれるくらいですからね。", "しかし僕は一月ばかり前に、……" ], [ "ふむ、それはこういうのです。――『いかなる犯罪を行ないたりといえども、該犯罪を行なわしめたる事情の消失したる後は該犯罪者を処罰することを得ず』つまりあなたの場合で言えば、その河童はかつては親だったのですが、今はもう親ではありませんから、犯罪も自然と消滅するのです。", "それはどうも不合理ですね。", "常談を言ってはいけません。親だった河童も親である河童も同一に見るのこそ不合理です。そうそう、日本の法律では同一に見ることになっているのですね。それはどうも我々には滑稽です。ふふふふふふふふふふ。" ], [ "日本にも死刑はありますか?", "ありますとも。日本では絞罪です。" ], [ "この国の死刑は日本よりも文明的にできているでしょうね?", "それはもちろん文明的です。" ], [ "この国では絞罪などは用いません。まれには電気を用いることもあります。しかしたいていは電気も用いません。ただその犯罪の名を言って聞かせるだけです。", "それだけで河童は死ぬのですか?", "死にますとも。我々河童の神経作用はあなたがたのよりも微妙ですからね。", "それは死刑ばかりではありません。殺人にもその手を使うのがあります――" ], [ "わたしはこの間もある社会主義者に『貴様は盗人だ』と言われたために心臓痲痺を起こしかかったものです。", "それは案外多いようですね。わたしの知っていたある弁護士などはやはりそのために死んでしまったのですからね。" ], [ "その河童はだれかに蛙だと言われ、――もちろんあなたも御承知でしょう、この国で蛙だと言われるのは人非人という意味になることぐらいは。――己は蛙かな? 蛙ではないかな? と毎日考えているうちにとうとう死んでしまったものです。", "それはつまり自殺ですね。", "もっともその河童を蛙だと言ったやつは殺すつもりで言ったのですがね。あなたがたの目から見れば、やはりそれも自殺という……" ], [ "もう駄目です。トック君は元来胃病でしたから、それだけでも憂鬱になりやすかったのです。", "何か書いていたということですが。" ], [ "それはトックの遺言状ですか?", "いや、最後に書いていた詩です。", "詩?" ], [ "あなたはトック君の死をどう思いますか?", "いざ、立ちて、……僕もまたいつ死ぬかわかりません。……娑婆界を隔つる谷へ。……", "しかしあなたはトック君とはやはり親友のひとりだったのでしょう?", "親友? トックはいつも孤独だったのです。……娑婆界を隔つる谷へ、……ただトックは不幸にも、……岩むらはこごしく……", "不幸にも?", "やま水は清く、……あなたがたは幸福です。……岩むらはこごしく。……" ], [ "しかしこういうわがままの河童といっしょになった家族は気の毒ですね。", "なにしろあとのことも考えないのですから。" ], [ "河童の生活というものをね。", "河童の生活がどうなるのです?", "我々河童はなんと言っても、河童の生活をまっとうするためには、……" ], [ "じゃこの国にも教会だの寺院だのはあるわけなのだね?", "常談を言ってはいけません。近代教の大寺院などはこの国第一の大建築ですよ。どうです、ちょっと見物に行っては?" ], [ "これはラップさんですか? あなたも相変わらず、――(と言いかけながら、ちょっと言葉をつがなかったのはラップの嘴の腐っているのにやっと気がついたためだったでしょう。)――ああ、とにかく御丈夫らしいようですね。が、きょうはどうしてまた……", "きょうはこの方のお伴をしてきたのです。この方はたぶん御承知のとおり、――" ], [ "これは国木田独歩です。轢死する人足の心もちをはっきり知っていた詩人です。しかしそれ以上の説明はあなたには不必要に違いありません。では五番目の龕の中をごらんください。――", "これはワグネルではありませんか?", "そうです。国王の友だちだった革命家です。聖徒ワグネルは晩年には食前の祈祷さえしていました。しかしもちろん基督教よりも生活教の信徒のひとりだったのです。ワグネルの残した手紙によれば、娑婆苦は何度この聖徒を死の前に駆りやったかわかりません。" ], [ "どうか我々の宗教の生活教であることを忘れずにください。我々の神、――『生命の樹』の教えは『旺盛に生きよ』というのですから。……ラップさん、あなたはこのかたに我々の聖書をごらんにいれましたか?", "いえ、……実はわたし自身もほとんど読んだことはないのです。" ], [ "我々の運命を定めるものは信仰と境遇と偶然とだけです。(もっともあなたがたはそのほかに遺伝をお数えなさるでしょう。)トックさんは不幸にも信仰をお持ちにならなかったのです。", "トックはあなたをうらやんでいたでしょう。いや、僕もうらやんでいます。ラップ君などは年も若いし、……", "僕も嘴さえちゃんとしていればあるいは楽天的だったかもしれません。" ], [ "しかしあなたは子どものようですが……", "お前さんはまだ知らないのかい? わたしはどういう運命か、母親の腹を出た時には白髪頭をしていたのだよ。それからだんだん年が若くなり、今ではこんな子どもになったのだよ。けれども年を勘定すれば生まれる前を六十としても、かれこれ百十五六にはなるかもしれない。" ], [ "あなたはどうもほかの河童よりもしあわせに暮らしているようですね?", "さあ、それはそうかもしれない。わたしは若い時は年よりだったし、年をとった時は若いものになっている。従って年よりのように欲にも渇かず、若いもののように色にもおぼれない。とにかくわたしの生涯はたといしあわせではないにもしろ、安らかだったのには違いあるまい。", "なるほどそれでは安らかでしょう。", "いや、まだそれだけでは安らかにはならない。わたしは体も丈夫だったし、一生食うに困らぬくらいの財産を持っていたのだよ。しかし一番しあわせだったのはやはり生まれてきた時に年よりだったことだと思っている。" ], [ "わたしもほかの河童のようにこの国へ生まれてくるかどうか、一応父親に尋ねられてから母親の胎内を離れたのだよ。", "しかし僕はふとした拍子に、この国へ転げ落ちてしまったのです。どうか僕にこの国から出ていかれる路を教えてください。", "出ていかれる路は一つしかない。", "というのは?", "それはお前さんのここへ来た路だ。" ], [ "ではあすこから出さしてもらいます。", "ただわたしは前もって言うがね。出ていって後悔しないように。", "大丈夫です。僕は後悔などはしません。" ], [ "君はあしたは家にいるかね?", "Qua", "なんだって?", "いや、いるということだよ。" ], [ "おい、バッグ、どうして来た?", "へい、お見舞いに上がったのです。なんでも御病気だとかいうことですから。", "どうしてそんなことを知っている?", "ラディオのニウスで知ったのです。" ], [ "それにしてもよく来られたね?", "なに、造作はありません。東京の川や掘割りは河童には往来も同様ですから。" ], [ "しかしこの辺には川はないがね。", "いえ、こちらへ上がったのは水道の鉄管を抜けてきたのです。それからちょっと消火栓をあけて……", "消火栓をあけて?", "旦那はお忘れなすったのですか? 河童にも機械屋のいるということを。" ] ]
底本:「河童・或る阿呆の一生」旺文社文庫、旺文社    1966(昭和41)年10月20日初版発行    1984(昭和59)年重版発行 初出:「改造」    1927(昭和2)年3月1日 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:もりみつじゅんじ 校正:かとうかおり 1999年1月24日公開 2012年3月20日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "では百人の凡人の為に甘んじて一人の天才を犠牲にすることも顧みない筈だ。", "では君は何主義者だ? 誰かトツク君の信条は無政府主義だと言つてゐたが、……", "僕か? 僕は超人(直訳すれば超河童です。)だ。" ], [ "僕は超人的恋愛家だと思つてゐるがね、ああ云ふ家庭の容子を見ると、やはり羨しさを感じるんだよ。", "しかしそれはどう考へても、矛盾してゐるとは思はないかね?" ], [ "なぜ政府は雌の河童が雄の河童を追ひかけるのをもつと厳重に取り締らないのです?", "それは一つには官吏の中に雌の河童の少ない為ですよ。雌の河童は雄の河童よりも一層嫉妬心は強いものですからね。雌の河童の官吏さへ殖ゑれば、きつと今よりも雄の河童は追ひかけられずに暮せるでせう。しかしその効力も知れたものですね。なぜと言つて御覧なさい。官吏同志でも雌の河童は雄の河童を追ひかけますからね。", "ぢやあなたのやうに暮してゐるのは一番幸福な訣ですね。" ], [ "元来画だの文芸だのは誰の目にも何を表はしてゐるかは兎に角ちやんとわかる筈ですから、この国では決して発売禁止や展覧禁止は行はれません。その代りにあるのが演奏禁止です。何しろ音楽と云ふものだけはどんなに風俗を壊乱する曲でも、耳のない河童にはわかりませんからね。", "しかしあの巡査は耳があるのですか?", "さあ、それは疑問ですね。多分今の旋律を聞いてゐるうちに細君と一しよに寝てゐる時の心臓の鼓動でも思ひ出したのでせう。" ], [ "そんな検閲は乱暴ぢやありませんか?", "何、どの国の検閲よりも却つて進歩してゐる位ですよ。たとへば日本を御覧なさい。現につひ一月ばかり前にも、……" ], [ "その職工をみんな殺してしまつて、肉を食料に使ふのです。ここにある新聞を御覧なさい。今月は丁度六万四千七百六十九匹の職工が解雇されましたから、それだけ肉の値段も下つた訣ですよ。", "職工は黙つて殺されるのですか?", "それは騒いでも仕かたはありません。職工屠殺法があるのですから。" ], [ "つまり餓死したり自殺したりする手数を国家的に省略してやるのですね。ちよつと有毒瓦斯を嗅がせるだけですから、大した苦痛はありませんよ。", "けれどもその肉を食ふと云ふのは、…………", "常談を言つてはいけません。あのマツグに聞かせたら、さぞ大笑ひに笑ふでせう。あなたの国でも第四階級の娘たちは売笑婦になつてゐるではありませんか? 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おまけに又僕のおふくろも大の妹贔屓ですから、やはり僕に食つてかかるのです。", "虫取り菫が咲いたと云ふことはどうして妹さんには不快なのだね?", "さあ、多分雄の河童を掴まへると云ふ意味にでもとつたのでせう。そこへおふくろと仲悪い叔母も喧嘩の仲間入りをしたのですから、愈大騒動になつてしまひました。しかも年中酔つ払つてゐるおやぢはこの喧嘩を聞きつけると、誰彼の差別なしに殴り出したのです。それだけでも始末のつかない所へ僕の弟はその間におふくろの財布を盗むが早いか、キネマか何かを見に行つてしまひました。僕は……ほんたうに僕はもう、……" ], [ "そんなことはどこでもあり勝ちだよ。まあ勇気を出し給へ。", "しかし……しかし嘴でも腐つてゐなければ、……", "それはあきらめる外はないさ。さあ、トツク君の家へでも行かう。", "トツクさんは僕を軽蔑してゐます。僕はトツクさんのやうに大胆に家族を捨てることが出来ませんから。", "ぢやクラバツク君の家へ行かう。" ], [ "どうするものか? 批評家の阿呆め! 僕の抒情詩はトツクの抒情詩と比べものにならないと言やがるんだ。", "しかし君は音楽家だし、……", "それだけならば我慢も出来る。僕はロツクに比べれば、音楽家の名に価しないと言やがるぢやないか?" ], [ "ロツクも天才には違ひない。しかしロツクの音楽は君の音楽に溢れてゐる近代的情熱を持つてゐない。", "君はほんたうにさう思ふか?", "さう思ふとも。" ], [ "それは君も亦俗人のやうに耳を持つてゐないからだ。僕はロツクを恐れてゐる。……", "君が? 謙遜家を気どるのはやめ給へ。", "誰が謙遜家を気どるものか? 第一君たちに気どつて見せる位ならば、批評家たちの前に気どつて見せてゐる。僕は――クラバツクは天才だ。その点ではロツクを恐れてゐない。", "では何を恐れてゐるのだ?", "何か正体の知れないものを、――言はばロツクを支配してゐる星を。", "どうも僕には腑に落ちないがね。", "ではかう言へばわかるだらう。ロツクは僕の影響を受けない。が、僕はいつの間にかロツクの影響を受けてしまふのだ。", "それは君の感受性の……。", "まあ、聞き給へ。感受性などの問題ではない。ロツクはいつも安んじてあいつだけに出来る仕事をしてゐる。しかし僕は苛ら々々するのだ。それはロツクの目から見れば、或は一歩の差かも知れない。けれども僕には十哩も違ふのだ。", "しかし先生の英雄曲は……" ], [ "黙り給へ。君などに何がわかる? 僕はロツクを知つてゐるのだ。ロツクに平身低頭する犬どもよりもロツクを知つてゐるのだ。", "まあ少し静かにし給へ。", "若し静かにしてゐられるならば、……僕はいつもかう思つてゐる。――僕等の知らない何ものかは僕を、――クラバツクを嘲る為にロツクを僕の前に立たせたのだ。哲学者のマツグはかう云ふことを何も彼も承知してゐる。いつもあの色硝子のランタアンの下に古ぼけた本ばかり読んでゐる癖に。", "どうして?", "この近頃マツグの書いた『阿呆の言葉』と云ふ本を見給へ。――" ], [ "さうか。ぢややめにしよう。何しろクラバツクは神経衰弱だからね。……僕もこの二三週間は眠られないのに弱つてゐるのだ。", "どうだね、僕等と一しよに散歩をしては?", "いや、けふはやめにしよう。おや!" ], [ "どうしたのだ?", "どうしたのです?", "何、あの自動車の窓の中から緑いろの猿が一匹首を出したやうに見えたのだよ。" ], [ "お前の名は?", "グルツク。", "職業は?", "つひ二三日前までは郵便配達夫をしてゐました。", "よろしい。そこでこの人の申し立てによれば、君はこの人の万年筆を盗んで行つたと云ふことだがね。", "ええ、一月ばかり前に盗みました。", "何の為に?", "子供の玩具にしようと思つたのです。", "その子供は?" ], [ "一週間前に死んでしまひました。", "死亡証明書を持つてゐるかね?" ], [ "どうしてあの河童を掴まへないのです?", "あの河童は無罪ですよ。", "しかし僕の万年筆を盗んだのは……", "子供の玩具にする為だつたのでせう。けれどもその子供は死んでゐるのです。若し何か御不審だつたら、刑法千二百八十五条をお調べなさい。" ], [ "罰しますとも。死刑さへ行はれる位ですからね。", "しかし僕は一月ばかり前に、……" ], [ "ふむ、それはかう云ふのです。――『如何なる犯罪を行ひたりと雖も、該犯罪を行はしめたる事情の消失したる後は該犯罪者を処罰することを得ず』つまりあなたの場合で言へば、その河童は嘗ては親だつたのですが、今はもう親ではありませんから、犯罪も自然と消滅するのです。", "それはどうも不合理ですね。", "常談を言つてはいけません。親だつた河童も親である河童も同一に見るのこそ不合理です。さうさう、日本の法律では同一に見ることになつてゐるのですね。それはどうも我々には滑稽です。ふふふふふ、ふふふふふ。" ], [ "日本にも死刑はありますか?", "ありますとも。日本では絞罪です。" ], [ "この国の死刑は日本よりも文明的に出来てゐるでせうね?", "それは勿論文明的です。" ], [ "この国では絞罪などは用ひません。稀には電気を用ひることもあります。しかし大抵は電気も用ひません。唯その犯罪の名を言つて聞かせるだけです。", "それだけで河童は死ぬのですか?", "死にますとも。我々河童の神経作用はあなたがたのよりも微妙ですからね。", "それは死刑ばかりではありません。殺人にもその手を使ふのがあります。――" ], [ "わたしはこの間も或社会主義者に『貴様は盗人だ』と言はれた為に心臓痲痺を起しかかつたものです。", "それは案外多いやうですね。わたしの知つてゐた或弁護士などはやはりその為に死んでしまつたのですからね。" ], [ "その河童は誰かに蛙だと言はれ、――勿論あなたも御承知でせう、この国で蛙だと言はれるのは人非人と云ふ意味になること位は。――己は蛙かな? 蛙ではないかな? と毎日考へてゐるうちにとうとう死んでしまつたものです。", "それはつまり自殺ですね。", "尤もその河童を蛙だと言つたやつは殺すつもりで言つたのですがね。あなたがたの目から見れば、やはりそれも自殺と云ふ……" ], [ "もう駄目です。トツク君は元来胃病でしたから、それだけでも憂鬱になり易かつたのです。", "何か書いてゐたと云ふことですが。" ], [ "それはトツクの遺言状ですか?", "いや、最後に書いてゐた詩です。", "詩?" ], [ "あなたはトツク君の死をどう思ひますか?", "いざ、立ちて、……僕も亦いつ死ぬかわかりません。……娑婆界を隔つる谷へ。……", "しかしあなたはトツク君とはやはり親友の一人だつたのでせう?", "親友? トツクはいつも孤独だつたのです。……娑婆界を隔つる谷へ、……唯トツクは不幸にも、……岩むらはこごしく……", "不幸にも?", "やま水は清く、……あなたがたは幸福です。……岩むらはこごしく。……" ], [ "しかしかう云ふ我儘な河童と一しよになつた家族は気の毒ですね。", "何しろあとのことも考へないのですから。" ], [ "河童の生活と云ふものをね。", "河童の生活がどうなのです?", "我々河童は何と云つても、河童の生活を完うする為には、……" ], [ "ぢやこの国にも教会だの寺院だのはある訣なのだね?", "常談を言つてはいけません。近代教の大寺院などはこの国第一の大建築ですよ。どうです、ちよつと見物に行つては?" ], [ "これはラツプさんですか? あなたも不相変、――(と言ひかけながら、ちよつと言葉をつがなかつたのはラツプの嘴の腐つてゐるのにやつと気がついた為だつたでせう。)――ああ、兎に角御丈夫らしいやうですね。が、けふはどうして又……", "けふはこの方のお伴をして来たのです。この方は多分御承知の通り、――" ], [ "これは国木田独歩です。轢死する人足の心もちをはつきり知つてゐた詩人です。しかしそれ以上の説明はあなたには不必要に違ひありません。では五番目の龕の中を御覧下さい。――", "これはワグネルではありませんか?", "さうです。国王の友だちだつた革命家です。聖徒ワグネルは晩年には食前の祈祷さへしてゐました。しかし勿論基督教よりも生活教の信徒の一人だつたのです。ワグネルの残した手紙によれば、娑婆苦は何度この聖徒を死の前に駆りやつたかわかりません。" ], [ "どうか我々の宗教の生活教であることを忘れずに下さい。我々の神、――『生命の樹』の教へは『旺盛に生きよ』と云ふのですから。……ラツプさん、あなたはこのかたに我々の聖書を御覧に入れましたか?", "いえ、……実はわたし自身も殆ど読んだことはないのです。" ], [ "我々の運命を定めるものは信仰と境遇と偶然とだけです。(尤もあなたがたはその外に遺伝をお数へなさるでせう。)トツクさんは不幸にも信仰をお持ちにならなかつたのです。", "トツク君はあなたを羨んでゐたでせう。いや、僕も羨んでゐます。ラツプ君などは年も若いし、……", "僕も嘴さへちやんとしてゐれば或は楽天的だつたかも知れません。" ], [ "しかしあなたは子供のやうですが……", "お前さんはまだ知らないのかい? わたしはどう云ふ運命か、母親の腹を出た時には白髪頭をしてゐたのだよ。それからだんだん年が若くなり、今ではこんな子供になつたのだよ。けれども年を勘定すれば、生まれる前を六十としても、彼是百十五六にはなるかも知れない。" ], [ "あなたはどうもほかの河童よりも仕合せに暮らしてゐるやうですね?", "さあ、それはさうかも知れない。わたしは若い時は年よりだつたし、年をとつた時は若いものになつてゐる。従つて年よりのやうに慾にも渇かず、若いもののやうに色にも溺れない。兎に角わたしの生涯はたとひ仕合せではないにもしろ、安らかだつたのには違ひあるまい。", "成程それでは安らかでせう。", "いや、まだそれだけでは安らかにはならない。わたしは体も丈夫だつたし、一生食ふに困らぬ位の財産を持つてゐたのだよ。しかし一番仕合せだつたのはやはり生まれて来た時に年よりだつたことだと思つてゐる。" ], [ "わたしもほかの河童のやうにこの国へ生まれて来るかどうか、一応父親に尋ねられてから母親の胎内を離れたのだよ。", "しかし僕はふとした拍子に、この国へ転げ落ちてしまつたのです。どうか僕にこの国から出て行かれる路を教へて下さい。", "出て行かれる路は一つしかない。", "と云ふのは?", "それはお前さんのここへ来た路だ。" ], [ "ではあすこから出さして貰ひます。", "唯わたしは前以て言ふがね。出て行つて後悔しないやうに。", "大丈夫です。僕は後悔などはしません。" ], [ "君はあしたは家にゐるかね?", "Qua", "何だつて?", "いや、ゐると云ふことだよ。" ], [ "おい、バツグ、どうして来た?", "へい、お見舞ひに上つたのです。何でも御病気だとか云ふことですから。", "どうしてそんなことを知つてゐる?", "ラデイオのニウスで知つたのです。" ], [ "それにしてもよく来られたね?", "何、造作はありません。東京の川や堀割りは河童には往来も同様ですから。" ], [ "しかしこの辺には川はないがね。", "いえ、こちらへ上つたのは水道の鉄管を抜けて来たのです。それからちよつと消火栓をあけて…………", "消火栓をあけて?", "檀那はお忘れなすつたのですか? 河童にも機械屋のゐると云ふことを。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集 第十四巻」岩波書店    1996(平成8)年12月9日発行 底本の親本:「改造 第九巻第三号」    1927(昭和2)年3月1日発行 初出:「改造 第九巻第三号」    1927(昭和2)年3月1日発行 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:五十嵐仁 校正:小林繁雄 2010年4月22日作成 2011年4月14日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "045761", "作品名": "河童", "作品名読み": "かっぱ", "ソート用読み": "かつは", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造 第九巻第三号」1927(昭和2)年3月1日", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2010-05-29T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card45761.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集 第十四巻", "底本出版社名1": "岩波書店", "底本初版発行年1": "1996(平成8)年12月9日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年12月9日", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年12月9日", "底本の親本名1": "改造 第九巻第三号", "底本の親本出版社名1": "改造社", "底本の親本初版発行年1": "1927(昭和2)年3月1日", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "五十嵐仁", "校正者": "小林繁雄", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/45761_ruby_38235.zip", "テキストファイル最終更新日": "2011-04-14T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "1", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/45761_39095.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2011-04-14T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "1" }
[ [ "大日孁貴! 大日孁貴! 大日孁貴!", "新しい神なぞはおりません。新しい神なぞはおりません。", "あなたに逆うものは亡びます。", "御覧なさい。闇が消え失せるのを。", "見渡す限り、あなたの山、あなたの森、あなたの川、あなたの町、あなたの海です。", "新しい神なぞはおりません。誰も皆あなたの召使です。", "大日孁貴! 大日孁貴! 大日孁貴!" ], [ "それも悪い事ではないかも知れません。しかし泥烏須もこの国へ来ては、きっと最後には負けてしまいますよ。", "泥烏須は全能の御主だから、泥烏須に、――" ], [ "仏陀の運命も同様です。が、こんな事を一々御話しするのは、御退屈を増すだけかも知れません。ただ気をつけて頂きたいのは、本地垂跡の教の事です。あの教はこの国の土人に、大日孁貴は大日如来と同じものだと思わせました。これは大日孁貴の勝でしょうか? それとも大日如来の勝でしょうか? 仮りに現在この国の土人に、大日孁貴は知らないにしても、大日如来は知っているものが、大勢あるとして御覧なさい。それでも彼等の夢に見える、大日如来の姿の中には、印度仏の面影よりも、大日孁貴が窺われはしないでしょうか? 私は親鸞や日蓮と一しょに、沙羅双樹の花の陰も歩いています。彼等が随喜渇仰した仏は、円光のある黒人ではありません。優しい威厳に充ち満ちた上宮太子などの兄弟です。――が、そんな事を長々と御話しするのは、御約束の通りやめにしましょう。つまり私が申上げたいのは、泥烏須のようにこの国に来ても、勝つものはないと云う事なのです。", "まあ、御待ちなさい。御前さんはそう云われるが、――" ], [ "今日などは侍が二三人、一度に御教に帰依しましたよ。", "それは何人でも帰依するでしょう。ただ帰依したと云う事だけならば、この国の土人は大部分悉達多の教えに帰依しています。しかし我々の力と云うのは、破壊する力ではありません。造り変える力なのです。" ], [ "なるほど造り変える力ですか? しかしそれはお前さんたちに、限った事ではないでしょう。どこの国でも、――たとえば希臘の神々と云われた、あの国にいる悪魔でも、――", "大いなるパンは死にました。いや、パンもいつかはまたよみ返るかも知れません。しかし我々はこの通り、未だに生きているのです。" ], [ "お前さんはパンを知っているのですか?", "何、西国の大名の子たちが、西洋から持って帰ったと云う、横文字の本にあったのです。――それも今の話ですが、たといこの造り変える力が、我々だけに限らないでも、やはり油断はなりませんよ。いや、むしろ、それだけに、御気をつけなさいと云いたいのです。我々は古い神ですからね。あの希臘の神々のように、世界の夜明けを見た神ですからね。", "しかし泥烏須は勝つ筈です。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000068", "作品名": "神神の微笑", "作品名読み": "かみがみのびしょう", "ソート用読み": "かみかみのひしよう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1922(大正11)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card68.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集4", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年1月27日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年12月25日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第8刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/68_ruby_936.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/68_15177.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "これもやっぱり時勢ですね。はるばる露西亜のグランド・オペラが日本の東京へやって来ると言うのは。", "それはボルシェヴィッキはカゲキ派ですから。" ], [ "カルメンは僕等のイイナじゃないね。", "イイナは今夜は休みだそうだ。その原因がまた頗るロマンティックでね。――", "どうしたんだ?", "何とか云う旧帝国の侯爵が一人、イイナのあとを追っかけて来てね、おととい東京へ着いたんだそうだ。ところがイイナはいつのまにか亜米利加人の商人の世話になっている。そいつを見た侯爵は絶望したんだね、ゆうべホテルの自分の部屋で首を縊って死んじまったんだそうだ。" ], [ "それじゃ今夜は出ないはずだ。", "好い加減に外へ出て一杯やるか?" ], [ "イイナだね。", "うん、イイナだ。" ], [ "君はイイナがあの晩以来、確か左の薬指に繃帯していたのに気がついているかい?", "そう云えば繃帯していたようだね。", "イイナはあの晩ホテルへ帰ると、……", "駄目だよ、君、それを飲んじゃ。" ], [ "皿を壁へ叩きつけてね、そのまた欠片をカスタネットの代りにしてね、指から血の出るのもかまわずにね、……", "カルメンのように踊ったのかい?" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:田尻幹二 1999年1月27日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000029", "作品名": "カルメン", "作品名読み": "カルメン", "ソート用読み": "かるめん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文藝春秋」1926(大正15)年7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-27T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card29.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集6", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年3月24日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年2月25日第6刷", "校正に使用した版1": "1997(平成9)年4月15日第8刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "田尻幹二", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/29_ruby_1382.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/29_15178.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "その子供は今年生れたの?", "いいえ、去年。", "結婚したのも去年だろう?", "いいえ、一昨年の三月ですよ。" ], [ "兄さんはどんな人?", "どんな人って……やっぱり本を読むのが好きなんですよ。", "どんな本を?", "講談本や何かですけれども。" ], [ "すると電車の中で知り合になった大学生のことが書いてあるんだよ。", "それで?", "それで僕は美代ちゃんに忠告しようかと思っているんだがね。……" ], [ "じゃ僕は失敬するよ。", "ああ、じゃ失敬。" ], [ "何か本を貸してくれないか? 今度君が来る時で善いから。", "どんな本を?", "天才の伝記か何かが善い。", "じゃジァン・クリストフを持って来ようか?", "ああ、何でも旺盛な本が善い。" ], [ "動いているね。何をくよくよ海べの棕櫚はさ。……", "それから?", "それでもうおしまいだよ。", "何だつまらない。" ], [ "ジァン・クリストフは読んだかい?", "ああ、少し読んだけれども、……", "読みつづける気にはならなかったの?", "どうもあれは旺盛すぎてね。" ], [ "この間Kが見舞いに来たってね。", "ああ、日帰りでやって来たよ。生体解剖の話や何かして行ったっけ。", "不愉快なやつだね。", "どうして?", "どうしてってこともないけれども。……" ], [ "うん、ちょっと気味が悪いね。夜になってもやっぱり温いかしら。", "何、すぐに冷たくなってしまう。" ], [ "Xは女を知っていたかしら?", "さあ、どうだか……" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "ちょっとあの給仕に通訳してくれ給え。――誰でも五銭出す度に僕はきっと十銭出すから、グラノフォンの鳴るのをやめさせてくれって。", "そんなことは頼まれないよ。第一他人の聞きたがっている音楽を銭ずくでやめさせるのは悪趣味じゃないか?", "それじゃ他人の聞きたがらない音楽を金ずくで聞かせるのも悪趣味だよ。" ], [ "じゃなぜ歩いて行かないんだ? 僕などはどこまでも歩いて行きたくなれば、どこまでも歩いて行くことにしている。", "それは余りロマンティックだ。", "ロマンティックなのがどこが悪い? 歩いて行きたいと思いながら、歩いて行かないのは意気地なしばかりだ。凍死しても何でも歩いて見ろ。……" ], [ "僕はきのう本国の政府へ従軍したいと云う電報を打ったんだよ。", "それで?", "まだ何とも返事は来ない。" ], [ "Above the War――Romain Rolland……", "ふむ、僕等には above じゃない。" ], [ "僕はもう帰る。", "そうか? じゃ僕は……", "どこかこの近所へ沈んで行けよ。" ], [ "日本もだんだん亜米利加化するね。僕は時々日本よりも仏蘭西に住もうかと思うことがある。", "それは誰でも外国人はいつか一度は幻滅するね。ヘルンでも晩年はそうだったんだろう。", "いや、僕は幻滅したんじゃない。illusion を持たないものに disillusion のあるはずはないからね。", "そんなことは空論じゃないか? 僕などは僕自身にさえ、――未だに illusion を持っているだろう。", "それはそうかも知れないがね。……" ], [ "上海は東京よりも面白いだろう。", "僕もそう思っているがね。しかしその前にもう一度ロンドンへ行って来なければならない。……時にこれを君に見せたかしら?" ], [ "この頃はどこへ行っているんだい?", "柳橋だよ。あすこは水の音が聞えるからね。" ], [ "『虞美人草』は?", "あれは僕の日本語じゃ駄目だ。……きょうは飯ぐらいはつき合えるかね?", "うん、僕もそのつもりで来たんだ。", "じゃちょっと待ってくれ。そこに雑誌が四五冊あるから。" ], [ "何だい、あの女は?", "あれか? あれは仏蘭西の……まあ、女優と云うんだろう。ニニイと云う名で通っているがね。――それよりもあの爺さんを見ろよ。" ], [ "あの爺さんは猶太人だがね。上海にかれこれ三十年住んでいる。あんな奴は一体どう云う量見なんだろう?", "どう云う量見でも善いじゃないか?", "いや、決して善くはないよ。僕などはもう支那に飽き飽きしている。", "支那にじゃない。上海にだろう。", "支那にさ。北京にもしばらく滞在したことがある。……" ], [ "じゃどこに住みたいんだ?", "どこに住んでも、――ずいぶんまた方々に住んで見たんだがね。僕が今住んで見たいと思うのはソヴィエット治下の露西亜ばかりだ。", "それならば露西亜へ行けば好いのに。君などはどこへでも行かれるんだろう。" ], [ "それから彼女には情人だろう。", "うん、情人、……まだある。宗教上の無神論者、哲学上の物質主義者……" ], [ "まだ君には言わなかったかしら、僕が声帯を調べて貰った話は?", "上海でかい?", "いや、ロンドンへ帰った時に。――僕は声帯を調べて貰ったら、世界的なバリトオンだったんだよ。" ], [ "じゃ新聞記者などをしているよりも、……", "勿論オペラ役者にでもなっていれば、カルウソオぐらいには行っていたんだ。しかし今からじゃどうにもならない。", "それは君の一生の損だね。", "何、損をしたのは僕じゃない。世界中の人間が損をしたんだ。" ], [ "ニニイだね。", "さもなければ僕の中の声楽家だよ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000071", "作品名": "彼 第二", "作品名読み": "かれ だいに", "ソート用読み": "かれたいに", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1927(昭和2)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card71.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集6", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年3月24日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年2月25日第6刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/71_ruby_1569.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/71_15180.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "へええ、僕はもう二人とも、とうに死んだのかと思つてゐました。", "何、死にやしません。ああ見えたつて、ありや普賢文殊です。あの友だちの豊干禅師つて大将も、よく虎に騎つちや、銀座通りを歩いてますぜ。" ] ]
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:浅原庸子 2007年4月13日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003809", "作品名": "寒山拾得", "作品名読み": "かんざんじっとく", "ソート用読み": "かんさんしつとく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-05-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3809.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1971(昭和46)年6月5日", "入力に使用した版1": "1979(昭和54)年4月10日初版第11刷", "校正に使用した版1": "1977(昭和52)年9月30日初版第10刷 ", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "土屋隆", "校正者": "浅原庸子", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3809_ruby_26529.zip", "テキストファイル最終更新日": "2007-04-13T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3809_26610.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-04-13T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "婆や、あれは何の声だろう?", "あれでございますか? あれは五位鷺でございますよ。" ], [ "まあ、嫌な御新造だ。どうしてまたそんな事をしたんです?", "どうしてもこうしてもあるものか。御定りの角をはやしたのさ。おれでさえこのくらいだから、お前なぞが遇って見ろ。たちまち喉笛へ噛みつかれるぜ。まず早い話が満洲犬さ。" ], [ "そうしたら、その時の事ですわ。", "へええ、ひどくまた度胸が好いな。", "度胸が好い訳じゃないんです。私の国の人間は、――" ], [ "私の国の人間は、みんな諦めが好いんです。", "じゃお前は焼かないと云う訳か?" ], [ "生きていられるか、死んでいられるかそれはちと判じ悪いが、――とにかく御遇いにはなれぬものと御思いなさい。", "どうしても遇えないでございましょうか?" ], [ "何? 婆や。", "まあ御新さん。いらしって御覧なさい。ほんとうに何だと思ったら、――" ], [ "猫かい?", "いえ、犬でございますよ。" ], [ "これは今朝ほど五味溜めの所に、啼いていた犬でございますよ。――どうしてはいって参りましたかしら。", "お前はちっとも知らなかったの?", "はい、その癖ここにさっきから、御茶碗を洗って居りましたんですが――やっぱり人間眼の悪いと申す事は、仕方のないもんでございますね。" ], [ "まあ御待ち、ちょいと私も抱いて見たいから、――", "御止しなさいましよ。御召しでもよごれるといけません。" ], [ "前にもこのくらいなやつを飼っていたじゃないか?", "ええ、あれもやっぱり白犬でしたわ。", "そう云えばお前があの犬と、何でも別れないと云い出したのにゃ、随分手こずらされたものだったけ。" ], [ "あら、あの犬によく似ているじゃありませんか? 違うのは鼻の色だけですわ。", "何、鼻の色が違う? 妙な所がまた違ったものだな。", "この犬は鼻が黒いでしょう。あの犬は鼻が赭うござんしたよ。" ], [ "へええ、して見ると鼻の赭い方が、犬では美人の相なのかも知れない。", "美男ですよ、あの犬は。これは黒いから、醜男ですわね。", "男かい、二匹とも。ここの家へ来る男は、おればかりかと思ったが、――こりゃちと怪しからんな。" ], [ "空耳だよ。何が呼んでなんぞいるものか。", "気のせいですかしら。", "あんな幻燈を見たからじゃないか?" ], [ "ねえ、牧野さん。これが島田に結っていたとか、赤熊に結っていたとか云うんなら、こうも違っちゃ見えまいがね、何しろ以前が以前だから、――", "おい、おい、ここの婆さんは眼は少し悪いようだが、耳は遠くもないんだからね。" ], [ "私も牧野さんに頼まれたから、一度は引き受けて見たようなものの、万一ばれた日にゃ大事だと、無事に神戸へ上がるまでにゃ、随分これでも気を揉みましたぜ。", "へん、そう云う危い橋なら、渡りつけているだろうに、――", "冗談云っちゃいけない。人間の密輸入はまだ一度ぎりだ。" ], [ "そう云われると恐れ入るが、とにかくあの時は弱ったよ。おまけにまた乗った船が、ちょうど玄海へかかったとなると、恐ろしいしけを食ってね。――ねえ、お蓮さん。", "ええ、私はもう船も何も、沈んでしまうかと思いましたよ。" ], [ "それがまあこうしていられるんだから、御互様に仕合せでさあ。――だがね、牧野さん。お蓮さんに丸髷が似合うようになると、もう一度また昔のなりに、返らせて見たい気もしやしないか?", "返らせたかった所が、仕方がないじゃないか?", "ないがさ、――ないと云えば昔の着物は、一つもこっちへは持って来なかったかい?", "着物どころか櫛簪までも、ちゃんと御持参になっている。いくら僕が止せと云っても、一向御取上げにならなかったんだから、――" ], [ "そいつはなおさら好都合だ。――どうです? お蓮さん。その内に一つなりを変えて、御酌を願おうじゃありませんか?", "そうして君も序ながら、昔馴染を一人思い出すか。", "さあ、その昔馴染みと云うやつがね、お蓮さんのように好縹緻だと、思い出し甲斐もあると云うものだが、――" ], [ "そうなったら、おれも一しょにいるさ。", "だって御新造がいるじゃありませんか?", "嚊かい? 嚊とも近々別れる筈だよ。" ], [ "あんまり罪な事をするのは御止しなさいよ。", "かまうものか。己に出でて己に返るさ。おれの方ばかり悪いんじゃない。" ], [ "さようでございますか。私は――", "いえ、それはもう存じて居ります。牧野が始終御世話になりますそうで、私からも御礼を申し上げます。" ], [ "つきましては今日は御年始かたがた、ちと御願いがあって参りましたんですが、――", "何でございますか、私に出来る事でございましたら――" ], [ "今の内に何とかして上げないと、取り返しのつかない事になりますよ。", "まあ、なったらなった時の事さ。" ], [ "嚊の事なんぞを案じるよりゃ、お前こそ体に気をつけるが好い。何だかこの頃はいつ来て見ても、ふさいでばかりいるじゃないか?", "私はどうなっても好いんですけれど、――", "好くはないよ。" ], [ "御新造は世の中にあなた一人が、何よりも大事なんですもの。それを考えて上げなくっちゃ、薄情すぎると云うもんですよ。私の国でも女と云うものは、――", "好いよ。好いよ。お前の云う事はよくわかったから、そんな心配なんぞはしない方が好いよ。" ], [ "大丈夫。大丈夫だとも。――ねえ、お蓮さん。この膃肭獣と云うやつは、牡が一匹いる所には、牝が百匹もくっついている。まあ人間にすると、牧野さんと云う所です。そう云えば顔も似ていますな。だからです。だから一つ牧野さんだと思って、――可愛い牧野さんだと思って御上んなさい。", "何を云っているんだ。" ], [ "今日僕の友だちに、――この缶詰屋に聞いたんだが、膃肭獣と云うやつは、牡同志が牝を取り合うと、――そうそう膃肭獣の話よりゃ、今夜は一つお蓮さんに、昔のなりを見せて貰うんだった。どうです? お蓮さん。今こそお蓮さんなんぞと云っているが、お蓮さんとは世を忍ぶ仮の名さ。ここは一番音羽屋で行きたいね。お蓮さんとは――", "おい、おい、牝を取り合うとどうするんだ? その方をまず伺いたいね。" ], [ "誰だい?", "私。私だ。私。" ], [ "一枝さんかい?", "ああ、私。", "久しぶりだねえ。お前さんは今どこにいるの?" ], [ "何故またお前さんまでが止めるのさ? 殺したって好いじゃないか?", "お止し。生きているもの。生きているよ。", "生きている? 誰が?" ], [ "金――金さん。金さん。", "ほんとうかい? ほんとうなら嬉しいけれど、――" ], [ "だって金さんが生きているんなら、私に会いに来そうなもんじゃないか?", "来るよ。来るとさ。", "来るって? いつ?", "明日。弥勒寺へ会いに来るとさ。弥勒寺へ。明日の晩。", "弥勒寺って、弥勒寺橋だろうねえ。", "弥勒寺橋へね。夜来る。来るとさ。" ], [ "どこへ?", "弥勒寺橋まで行けば好いんです。", "弥勒寺橋?" ], [ "弥勒寺橋に何の用があるんだい?", "何の用ですか、――" ], [ "それでも安心して下さい。身なんぞ投げはしませんから、――", "莫迦な事を云うな。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000077", "作品名": "奇怪な再会", "作品名読み": "きかいなさいかい", "ソート用読み": "きかいなさいかい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大阪毎日新聞夕刊」1921(大正10)年1、2月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card77.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集4", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年1月27日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年12月25日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第8刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/77_ruby_944.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/77_15181.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "僕の鶯鶯? そんなものがあるものか。", "嘘をつき給え。論より証拠はその指環じゃないか。" ], [ "それからどうしたのだ?", "それから一しょに話をした。", "話をしてから?", "女が玉簫を吹いて聞かせた。曲は落梅風だったと思うが、――", "それぎりかい?", "それがすむとまた話をした。", "それから?" ], [ "もし仮に夢だとすれば、僕は夢に見るよりほかに、あの家の娘を見たことはない。いや、娘がいるかどうか、それさえはっきりとは知らずにいる。が、たといその娘が、実際はこの世にいないのにしても、僕が彼女を思う心は、変る時があるとは考えられない。僕は僕の生きている限り、あの池だの葡萄棚だの緑色の鸚鵡だのと一しょに、やはり夢に見る娘の姿を懐しがらずにはいられまいと思う。僕の話と云うのは、これだけなのだ。", "なるほど、ありふれた才子の情事ではない。" ], [ "それでは君はそれ以来、一度もその家へは行かないのかい。", "うん。一度も行った事はない。が、もう十日ばかりすると、また松江へ下る事になっている。その時渭塘を通ったら、是非あの酒旗の出ている家へ、もう一度舟を寄せて見るつもりだ。" ], [ "やっと芝居が無事にすんだね。おれはお前の阿父さんに、毎晩お前の夢を見ると云う、小説じみた嘘をつきながら、何度冷々したかわからないぜ。", "私もそれは心配でしたわ。あなたは金陵の御友だちにも、やっぱり嘘をおつきなすったの。", "ああ、やっぱり嘘をついたよ。始めは何とも云わなかったのだが、ふと友達にこの指環を見つけられたものだから、やむを得ず阿父さんに話す筈の、夢の話をしてしまったのさ。", "ではほんとうの事を知っているのは、一人もほかにはない訳ですわね。去年の秋あなたが私の部屋へ、忍んでいらしった事を知っているのは、――", "私。私。" ], [ "お婆さん。", "お爺さん。", "まずまず無事に芝居もすむし、こんな目出たい事はないね。", "ほんとうにこんな目出たい事には、もう二度とは遇えませんね。ただ私は娘や壻の、苦しそうな嘘を聞いているのが、それはそれは苦労でしたよ。お爺さんは何も知らないように、黙っていろと御云いなすったから、一生懸命にすましていましたが、今更あんな嘘をつかなくっても、すぐに一しょにはなれるでしょうに、――", "まあ、そうやかましく云わずにやれ。娘も壻も極り悪さに、智慧袋を絞ってついた嘘だ。その上壻の身になれば、ああでも云わぬと、一人娘は、容易にくれまいと思ったかも知れぬ。お婆さん、お前はどうしたと云うのだ。こんな目出たい婚礼に、泣いてばかりいてはすまないじゃないか?", "お爺さん。お前さんこそ泣いている癖に……" ] ]
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000076", "作品名": "奇遇", "作品名読み": "きぐう", "ソート用読み": "きくう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1921(大正10)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card76.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集4", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年1月27日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年12月25日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第8刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/76_ruby_940.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/76_15182.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "さすがは、大名道具だて。", "同じ道具でも、ああ云う物は、つぶしが利きやす。", "質に置いたら、何両貸す事かの。", "貴公じゃあるまいし、誰が質になんぞ、置くものか。" ], [ "おい、おい、それは貴公の煙草入れじゃないぜ。", "いいって事よ。" ], [ "お煙管拝領?", "そうよ。" ], [ "いくらお前、わしが欲ばりでも、……せめて、銀ででもあれば、格別さ。……とにかく、金無垢だぜ。あの煙管は。", "知れた事よ。金無垢ならばこそ、貰うんだ。真鍮の駄六を拝領に出る奴がどこにある。", "だが、そいつは少し恐れだて。" ], [ "何用じゃ。", "ええ、宗俊御願がございまする。" ], [ "おお、とらす。持ってまいれ。", "有難うございまする。" ], [ "とうとう、せしめたな。", "だから、云わねえ事じゃねえ。今になって、羨ましがったって、後の祭だ。", "今度は、私も拝領と出かけよう。", "へん、御勝手になせえましだ。" ], [ "いい加減に欲ばるがいい。銀の煙管でさえ、あの通りねだられるのに、何で金無垢の煙管なんぞ持って来るものか。", "じゃあれは何だ。", "真鍮だろうさ。" ], [ "どうしたい、宗俊、一件は。", "一件た何だ。" ], [ "とぼけなさんな。煙管の事さ。", "うん、煙管か。煙管なら、手前にくれてやらあ。" ], [ "宗俊、煙管をとらそうか。", "いえ、難有うございますが、手前はもう、以前に頂いて居りまする。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000080", "作品名": "煙管", "作品名読み": "きせる", "ソート用読み": "きせる", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1916(大正5)年11月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card80.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集1", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年9月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年10月5日第13刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/80_ruby_753.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/80_15183.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "君のフロックは旧式だね。自然主義時代の遺物ぢやないか。", "その結城は傑作だよ。何とも云へない人間味がある。", "何だい。君の御召しの羽織は、全然心の動きが見えないぢやないか。", "あの紺サアヂの背広を見給へ。宛然たるペッティイ・ブルジョアだから。", "おや、君が落語家のやうな帯をしめるのには驚いた。", "やつぱり君が大島を着てゐると、山の手の坊ちやんと云ふ格だね。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集 第九巻」岩波書店    1996(平成8)年7月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "001137", "作品名": "着物", "作品名読み": "きもの", "ソート用読み": "きもの", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「点心」1922(大正11)年5月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1137.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集 第九巻", "底本出版社名1": "岩波書店", "底本初版発行年1": "1996(平成8)年7月8日発行", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年7月8日発行", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "もりみつじゅんじ", "校正者": "松永正敏", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/1137_ruby_5484.zip", "テキストファイル最終更新日": "2002-09-20T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "1", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/1137_6765.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2002-09-20T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "又光悦会ですか。", "いいえ、今度は個人でございます。" ] ]
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003803", "作品名": "京都日記", "作品名読み": "きょうとにっき", "ソート用読み": "きようとにつき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-16T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3803.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1971(昭和46)年6月5日", "入力に使用した版1": "1979(昭和54)年4月10日初版第11刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "土屋隆", "校正者": "松永正敏", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3803_ruby_27208.zip", "テキストファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3803_27296.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "ごへんは御経の文句を心得られたか。", "生憎一字半句の心得もござない。", "ならば断食は出来申さうず。", "如何なこと、それがしは聞えた大飯食ひでおぢやる。中々断食などはなるまじい。", "難儀かな。夜もすがら眠らいで居る事は如何あらう。", "如何なこと、それがしは聞えた大寝坊でおぢやる。中々眠らいでは居られまじい。" ] ]
底本:「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年6月22日公開 2004年2月27日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000079", "作品名": "きりしとほろ上人伝", "作品名読み": "きりしとほろしょうにんでん", "ソート用読み": "きりしとほろしようにんてん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1919(大正8)年3、5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-06-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card79.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文學大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/79_ruby_381.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-02-27T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/79_14954.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-02-27T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "ではとにかく御話だけ伺いましょう。もっともそれを伺ったからと云って、格別御参考になるような意見などは申し上げられるかどうかわかりませんが。", "いえ、ただ、御聞きになってさえ下されば、それでもう私には本望すぎるくらいでございます。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月8日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "面白いだろう。こんな事は支那でなくっては、ありはしない。", "そうどこにでもあって、たまるものか。" ], [ "僕はその何小二と云うやつを知っているのだ。", "知っている? これは驚いた。まさかアッタッシェの癖に、新聞記者と一しょになって、いい加減な嘘を捏造するのではあるまいね。", "誰がそんなくだらない事をするものか。僕はあの頃――屯の戦で負傷した時に、その何小二と云うやつも、やはり我軍の野戦病院へ収容されていたので、支那語の稽古かたがた二三度話しをした事があるのだ。頸に創があると云うのだから、十中八九あの男に違いない。何でも偵察か何かに出た所が我軍の騎兵と衝突して頸へ一つ日本刀をお見舞申されたと云っていた。", "へえ、妙な縁だね。だがそいつはこの新聞で見ると、無頼漢だと書いてあるではないか。そんなやつは一層その時に死んでしまった方が、どのくらい世間でも助かったか知れないだろう。", "それがあの頃は、極正直な、人の好い人間で、捕虜の中にも、あんな柔順なやつは珍らしいくらいだったのだ。だから軍医官でも何でも、妙にあいつが可愛いかったと見えて、特別によく療治をしてやったらしい。あいつはまた身の上話をしても、なかなか面白い事を云っていた。殊にあいつが頸に重傷を負って、馬から落ちた時の心もちを僕に話して聞かせたのは、今でもちゃんと覚えている。ある川のふちの泥の中にころがりながら、川楊の木の空を見ていると、母親の裙子だの、女の素足だの、花の咲いた胡麻畑だのが、はっきりその空へ見えたと云うのだが。" ], [ "あいつはそれを見た時に、しみじみ今までの自分の生活が浅ましくなって来たと云っていたっけ。", "それが戦争がすむと、すぐに無頼漢になったのか。だから人間はあてにならない。" ], [ "あてにならないと云うのは、あいつが猫をかぶっていたと云う意味か。", "そうさ。", "いや、僕はそう思わない。少くともあの時は、あいつも真面目にそう感じていたのだろうと思う。恐らくは今度もまた、首が落ちると同時に(新聞の語をそのまま使えば)やはりそう感じたろう。僕はそれをこんな風に想像する。あいつは喧嘩をしている中に、酔っていたから、訳なく卓子と一しょに抛り出された。そうしてその拍子に、創口が開いて、長い辮髪をぶらさげた首が、ごろりと床の上へころげ落ちた。あいつが前に見た母親の裙子とか、女の素足とか、あるいはまた花のさいている胡麻畑とか云うものは、やはりそれと同時にあいつの眼の前を、彷彿として往来した事だろう。あるいは屋根があるにも関らず、あいつは深い蒼空を、遥か向うに望んだかも知れない。あいつはその時、しみじみまた今までの自分の生活が浅ましくなった。が、今度はもう間に合わない。前には正気を失っている所を、日本の看護卒が見つけて介抱してやった。今は喧嘩の相手が、そこをつけこんで打ったり蹴ったりする。そこであいつは後悔した上にも後悔しながら息をひきとってしまったのだ。" ], [ "君は立派な空想家だ。だが、それならどうしてあいつは、一度そう云う目に遇いながら、無頼漢なんぞになったのだろう。", "それは君の云うのとちがった意味で、人間はあてにならないからだ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月23日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000091", "作品名": "首が落ちた話", "作品名読み": "くびがおちたはなし", "ソート用読み": "くひかおちたはなし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1918(大正7)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-23T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card91.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集2", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年10月28日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)7月15日第11刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)7月15日第11刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/91_ruby_975.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/91_15186.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "これはお尋ねに預つて恐縮至極でございますな。手前のはほんの下手の横好きで今日も運座、明日も運座、と、所々方々へ臆面もなくしやしやり出ますが、どう云ふものか、句の方は一向頭を出してくれません。時に先生は、如何でございますな、歌とか発句とか申すものは、格別お好みになりませんか。", "いや私は、どうもああ云ふものにかけると、とんと無器用でね。尤も一時はやつた事もあるが。", "そりや御冗談で。", "いや、完く性に合はないとみえて、未だにとんと眼くらの垣覗きさ。" ], [ "お百は。", "御仏参にお出でになりました。", "お路も一しよか。", "はい。坊ちやんと御一しよに。", "伜は。", "山本様へいらつしやいました。" ], [ "そこで今日は何か御用かね。", "へえ、なに又一つ原稿を頂戴に上りましたんで。" ], [ "原稿と云つたつて、それは無理だ。", "へへえ、何か御差支でもございますので。", "差支へる所ぢやない。今年は読本を大分引受けたので、とても合巻の方へは手が出せさうもない。", "成程それは御多忙で。" ], [ "ふむ、それは成程えらいものだね。私もいろいろ噂には聞いてゐたが、まさかそれ程とは思はずにゐた。", "つまりまづ賊中の豪なるものでございませうな。何でも以前は荒尾但馬守様の御供押しか何かを勤めた事があるさうで、お屋敷方の案内に明いのは、そのせゐださうでございます。引廻しを見たものの話を聞きますと、でつぷりした、愛嬌のある男ださうで、その時は紺の越後縮の帷子に、下へは白練の単衣を着てゐたと申しますが、とんと先生のお書きになるものの中へでも出て来さうぢやございませんか。" ], [ "第一私が無理に書いたつて、どうせ碌なものは出来やしない。それぢや売れ行きに関るのは云ふまでもない事なのだから、貴公の方だつてつまらなからう。して見ると、これは私の無理を通させる方が、結局両方の為になるだらうと思ふが。", "でございませうが、そこを一つ御奮発願ひたいので。如何なものでございませう。" ], [ "とても、書けないね。書きたくも、暇がないんだから、仕方がない。", "それは手前、困却致しますな。" ], [ "それから手前どもでも、春水を出さうかと存じて居ります。先生はお嫌ひでございますが、やはり俗物にはあの辺が向きますやうでございますな。", "ははあ、左様かね。" ], [ "時と場合でね。早い時もあれば、又遅い時もある。", "ははあ、時と場合でね。成程。" ], [ "でございますが、度々申し上げた原稿の方は、一つ御承諾下さいませんでせうか。春水なんぞも、……", "私と為永さんとは違ふ。" ], [ "御暇なら一つ御覧を願ひませうかな。", "おお、早速、拝見しませう。" ], [ "勿論気に入つたと云つても、今まで描いたものの中ではと云ふ位な所ですが――とても思ふ通りには、何時になつても、描けはしません。", "それは有難い。何時も頂戴ばかりしてゐて恐縮ですが。" ], [ "古人の絵を見る度に、私は何時もどうしてかう描けるだらうと思ひますな。木でも石でも人物でも、皆その木なり石なり人物なりに成り切つて、しかもその中に描いた古人の心もちが、悠々として生きてゐる。あれだけは実に大したものです。まだ私などは、そこへ行くと、子供程にも出来て居ません。", "古人は後生恐るべしと云ひましたがな。" ], [ "それは後生も恐ろしい。だから私どもは唯、古人と後生との間に挾まつて、身動きもならずに、押され押され進むのです。尤もこれは私どもばかりではありますまい。古人もさうだつたし、後生もさうでせう。", "如何にも進まなければ、すぐに押し倒される。するとまづ一足でも進む工夫が、肝腎らしいやうですな。", "さやう、それが何よりも肝腎です。" ], [ "いや、一向捗どらんで仕方がありません。これも古人には及ばないやうです。", "御老人がそんな事を云つては、困りますな。", "困るのなら、私の方が誰よりも困つてゐます。併しどうしても、之で行ける所迄行くより外はない。さう思つて、私は此頃八犬伝と討死の覚悟をしました。" ], [ "たかが戯作だと思つても、さうは行かない事が多いのでね。", "それは私の絵でも同じ事です。どうせやり出したからには、私も行ける所までは行き切りたいと思つてゐます。", "御互に討死ですかな。" ], [ "それはないが――御老人の書かれるものも、さう云ふ心配はありますまい。", "いや、大にありますよ。" ], [ "それは大きにさう云ふ所もありませう。しかし改作させられても、それは御老人の恥辱になる訳ではありますまい。改名主などが何と云はうとも、立派な著述なら、必ずそれだけの事はある筈です。", "それにしても、ちと横暴すぎる事が多いのでね。さうさう一度などは獄屋へ衣食を送る件を書いたので、やはり五六行削られた事がありました。" ], [ "しかしこの後五十年か百年経つたら、改名主の方はゐなくなつて、八犬伝だけが残る事になりませう。", "八犬伝が残るにしろ、残らないにしろ、改名主の方は、存外何時までもゐさうな気がしますよ。", "さうですかな。私にはさうも思はれませんが。", "いや、改名主はゐなくなつても、改名主のやうな人間は、何時の世にも絶えた事はありません。焚書坑儒が昔だけあつたと思ふと、大きに違ひます。", "御老人は、この頃心細い事ばかり云はれますな。", "私が心細いのではない。改名主どものはびこる世の中が、心細いのです。", "では、益働かれたら好いでせう。", "兎に角、それより外はないやうですな。", "そこで又、御同様に討死ですか。" ], [ "お祖父様唯今。", "おお、よく早く帰つて来たな。" ], [ "よく毎日。", "うん、よく毎日?", "御勉強なさい。" ], [ "それから?", "それから――ええと――癇癪を起しちやいけませんつて。", "おやおや、それつきりかい。", "まだあるの。" ], [ "まだ何かあるかい?", "まだね。いろんな事があるの。", "どんな事が。", "ええと――お祖父様はね。今にもつとえらくなりますからね。", "えらくなりますから?", "ですからね。よくね。辛抱おしなさいつて。" ], [ "もつと、もつとようく辛抱なさいつて。", "誰がそんな事を云つたのだい。", "それはね。" ], [ "だあれだ?", "さうさな。今日は御仏参に行つたのだから、お寺の坊さんに聞いて来たのだらう。", "違ふ。" ], [ "あのね。", "うん。", "浅草の観音様がさう云つたの。" ] ]
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月16日公開 2004年1月11日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "これはお尋ねにあずかって恐縮至極でございますな。手前のはほんの下手の横好きで今日も運座、明日も運座、と、所々方々へ臆面もなくしゃしゃり出ますが、どういうものか、句の方はいっこう頭を出してくれません。時に先生は、いかがでございますな、歌とか発句とか申すものは、格別お好みになりませんか。", "いや私は、どうもああいうものにかけると、とんと無器用でね。もっとも一時はやったこともあるが。", "そりゃ御冗談で。", "いや、まったく性に合わないと見えて、いまだにとんと眼くらの垣覗きさ。" ], [ "お百は。", "御仏参においでになりました。", "お路もいっしょか。", "はい。坊ちゃんとごいっしょに。", "伜は。", "山本様へいらっしゃいました。" ], [ "そこで今日は何か御用かね。", "へえ、なにまた一つ原稿を頂戴に上がりましたんで。" ], [ "原稿と言ったって、それは無理だ。", "へへえ、何かおさしつかえでもございますので。", "さかつかえるどころじゃない。今年は読本を大分引き受けたので、とても合巻の方へは手が出せそうもない。", "なるほどそれは御多忙で。" ], [ "ふむ、それはなるほどえらいものだね。私もいろいろ噂には聞いていたが、まさかそれほどとは思わずにいた。", "つまりまず賊中の豪なるものでございましょうな。なんでも以前は荒尾但馬守様のお供押しか何かを勤めたことがあるそうで、お屋敷方の案内に明るいのは、そのせいだそうでございます。引き廻しを見たものの話を聞きますと、でっぷりした、愛嬌のある男だそうで、その時は紺の越後縮の帷子に、下へは白練の単衣を着ていたと申しますが、とんと先生のお書きになるものの中へでも出て来そうじゃございませんか。" ], [ "第一私がむりに書いたって、どうせろくなものは出来やしない。それじゃ売れ行きにかかわるのは言うまでもないことなのだから、貴公の方だってつまらなかろう。してみると、これは私の無理を通させる方が、結局両方のためになるだろうと思うが。", "でございましょうが、そこを一つ御奮発願いたいので。いかがなものでございましょう。" ], [ "とても、書けないね。書きたくも、暇がないんだから、しかたがない。", "それは手前、困却いたしますな。" ], [ "それから手前どもでも、春水を出そうかと存じております。先生はお嫌いでございますが、やはり俗物にはあの辺が向きますようでございますな。", "ははあ、さようかね。" ], [ "時と場合でね。早い時もあれば、また遅い時もある。", "ははあ、時と場合でね。なるほど。" ], [ "でございますが、たびたび申し上げた原稿の方は、一つ御承諾くださいませんでしょうか。春水なんぞも、……", "私と為永さんとは違う。" ], [ "お暇なら一つ御覧を願いましょうかな。", "おお、さっそく、拝見しましょう。" ], [ "もちろん気に入ったと言っても、今まで描いたもののうちではというくらいなところですが――とても思う通りには、いつになっても、描けはしません。", "それはありがたい。いつも頂戴ばかりしていて恐縮ですが。" ], [ "古人の絵を見るたびに、私はいつもどうしてこう描けるだろうと思いますな。木でも石でも人物でも、皆その木なり石なり人物なりになり切って、しかもその中に描いた古人の心もちが、悠々として生きている。あれだけは実に大したものです。まだ私などは、そこへ行くと、子供ほどにも出来ていません。", "古人は後生恐るべしと言いましたがな。" ], [ "それは後生も恐ろしい。だから私どもはただ、古人と後生との間にはさまって、身動きもならずに、押され押され進むのです。もっともこれは私どもばかりではありますまい。古人もそうだったし、後生もそうでしょう。", "いかにも進まなければ、すぐに押し倒される。するとまず一足でも進む工夫が、肝腎らしいようですな。", "さよう、それが何よりも肝腎です。" ], [ "いや、一向はかどらんでしかたがありません。これも古人には及ばないようです。", "御老人がそんなことを言っては、困りますな。", "困るのなら、私の方が誰よりも困っています。しかしどうしても、これで行けるところまで行くよりほかはない。そう思って、私はこのごろ八犬伝と討死の覚悟をしました。" ], [ "たかが戯作だと思っても、そうはいかないことが多いのでね。", "それは私の絵でも同じことです。どうせやり出したからには、私も行けるところまでは行き切りたいと思っています。", "お互いに討死ですかな。" ], [ "それはないが――御老人の書かれるものも、そういう心配はありますまい。", "いや、大いにありますよ。" ], [ "それは大きにそういうところもありましょう。しかし改作させられても、それは御老人の恥辱になるわけではありますまい。改名主などがなんと言おうとも、立派な著述なら、必ずそれだけのことはあるはずです。", "それにしても、ちと横暴すぎることが多いのでね。そうそう一度などは獄屋へ衣食を送る件を書いたので、やはり五六行削られたことがありました。" ], [ "しかしこの後五十年か百年たったら、改名主の方はいなくなって、八犬伝だけが残ることになりましょう。", "八犬伝が残るにしろ、残らないにしろ、改名主の方は、存外いつまでもいそうな気がしますよ。", "そうですかな。私にはそうも思われませんが。", "いや、改名主はいなくなっても、改名主のような人間は、いつの世にも絶えたことはありません。焚書坑儒が昔だけあったと思うと、大きに違います。", "御老人は、このごろ心細いことばかり言われますな。", "私が心細いのではない。改名主どものはびこる世の中が、心細いのです。", "では、ますます働かれたらいいでしょう。", "とにかく、それよりほかはないようですな。", "そこでまた、御同様に討死ですか。" ], [ "お祖父様ただいま。", "おお、よく早く帰って来たな。" ], [ "よく毎日。", "うん、よく毎日?", "御勉強なさい。" ], [ "それから?", "それから――ええと――癇癪を起しちゃいけませんって。", "おやおや、それっきりかい。", "まだあるの。" ], [ "まだ何かあるかい?", "まだね。いろんなことがあるの。", "どんなことが。", "ええと――お祖父様はね。今にもっとえらくなりますからね。", "えらくなりますから?", "ですからね。よくね。辛抱おしなさいって。" ], [ "もっと、もっとようく辛抱なさいって。", "誰がそんなことを言ったのだい。", "それはね。" ], [ "だあれだ?", "そうさな。今日は御仏参に行ったのだから、お寺の坊さんに聞いて来たのだろう。", "違う。" ], [ "あのね。", "うん。", "浅草の観音様がそう言ったの。" ] ]
底本:「日本の文学 29 芥川龍之介」中央公論社    1964(昭和39)年10月5日初版発行 初出:「大阪毎日新聞」    1917(大正6)年11月 入力:佐野良二 校正:伊藤時也 2000年4月15日公開 2004年1月11日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "じゃ一週間位はいてくれられるの?", "はい、こちら様さえお差支えございませんければ。", "でも着換え位なくっちゃいけなかないの?", "それは兄が夜分にでも届けると申しておりましたから。" ], [ "すぐにここへよこしますから。", "うん。………お芳一人かい?", "いいえ。………" ], [ "なんでございます?", "いや、何でもない。何にも可笑しいことはありません。――" ], [ "あれですね?", "うん、………俺たちの来た時もあすこにいたかしら。", "さあ、乞食ばかりいたように思いますがね。……あの女はこの先どうするでしょう?" ] ]
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:一、二「中央公論 第四十二年第一号」    1927(昭和2)年1月1日発行    三~六「中央公論 第四十二年第二号」    1927(昭和2)年2月1日発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年10月14日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000036", "作品名": "玄鶴山房", "作品名読み": "げんかくさんぼう", "ソート用読み": "けんかくさんほう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "一、二「中央公論 第四十二年第一号」1927(昭和2)年1月1日発行<br>三~六「中央公論 第四十二年第二号」1927(昭和2)年2月1日発行", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-10-14T00:00:00", "最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card36.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "昭和文学全集 第1巻", "底本出版社名1": "小学館", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年5月1日", "入力に使用した版1": "1987(昭和62)年5月1日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "芥川龍之介全集 第八卷", "底本の親本出版社名1": "岩波書店", "底本の親本初版発行年1": "1978(昭和53)年3月22日", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/36_ruby_627.zip", "テキストファイル最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/36_14975.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "3" }
[ [ "兎に角あの女には根負けがする。たとひ逢ふと云はないまでも、おれと一度話さへすれば、きつと手に入れて見せるのだがな。まして一晩逢ひでもすれば、――あの摂津でも小中将でも、まだおれを知らない内は、男嫌ひで通してゐたものだ。それがおれの手にかかると、あの通り好きものになるぢやないか? 侍従にした所が金仏ぢやなし、有頂天にならない筈はあるまい。しかしあの女はいざとなつても、小中将のやうには恥しがるまいな。と云つて又摂津のやうに、妙にとりすます柄でもあるまい。きつと袖を口へやると、眼だけにつこり笑ひながら、――", "殿様。", "どうせ夜の事だから、切り燈台か何かがともつてゐる。その火の光があの女の髪へ、――", "殿様。" ], [ "消息か?", "はい、侍従様から、――" ] ]
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月19日公開 2004年3月1日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000090", "作品名": "好色", "作品名読み": "こうしょく", "ソート用読み": "こうしよく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1921(大正10)年10月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card90.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文学大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/90_ruby_1292.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-01T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/90_14976.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-01T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "ええ", "夢をみましたろう。", "見ました。", "どんな夢を見ました。", "何でも大へん長い夢です。始めは清河の崔氏の女と一しょになりました。うつくしいつつましやかな女だったような気がします。そうして明る年、進士の試験に及第して、渭南の尉になりました。それから、監察御史や起居舎人知制誥を経て、とんとん拍子に中書門下平章事になりましたが、讒を受けてあぶなく殺される所をやっと助かって、驩州へ流される事になりました。そこにかれこれ五六年もいましたろう。やがて、冤を雪ぐ事が出来たおかげでまた召還され、中書令になり、燕国公に封ぜられましたが、その時はもういい年だったかと思います。子が五人に、孫が何十人とありましたから。", "それから、どうしました。", "死にました。確か八十を越していたように覚えていますが。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:平山誠、野口英司 校正:もりみつじゅんじ 1997年11月10日公開 2004年3月12日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000088", "作品名": "黄粱夢", "作品名読み": "こうりょうむ", "ソート用読み": "こうりようむ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央文学」1917(大正6)年10月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1997-11-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card88.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集2", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年10月28日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第11刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "野口英司、平山誠", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/88_ruby_160.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/88_15189.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "これは珍品ですね。が、何だかこの顔は、無気味な所があるようじゃありませんか。", "円満具足の相好とは行きませんかな。そう云えばこの麻利耶観音には、妙な伝説が附随しているのです。", "妙な伝説?" ], [ "ええ、これは禍を転じて福とする代りに、福を転じて禍とする、縁起の悪い聖母だと云う事ですよ。", "まさか。", "ところが実際そう云う事実が、持ち主にあったと云うのです。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年12月28日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000085", "作品名": "黒衣聖母", "作品名読み": "こくいせいぼ", "ソート用読み": "こくいせいほ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文章倶楽部」1920(大正9)年5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card85.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集3", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年12月1日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年4月1日第8刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/85_ruby_991.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "4", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/85_15190.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "そちはどこで産れたな?", "芸州広島の御城下でございます。" ], [ "さもあろう。", "あの女はいかがいたしましょう?", "善いわ、やはり召使っておけ。" ], [ "わたくしの一存にとり計らいましても、よろしいものでございましょうか?", "うむ、上を欺いた……" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月3日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "やあ、君か。そうそう、君は湖南の産だったっけね。", "うん、ここに開業している。" ], [ "きょうは誰かの出迎いかい?", "うん、誰かの、――誰だと思う?", "僕の出迎いじゃないだろう?" ], [ "ところが君の出迎いなんだよ。Bさんは生憎五六日前からマラリア熱に罹っている。", "じゃBさんに頼まれたんだね?", "頼まれないでも来るつもりだった。" ], [ "だが君の厄介になるのは気の毒だな。僕は実は宿のこともBさんに任かせっきりになっているんだが、………", "宿は日本人倶楽部に話してある。半月でも一月でも差支えない。", "一月でも? 常談言っちゃいけない。僕は三晩泊めて貰えりゃ好いんだ。" ], [ "たった三晩しか泊らないのか?", "さあ、土匪の斬罪か何か見物でも出来りゃ格別だが、………" ], [ "あすこでこの間五人ばかり一時に首を斬られたんだがね。そら、あの犬の歩いている処で、………", "そりゃ惜しいことをしたな。", "斬罪だけは日本じゃ見る訣に行かない。" ], [ "この三角洲は橘洲と言ってね。………", "ああ、鳶が鳴いている。", "鳶が?………うん、鳶も沢山いる。そら、いつか張継尭と譚延闓との戦争があった時だね、あの時にゃ張の部下の死骸がいくつもこの川へ流れて来たもんだ。すると又鳶が一人の死骸へ二羽も三羽も下りて来てね………" ], [ "なぜ?", "まあ、なぜでも好いから、あの女を見給え。", "美人かい?", "ああ、美人だ。美人だ。" ], [ "見えたか?", "うん、睫毛まで見える。しかしあんまり美人じゃないな。" ], [ "きのう僕はそう言ったね、――あの桟橋の前の空き地で五人ばかり土匪の首を斬ったって?", "うん、それは覚えている。", "その仲間の頭目は黄六一と言ってね。――ああ、そいつも斬られたんだ。――これが又右の手には小銃を持ち、左の手にはピストルを持って一時に二人射殺すと言う、湖南でも評判の悪党だったんだがね。………" ], [ "ふん、土匪も洒落れたもんだね。", "何、黄などは知れたものさ。何しろ前清の末年にいた強盗蔡などと言うやつは月収一万元を越していたんだからね。こいつは上海の租界の外に堂々たる洋館を構えていたもんだ。細君は勿論、妾までも、………", "じゃあの女は芸者か何かかい?", "うん、玉蘭と言う芸者でね、あれでも黄の生きていた時には中々幅を利かしていたもんだよ。………" ], [ "嶽麓には湘南工業学校と言う学校も一つあるんだがね、そいつをまっ先に参観しようじゃないか?", "うん、見ても差支えない。" ], [ "この人の言葉は綺麗だね。Rの音などは仏蘭西人のようだ。", "うん、その人は北京生れだから。" ], [ "お母さん?", "お母さんと言うのは義理のお母さんだよ。つまりその人だの玉蘭だのを抱えている家の鴇婦のことだね。" ], [ "莫迦! 何を話しているんだ?", "何、きょう嶽麓へ出かける途中、玉蘭に遇ったことを話しているんだ。それから……" ], [ "それから君は斬罪と言うものを見たがっていることを話しているんだ。", "何だ、つまらない。" ], [ "何だ、それは?", "これか? これは唯のビスケットだがね。………そら、さっき黄六一と云う土匪の頭目の話をしたろう? あの黄の首の血をしみこませてあるんだ。これこそ日本じゃ見ることは出来ない。", "そんなものを又何にするんだ?", "何にするもんか? 食うだけだよ。この辺じゃ未だにこれを食えば、無病息災になると思っているんだ。" ], [ "こんな迷信こそ国辱だね。僕などは医者と言う職業上、ずいぶんやかましくも言っているんだが………", "それは斬罪があるからだけさ。脳味噌の黒焼きなどは日本でも嚥んでいる。", "まさか。", "いや、まさかじゃない。僕も嚥んだ。尤も子供のうちだったが。………" ], [ "おい、僕にもそれを見せてくれ。", "うん、こっちにまだ半分ある。" ], [ "うん、通訳してくれ。", "好いか? 逐語訳だよ。わたしは喜んでわたしの愛する………黄老爺の血を味わいます。………" ] ]
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:「中央公論 第四十一年第一号」    1926(大正15)年1月1日発行 入力:j.utiyama 校正:柳沢成雄 1998年10月20日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "君は僕を知っていますか。なに知っていない? 知っていなければ、いなくってもよろしい。君は大学の学生でしょう。しかも文科大学だ。僕も君も似たような商売をしている人間です。事によると、同業組合の一人かも知れない。何です、君の専門は?", "史学科です。", "ははあ、史学。君もドクタア・ジョンソンに軽蔑される一人ですね。ジョンソン曰、歴史家は almanac-maker にすぎない。" ], [ "オールマナック・メエカア。正にそれにちがいない。いや僕の考える所では、それさえ甚だ疑問ですね。しかしそんな事は、どうでもよろしい。それより君の特に研究しようとしているのは、何ですか。", "維新史です。", "すると卒業論文の題目も、やはりその範囲内にある訳ですね。" ], [ "もっとも気をつけても、あぶないかも知れない。こう申すと失礼のようだが、それほどあの戦争の史料には、怪しいものが、多いのですね。", "そうでしょうか。" ], [ "しかし私には、それほど特に警戒する必要があるとは思われませんが――あなたはどう云う理由で、そうお考えなのですか。", "理由? 理由はないが、事実がある。僕はただ西南戦争の史料を一々綿密に調べて見た。そうしてその中から、多くの誤伝を発見した。それだけです。が、それだけでも、十分そう云われはしないですか。", "それは勿論、そう云われます。では一つ、その御発見になった事実を伺いたいものですね。私なぞにも大いに参考になりそうですから。" ], [ "では他言しませんから、その事実と云うのを伺わせて下さい。", "よろしい。" ], [ "君は僕の云う事を信ぜられない。いや弁解しなくっても、信ぜられないと云う事はわかっている。しかし――しかしですね。何故君は西郷隆盛が、今日まで生きていると云う事を疑われるのですか。", "あなたは御自分でも西南戦争に興味を御持ちになって、事実の穿鑿をなすったそうですが、それならこんな事は、恐らく私から申上げるまでもないでしょう。が、そう御尋ねになる以上は、私も知っているだけの事は、申上げたいと思います。" ], [ "こう云う事実に比べたら、君の史料の如きは何ですか。すべてが一片の故紙に過ぎなくなってしまうでしょう。西郷隆盛は城山で死ななかった。その証拠には、今この上り急行列車の一等室に乗り合せている。このくらい確かな事実はありますまい。それとも、やはり君は生きている人間より、紙に書いた文字の方を信頼しますか。", "さあ――生きていると云っても、私が見たのでなければ、信じられません。", "見たのでなければ?" ], [ "そこで城山戦死説だが、あの記録にしても、疑いを挟む余地は沢山ある。成程西郷隆盛が明治十年九月二十四日に、城山の戦で、死んだと云う事だけはどの史料も一致していましょう。しかしそれはただ、西郷隆盛と信ぜられる人間が、死んだと云うのにすぎないのです。その人間が実際西郷隆盛かどうかは、自らまた問題が違って来る。ましてその首や首のない屍体を発見した事実になると、さっき君が云った通り、異説も決して少くない。そこも疑えば、疑える筈です。一方そう云う疑いがある所へ、君は今この汽車の中で西郷隆盛――と云いたくなければ、少くとも西郷隆盛に酷似している人間に遇った。それでも君には史料なるものの方が信ぜられますか。", "しかしですね。西郷隆盛の屍体は確かにあったのでしょう。そうすると――", "似ている人間は、天下にいくらもいます。右腕に古い刀創があるとか何とか云うのも一人に限った事ではない。君は狄青が濃智高の屍を検した話を知っていますか。" ], [ "今君が向うで居眠りをしているのを見たでしょう。あの男なぞは、あんなによく西郷隆盛に似ているではないですか。", "ではあれは――あの人は何なのです。", "あれですか。あれは僕の友人ですよ。本職は医者で、傍南画を描く男ですが。", "西郷隆盛ではないのですね。" ], [ "先生とは実際夢にも思いませんでした。私こそいろいろ失礼な事を申し上げて、恐縮です。", "いやさっきの城山戦死説なぞは、なかなか傑作だった。君の卒業論文もああ云う調子なら面白いものが出来るでしょう。僕の方の大学にも、今年は一人維新史を専攻した学生がいる。――まあそんな事より、大に一つ飲み給え。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月23日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000136", "作品名": "西郷隆盛", "作品名読み": "さいごうたかもり", "ソート用読み": "さいこうたかもり", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1918(大正7)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-23T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card136.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集2", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年10月28日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)7月15日第11刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)7月15日第11刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/136_ruby_979.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/136_15193.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "姉さん。これ何?", "ゼンマイ。", "ゼンマイ珈琲つてこれから拵へるんでせう。", "お前さん莫迦ね。ちつと黙つていらつしやいよ。そんな事を云つちや、私がきまり悪くなるぢやないの。あれは玄米珈琲よ。" ] ]
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003739", "作品名": "雑筆", "作品名読み": "ざっぴつ", "ソート用読み": "さつひつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3739.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1971(昭和46)年6月5日", "入力に使用した版1": "1979(昭和54)年4月10日初版第11刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "土屋隆", "校正者": "松永正敏", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3739_ruby_27215.zip", "テキストファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3739_27303.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "堀川君。君は女も物体だと云うことを知っているかい?", "動物だと云うことは知っているが。", "動物じゃない。物体だよ。――こいつは僕も苦心の結果、最近発見した真理なんだがね。", "堀川さん、宮本さんの云うことなどを真面目に聞いてはいけませんよ。" ], [ "こりゃ怪しからん。僕の発見は長谷川君を大いに幸福にしているはずじゃないか?――堀川君、君は伝熱作用の法則を知っているかい?", "デンネツ? 電気の熱か何かかい?", "困るなあ、文学者は。" ], [ "温度の異なる二つの物体を互に接触せしめるとだね、熱は高温度の物体から低温度の物体へ、両者の温度の等しくなるまで、ずっと移動をつづけるんだ。", "当り前じゃないか、そんなことは?", "それを伝熱作用の法則と云うんだよ。さて女を物体とするね。好いかい? もし女を物体とすれば、男も勿論物体だろう。すると恋愛は熱に当る訣だね。今この男女を接触せしめると、恋愛の伝わるのも伝熱のように、より逆上した男からより逆上していない女へ、両者の恋愛の等しくなるまで、ずっと移動をつづけるはずだろう。長谷川君の場合などは正にそうだね。……", "そおら、はじまった。" ], [ "どうも素人の堀川君を相手じゃ、せっかくの発見の自慢も出来ない。――とにかく長谷川君の許嫁なる人は公式通りにのぼせ出したようだ。", "実際そう云う公式がありゃ、世の中はよっぽど楽になるんだが。" ], [ "その代りに文学者は上ったりだぜ。――どうだい、この間出した本の売れ口は?", "不相変ちっとも売れないね。作者と読者との間には伝熱作用も起らないようだ。――時に長谷川君の結婚はまだなんですか?", "ええ、もう一月ばかりになっているんですが、――その用もいろいろあるものですから、勉強の出来ないのに弱っています。", "勉強も出来ないほど待ち遠しいかね。", "宮本さんじゃあるまいし、第一家を持つとしても、借家のないのに弱っているんです。現にこの前の日曜などにはあらかた市中を歩いて見ました。けれどもたまに明いていたと思うと、ちゃんともう約定済みになっているんですからね。", "僕の方じゃいけないですか? 毎日学校へ通うのに汽車へ乗るのさえかまわなければ。", "あなたの方じゃ少し遠すぎるんです。あの辺は借家もあるそうですね、家内はあの辺を希望しているんですが――おや、堀川さん。靴が焦げやしませんか?" ], [ "おい、どうしたんだい?", "轢かれたんです。今の上りに轢かれたんです。" ], [ "誰が轢かれたんだい?", "踏切り番です。学校の生徒の轢かれそうになったのを助けようと思って轢かれたんです。ほら、八幡前に永井って本屋があるでしょう? あすこの女の子が轢かれる所だったんです。", "その子供は助かったんだね?", "ええ、あすこに泣いているのがそうです。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000137", "作品名": "寒さ", "作品名読み": "さむさ", "ソート用読み": "さむさ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1924(大正13)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card137.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/137_ruby_1103.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/137_15195.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "うん、今日の猿は、あいつ程敏捷でないから、大丈夫だ。", "そんなに高を括つてゐると、逃げられるぞ。", "なに、逃げたつて、猿は猿だ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店    1995(平成7)年11月8日発行 親本:「鼻」春陽堂    1918(大正7)年7月8日発行 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:earthian 校正:高橋美奈子 1998年11月26日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "三右衛門、数馬はそちに闇打ちをしかけたそうじゃな。すると何かそちに対し、意趣を含んで居ったものと見える。何に意趣を含んだのじゃ?", "何に意趣を含みましたか、しかとしたことはわかりませぬ。" ], [ "何もそちには覚えはないか?", "覚えと申すほどのことはございませぬ。しかしあるいはああ云うことを怨まれたかと思うことはございまする。", "何じゃ、それは?", "四日ほど前のことでございまする。御指南番山本小左衛門殿の道場に納会の試合がございました。その節わたくしは小左衛門殿の代りに行司の役を勤めました。もっとも目録以下のものの勝負だけを見届けたのでございまする。数馬の試合を致した時にも、行司はやはりわたくしでございました。", "数馬の相手は誰がなったな?", "御側役平田喜太夫殿の総領、多門と申すものでございました。", "その試合に数馬は負けたのじゃな?", "さようでございまする。多門は小手を一本に面を二本とりました。数馬は一本もとらずにしまいました。つまり三本勝負の上には見苦しい負けかたを致したのでございまする。それゆえあるいは行司のわたくしに意趣を含んだかもわかりませぬ。", "すると数馬はそちの行司に依怙があると思うたのじゃな?", "さようでございまする。わたくしは依怙は致しませぬ。依怙を致す訣もございませぬ。しかし数馬は依怙のあるように疑ったかとも思いまする。", "日頃はどうじゃ? そちは何か数馬を相手に口論でも致した覚えはないか?", "口論などを致したことはございませぬ。ただ………" ], [ "ただこう云うことがございました。試合の前日でございまする。数馬は突然わたくしに先刻の無礼を詫びました。しかし先刻の無礼と申すのは一体何のことなのか、とんとわからぬのでございまする。また何かと尋ねて見ても、数馬は苦笑いを致すよりほかに返事を致さぬのでございまする。わたくしはやむを得ませぬゆえ、無礼をされた覚えもなければ詫びられる覚えもなおさらないと、こう数馬に答えました。すると数馬も得心したように、では思違いだったかも知れぬ、どうか心にかけられぬ様にと、今度は素直に申しました。その時はもう苦笑いよりは北叟笑んでいたことも覚えて居りまする。", "何をまた数馬は思い違えたのじゃ?", "それはわたくしにもわかり兼ねまする。が、いずれ取るにも足らぬ些細のことだったのでございましょう。――そのほかは何もございませぬ。" ], [ "ではどうじゃな、数馬の気質は? 疑い深いとでも思ったことはないか?", "疑い深い気質とは思いませぬ。どちらかと申せば若者らしい、何ごとも色に露わすのを恥じぬ、――その代りに多少激し易い気質だったかと思いまする。" ], [ "その上あの多門との試合は大事の試合でございました。", "大事の試合とはどう云う訣じゃ?", "数馬は切り紙でござりまする。しかしあの試合に勝って居りましたら、目録を授ったはずでございまする。もっともこれは多門にもせよ、同じ羽目になって居りました。数馬と多門とは同門のうちでも、ちょうど腕前の伯仲した相弟子だったのでございまする。" ], [ "数馬は確かに馬場の下にそちを待っていたのじゃな?", "多分はさようかと思いまする。その夜は急に雪になりましたゆえ、わたくしは傘をかざしながら、御馬場の下を通りかかりました。ちょうどまた伴もつれず、雨着もつけずに参ったのでございまする。すると風音の高まるが早いか、左から雪がしまいて参りました。わたくしは咄嗟に半開きの傘を斜めに左へ廻しました。数馬はその途端に斬りこみましたゆえ、わたくしへは手傷も負わせずに傘ばかり斬ったのでございまする。", "声もかけずに斬って参ったか?", "かけなかったように思いまする。", "その時には相手を何と思った?", "何と思う余裕もござりませぬ。わたくしは傘を斬られると同時に、思わず右へ飛びすさりました。足駄ももうその時には脱いで居ったようでございまする。と、二の太刀が参りました。二の太刀はわたくしの羽織の袖を五寸ばかり斬り裂きました。わたくしはまた飛びすさりながら、抜き打ちに相手を払いました。数馬の脾腹を斬られたのはこの刹那だったと思いまする。相手は何か申しました。………", "何かとは?", "何と申したかはわかりませぬ。ただ何か烈しい中に声を出したのでございまする。わたくしはその時にはっきりと数馬だなと思いました。", "それは何か申した声に聞き覚えがあったと申すのじゃな?", "いえ、左様ではございませぬ。", "ではなぜ数馬と悟ったのじゃ?" ], [ "そちは最前は依怙は致さぬ、致す訣もないと申したようじゃが、……", "そのことは今も変りませぬ。" ], [ "わたくしの依怙と申すのはそう云うことではございませぬ。ことさらに数馬を負かしたいとか、多門を勝たせたいとかと思わなかったことは申し上げた通りでございまする。しかし何もそればかりでは、依怙がなかったとは申されませぬ。わたくしは一体多門よりも数馬に望みを嘱して居りました。多門の芸はこせついて居りまする。いかに卑怯なことをしても、ただ勝ちさえ致せば好いと、勝負ばかり心がける邪道の芸でございまする。数馬の芸はそのように卑しいものではございませぬ。どこまでも真ともに敵を迎える正道の芸でございまする。わたくしはもう二三年致せば、多門はとうてい数馬の上達に及ぶまいとさえ思って居りました。………", "その数馬をなぜ負かしたのじゃ?", "さあ、そこでございまする。わたくしは確かに多門よりも数馬を勝たしたいと思って居りました。しかしわたくしは行司でございまする。行司はたといいかなる時にも、私曲を抛たねばなりませぬ。一たび二人の竹刀の間へ、扇を持って立った上は、天道に従わねばなりませぬ。わたくしはこう思いましたゆえ、多門と数馬との立ち合う時にも公平ばかりを心がけました。けれどもただいま申し上げた通り、わたくしは数馬に勝たせたいと思って居るのでございまする。云わばわたくしの心の秤は数馬に傾いて居るのでございまする。わたくしはこの心の秤を平らに致したい一心から、自然と多門の皿の上へ錘を加えることになりました。しかも後に考えれば、加え過ぎたのでございまする。多門には寛に失した代りに、数馬には厳に過ぎたのでございまする。" ], [ "二人は正眼に構えたまま、どちらからも最初にしかけずに居りました。その内に多門は隙を見たのか、数馬の面を取ろうと致しました。しかし数馬は気合いをかけながら、鮮かにそれを切り返しました。同時にまた多門の小手を打ちました。わたくしの依怙の致しはじめはこの刹那でございまする。わたくしは確かにその一本は数馬の勝だと思いました。が、勝だと思うや否や、いや、竹刀の当りかたは弱かったかも知れぬと思いました。この二度目の考えはわたくしの決断を鈍らせました。わたくしはとうとう数馬の上へ、当然挙げるはずの扇を挙げずにしまったのでございまする。二人はまたしばらくの間、正眼の睨み合いを続けて居りました。すると今度は数馬から多門の小手へしかけました。多門はその竹刀を払いざまに、数馬の小手へはいりました。この多門の取った小手は数馬の取ったのに比べますと、弱かったようでございまする。少くとも数馬の取ったよりも見事だったとは申されませぬ。しかしわたくしはその途端に多門へ扇を挙げてしまいました。つまり最初の一本の勝は多門のものになったのでございまする。わたくしはしまったと思いました。が、そう思う心の裏には、いや、行司は誤っては居らぬ、誤って居ると思うのは数馬に依怙のあるためだぞと囁くものがあるのでございまする。………", "それからいかが致した?" ], [ "二人はまたもとのように、竹刀の先をすり合せました。一番長い気合のかけ合いはこの時だったかと覚えて居りまする。しかし数馬は相手の竹刀へ竹刀を触れたと思うが早いか、いきなり突を入れました。突はしたたかにはいりました。が、同時に多門の竹刀も数馬の面を打ったのでございまする。わたくしは相打ちを伝えるために、まっ直に扇を挙げて居りました。しかしその時も相打ちではなかったのかもわかりませぬ。あるいは先後を定めるのに迷って居ったのかもわかりませぬ。いや、突のはいったのは面に竹刀を受けるよりも先だったかもわかりませぬ。けれどもとにかく相打ちをした二人は四度目の睨み合いへはいりました。すると今度もしかけたのは数馬からでございました。数馬はもう一度突を入れました。が、この時の数馬の竹刀は心もち先が上って居りました。多門はその竹刀の下を胴へ打ちこもうと致しました。それからかれこれ十合ばかりは互に錂を削りました。しかし最後に入り身になった多門は数馬の面へ打ちこみました。………", "その面は?", "その面は見事にとられました。これだけは誰の目にも疑いのない多門の勝でございまする。数馬はこの面を取られた後、だんだんあせりはじめました。わたくしはあせるのを見るにつけても、今度こそはぜひとも数馬へ扇を挙げたいと思いました。しかしそう思えば思うほど、実は扇を挙げることをためらうようになるのでございまする。二人は今度もしばらくの後、七八合ばかり打ち合いました。その内に数馬はどう思ったか、多門へ体当りを試みました。どう思ったかと申しますのは日頃数馬は体当りなどは決して致さぬゆえでございまする。わたくしははっと思いました。またはっと思ったのも当然のことでございました。多門は体を開いたと思うと、見事にもう一度面を取りました。この最後の勝負ほど、呆気なかったものはございませぬ。わたくしはとうとう三度とも多門へ扇を挙げてしまいました。――わたくしの依怙と申すのはこう云うことでございまする。これは心の秤から見れば、云わば一毫を加えたほどの吊合いの狂いかもわかりませぬ。けれども数馬はこの依怙のために大事の試合を仕損じました。わたくしは数馬の怨んだのも、今はどうやら不思議のない成行だったように思って居りまする。", "じゃがそちの斬り払った時に数馬と申すことを悟ったのは?", "それははっきりとはわかりませぬ。しかし今考えますると、わたくしはどこか心の底に数馬に済まぬと申す気もちを持って居ったかとも思いまする。それゆえたちまち狼藉者を数馬と悟ったかとも思いまする。", "するとそちは数馬の最後を気の毒に思うて居るのじゃな?", "さようでございまする。且はまた先刻も申した通り、一かどの御用も勤まる侍にむざと命を殞させたのは、何よりも上へ対し奉り、申し訣のないことと思って居りまする。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月10日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000138", "作品名": "三右衛門の罪", "作品名読み": "さんえもんのつみ", "ソート用読み": "さんえもんのつみ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1924(大正13)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card138.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/138_ruby_1180.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/138_15156.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "君は長生きをしそうだったがね。", "そうかしら?" ], [ "うん、長いものを少し書きかけていた。", "細君は?", "達者だ。子供もこの頃は病気をしない。", "そりゃまあ何よりだね。僕なんぞもいつ死ぬかわからないが、……" ], [ "君は今お父さんと一しょにいるの?", "ああ、この間から。", "じゃまた。" ], [ "きのう伯母さんやおばあさんとみんな鵠沼へやりました。", "おじいさんは?", "おじいさんは銀行へいらしったんでしょう。", "じゃ誰もいないのかい?", "ええ、あたしと静やだけ。" ], [ "出ているだろう?", "ええ。", "じゃその人はいるんだね?", "ええ。" ], [ "ちゃんとした人じゃないんだね?", "あたしは悪い人とは思いませんけれど、……" ], [ "子供に父と言わせられる人か?", "そんなことを言ったって、……", "駄目だ、いくら弁解しても。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月1日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000146", "作品名": "死後", "作品名読み": "しご", "ソート用読み": "しこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1925(大正14)年9月", "分類番号": "NDC 913 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card146.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集6", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年3月24日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年2月25日第6刷", "校正に使用した版1": "1997(平成9)年4月15日第8刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/146_ruby_1435.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/146_15197.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "何でかばふ。その猿は柑子盗人だぞ。", "畜生でございますから、……" ], [ "兼ね〴〵御云ひつけになりました地獄変の屏風でございますが、私も日夜に丹誠を抽んでて、筆を執りました甲斐が見えまして、もはやあらましは出来上つたのも同前でございまする。", "それは目出度い。予も満足ぢや。" ], [ "なに、描けぬ所がある?", "さやうでございまする。私は総じて、見たものでなければ描けませぬ。よし描けても、得心が参りませぬ。それでは描けぬも同じ事でございませぬか。" ], [ "その車の中には、一人のあでやかな上﨟が、猛火の中に黒髪を乱しながら、悶え苦しんでゐるのでございまする。顔は煙に烟びながら、眉を顰めて、空ざまに車蓋を仰いで居りませう。手は下簾を引きちぎつて、降りかゝる火の粉の雨を防がうとしてゐるかも知れませぬ。さうしてそのまはりには、怪しげな鷙鳥が十羽となく、二十羽となく、嘴を鳴らして紛々と飛び繞つてゐるのでございまする。――あゝ、それが、その牛車の中の上﨟が、どうしても私には描けませぬ。", "さうして――どうぢや。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店    1995(平成7)年11月8日発行 底本の親本:「鼻」春陽堂    1918(大正7)年7月8日発行 ※底本には「堀川」と「堀河」が共に現れる。「堀河」は「堀川」と思われるが、表記の揺れは底本のママとした。 入力:earthian 校正:j.utiyama 1998年12月2日公開 2010年11月6日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000060", "作品名": "地獄変", "作品名読み": "じごくへん", "ソート用読み": "しこくへん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-02T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card60.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集 第一巻", "底本出版社名1": "岩波書店", "底本初版発行年1": "1995(平成7)年11月8日", "入力に使用した版1": "", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "鼻", "底本の親本出版社名1": "春陽堂 ", "底本の親本初版発行年1": "1918(大正7)年7月8日", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "もりみつじゅんじ", "校正者": "j.utiyama", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/60_ruby_821.zip", "テキストファイル最終更新日": "2010-11-06T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "5", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/60_15129.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2010-11-06T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "3" }
[ [ "何でかばふ。その猿は柑子盜人だぞ。", "畜生でございますから、……" ], [ "兼ね〴〵御云ひつけになりました地獄變の屏風でございますが、私も日夜に丹誠を抽んでて、筆を執りました甲斐が見えまして、もはやあらましは出來上つたのも同前でございまする。", "それは目出度い。予も滿足ぢや。" ], [ "なに、描けぬ所がある?", "さやうでございまする。私は總じて、見たものでなければ描けませぬ。よし描けても、得心が參りませぬ。それでは描けぬも同じ事でございませぬか。" ], [ "その車の中には、一人のあでやかな上﨟が、猛火の中に黒髮を亂しながら、悶え苦しんでゐるのでございまする。顏は煙に咽びながら、眉を顰めて、空ざまに車蓋を仰いで居りませう。手は下簾を引きちぎつて、降りかゝる火の粉の雨を防がうとしてゐるかも知れませぬ。さうしてそのまはりには、怪しげな鷙鳥が十羽となく、二十羽となく、嘴を鳴らして紛々と飛び繞つてゐるのでございまする。――あゝ、それが、牛車の中の上﨟が、どうしても私には描けませぬ。", "さうして――どうぢや。" ] ]
底本:「傀儡師」特選名著復刻全集近代文学館、日本近代文学館    1971(昭和46)年5月 ※底本は、「傀儡師」新潮社、1919(大正8)年1月15日発行の複製です。 ※「堀川」と「堀河」、「耳木兎」と「木兎」の混在は底本通りです。 入力:j.utiyama 校正:富田倫生 1999年11月2日公開 2010年11月18日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "何としてまた、吹かぬ事に致したな。", "聊かながら、少納言の菩提を弔おうと存じますから。" ], [ "中御門の少納言殿は、誰故の御最期じゃ。", "予は誰やら知らぬ。が、予でない事だけは、しかとした証もある。", "殿か、殿の父君か。いずれにしても、殿は仇の一味じゃ。" ], [ "そうじゃ。それがまた何と致した。", "いや、何とも致さぬが、もしこの中に少納言殿の御内でないものがいたと思え。そのものこそは天が下の阿呆ものじゃ。" ], [ "ええ、何が阿呆ものじゃ。その阿呆ものの太刀にかかって、最期を遂げる殿の方が、百層倍も阿呆ものじゃとは覚されぬか。", "何、その方どもが阿呆ものだとな。ではこの中に少納言殿の御内でないものもいるのであろう。これは一段と面白うなって参った。さらばその御内でないものどもに、ちと申し聞かす事がある。その方どもが予を殺害しようとするのは、全く金銀が欲しさにする仕事であろうな。さて金銀が欲しいとあれば、予はその方どもに何なりと望み次第の褒美を取らすであろう。が、その代り予の方にもまた頼みがある。何と、同じ金銀のためにする事なら、褒美の多い予の方に味方して、利得を計ったがよいではないか。" ], [ "それは重畳じゃ。何、予が頼みと申しても、格別むずかしい儀ではない。それ、そこに居る老爺は、少納言殿の御内人で、平太夫と申すものであろう。巷の風聞にも聞き及んだが、そやつは日頃予に恨みを含んで、あわよくば予が命を奪おうなどと、大それた企てさえ致して居ると申す事じゃ。さればその方どもがこの度の結構も、平太夫めに唆されて、事を挙げたのに相違あるまい。――", "さようでございます。" ], [ "いや、それよりも始めから、捨てられる心算で居ると申した方が、一層予の心もちにはふさわしいように思われる。", "たんと御弄り遊ばしまし。" ], [ "何と、爺もそう思うであろうな。もっともその方には恋とは申さぬ。が、好物の酒ではどうじゃ。", "いえ、却々持ちまして、手前は後生が恐ろしゅうございます。" ], [ "いや、その答えが何よりじゃ。爺は後生が恐ろしいと申すが、彼岸に往生しょうと思う心は、それを暗夜の燈火とも頼んで、この世の無常を忘れようと思う心には変りはない。じゃによってその方も、釈教と恋との相違こそあれ、所詮は予と同心に極まったぞ。", "これはまた滅相な。成程御姫様の御美しさは、伎芸天女も及ばぬほどではございますが、恋は恋、釈教は釈教、まして好物の御酒などと、一つ際には申せませぬ。", "そう思うのはその方の心が狭いからの事じゃ。弥陀も女人も、予の前には、皆われらの悲しさを忘れさせる傀儡の類いにほかならぬ。――" ], [ "摩利と申すからは、摩利支天を祭る教のようじゃな。", "いえ、摩利支天ならよろしゅうございますが、その教の本尊は、見慣れぬ女菩薩の姿じゃと申す事でございます。", "では、波斯匿王の妃の宮であった、茉利夫人の事でも申すと見える。" ], [ "いや、何とも申されぬ。現に延喜の御門の御代には、五条あたりの柿の梢に、七日の間天狗が御仏の形となって、白毫光を放ったとある。また仏眼寺の仁照阿闍梨を日毎に凌じに参ったのも、姿は女と見えたが実は天狗じゃ。", "まあ、気味の悪い事を仰有います。" ], [ "わしもその方に会ったのは何よりも満足じゃ。いつぞや油小路の道祖の神の祠の前でも、ちらと見かけた事があったが、その方は側目もふらず、文をつけた橘の枝を力なくかつぎながら、もの思わしげにたどたどと屋形の方へ歩いて参った。", "さようでございますか。それはまた年甲斐もなく、失礼な事を致したものでございます。" ], [ "しかしこうして今日御眼にかかれたのは、全く清水寺の観世音菩薩の御利益ででもございましょう。平太夫一生の内に、これほど嬉しい事はございません。", "いや、予が前で神仏の名は申すまい。不肖ながら、予は天上皇帝の神勅を蒙って、わが日の本に摩利の教を布こうと致す沙門の身じゃ。" ], [ "いや、何もあったと申すほどの仔細はない。が、予は昨夜もあの菰だれの中で、独りうとうとと眠って居ると、柳の五つ衣を着た姫君の姿が、夢に予の枕もとへ歩みよられた。ただ、現と異ったは、日頃つややかな黒髪が、朦朧と煙った中に、黄金の釵子が怪しげな光を放って居っただけじゃ。予は絶えて久しい対面の嬉しさに、『ようこそ見えられた』と声をかけたが、姫君は悲しげな眼を伏せて、予の前に坐られたまま、答えさえせらるる気色はない。と思えば紅の袴の裾に、何やら蠢いているものの姿が見えた。それが袴の裾ばかりか、よう見るに従って、肩にも居れば、胸にも居る。中には黒髪の中にいて、えせ笑うらしいものもあった。――", "と仰有っただけでは解せませんが、一体何が居ったのでございます。" ], [ "一体あの摩利信乃法師と云う男が、どうして姫君を知って居るのだか、それは元より私にも不思議と申すほかはありませんが、とにかくあの沙門が姫君の御意を得るような事でもあると、どうもこの御屋形の殿様の御身の上には、思いもよらない凶変でも起りそうな不吉な気がするのです。が、このような事は殿様に申上げても、あの通りの御気象ですから、決して御取り上げにはならないのに相違ありません。そこで、私は私の一存で、あの沙門を姫君の御目にかかれないようにしようと思うのですが、叔父さんの御考えはどういうものでしょう。", "それはわしも、あの怪しげな天狗法師などに姫君の御顔を拝ませたく無い。が、御主もわしも、殿様の御用を欠かぬ限りは、西洞院の御屋形の警護ばかりして居る訳にも行かぬ筈じゃ。されば御主はあの沙門を、姫君の御身のまわりに、近づけぬと云うたにした所で。――", "さあ。そこです。姫君の思召しも私共には分りませんし、その上あすこには平太夫と云う老爺も居りますから、摩利信乃法師が西洞院の御屋形に立寄るのは、迂闊に邪魔も出来ません。が、四条河原の蓆張りの小屋ならば、毎晩きっとあの沙門が寝泊りする所ですから、随分こちらの思案次第で、二度とあの沙門が洛中へ出て来ないようにすることも出来そうなものだと思うのです。", "と云うて、あの小屋で見張りをしてる訳にも行くまい。御主の申す事は、何やら謎めいた所があって、わしのような年寄りには、十分に解し兼ねるが、一体御主はあの摩利信乃法師をどうしようと云う心算なのじゃ。" ], [ "何、高があの通りの乞食法師です。たとい加勢の二三人はあろうとも、仕止めるのに造作はありますまい。", "が、それはどうもちと無法なようじゃ。成程あの摩利信乃法師は邪宗門を拡めては歩いて居ようが、そのほかには何一つ罪らしい罪も犯して居らぬ。さればあの沙門を殺すのは、云わば無辜を殺すとでも申そう。――", "いや、理窟はどうでもつくものです。それよりももしあの沙門が、例の天上皇帝の力か何か藉りて、殿様や姫君を呪うような事があったとして御覧なさい。叔父さん始め私まで、こうして禄を頂いている甲斐がないじゃありませんか。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996年(平成8)7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」    1971(昭和46)年3月~11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月7日公開 2004年1月31日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです
{ "作品ID": "000059", "作品名": "邪宗門", "作品名読み": "じゃしゅうもん", "ソート用読み": "しやしゆうもん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-07T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card59.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集2", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年10月28日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)7月15日第11刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)7月15日第11刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/59_ruby_849.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-01-31T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/59_14480.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-01-31T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "おい、何か飲む所はないかな。僕は莫迦に喉が渇くんだが。", "すぐ其処にカッフェが一軒ある。もう少しの辛抱だ。" ], [ "人生は、――何だい?", "人生は薔薇を撒き散らした路であるさ。" ], [ "女傑ですね。第一若いのに驚きました。", "あの人は何でも若い時分に真珠の粉末を呑んでいたそうです。真珠は不老の薬ですからね。あの人は鴉片を呑まないと、もっと若くも見える人ですよ。" ], [ "どうです、支那の女は? 好きですか?", "何処の女も好きですが、支那の女も綺麗ですね。", "何処が好いと思いますか?", "そうですね。一番美しいのは耳かと思います。" ], [ "僮あり、直に予等を引いて応接室に到る。長方形の卓一、洋風の椅子二三、卓上に盤あり。陶製の果物を盛る。この梨、この葡萄、この林檎、――この拙き自然の摸倣以外に、一も目を慰むべき装飾なし。然れども室に塵埃を見ず。簡素の気に満てるは愉快なり。", "数分の後、李人傑氏来る。氏は小づくりの青年なり。やや長き髪。細面。血色は余り宜しからず。才気ある眼。小さき手。態度は頗る真摯なり。その真摯は同時に又、鋭敏なる神経を想察せしむ。刹那の印象は悪しからず。恰も細且強靭なる時計の弾機に触れしが如し。卓を隔てて予と相対す。氏は鼠色の大掛児を着たり。" ], [ "今月中央公論に御出しになった『鴉』と云う小説は、大へん面白うございました。", "いえ、あれは悪作です。" ] ]
底本:「上海游記・江南游記」講談社文芸文庫、講談社    2001(平成13)年10月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八巻」岩波書店    1996(平成8)年6月発行 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 ※編集部による注は省略しました。 入力:門田裕志 校正:岡山勝美 2015年4月6日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "051215", "作品名": "上海游記", "作品名読み": "しゃんはいゆうき", "ソート用読み": "しやんはいゆうき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 915", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2015-05-24T00:00:00", "最終更新日": "2015-04-06T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card51215.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "上海游記・江南游記", "底本出版社名1": "講談社文芸文庫、講談社", "底本初版発行年1": "2001(平成13)年10月10日", "入力に使用した版1": "2001(平成13)年10月10日第1刷", "校正に使用した版1": "2001(平成13)年10月10日第1刷", "底本の親本名1": "芥川龍之介全集 第八巻", "底本の親本出版社名1": "岩波書店", "底本の親本初版発行年1": "1996(平成8)年6月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "門田裕志", "校正者": "岡山勝美", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/51215_ruby_56333.zip", "テキストファイル最終更新日": "2015-04-06T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/51215_56381.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2015-04-06T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "朝日をくれ給え。", "朝日?" ], [ "お早うございます。", "大分蒸すようになりましたね。", "お嬢さんはいかがですか? 御病気のように聞きましたが、……", "難有う。やっと昨日退院しました。" ], [ "あしたはもう日曜ですね。この頃もやっぱり日曜にゃ必ず東京へお出かけですか?", "ええ、――いいえ、明日は行かないことにしました。", "どうして?", "実はその――貧乏なんです。", "常談でしょう。" ], [ "いや、実は小遣いは、――小遣いはないのに違いないんですが、――東京へ行けばどうかなりますし、――第一もう東京へは行かないことにしているんですから。……", "まあ、取ってお置きなさい。これでも無いよりはましですから。", "実際必要はないんです。難有うございますが、……" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000062", "作品名": "十円札", "作品名読み": "じゅうえんさつ", "ソート用読み": "しゆうえんさつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1924(大正13)年9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card62.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/62_ruby_1087.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/62_15198.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "さあ、それが見たと言って好いか、見ないと言って好いか、不思議なことになっているのですが、――", "見たと言って好いか、見ないと言って好いか、――" ], [ "模本でもご覧になったのですか?", "いや、模本を見たのでもないのです。とにかく真蹟は見たのですが、――それも私ばかりではありません。この秋山図のことについては、煙客先生(王時敏)や廉州先生(王鑑)も、それぞれ因縁がおありなのです" ], [ "ご退屈でなければ話しましょうか?", "どうぞ" ], [ "では機会のあり次第、ぜひ一度は見ておおきなさい。夏山図や浮嵐図に比べると、また一段と出色の作です。おそらくは大癡老人の諸本の中でも、白眉ではないかと思いますよ", "そんな傑作ですか? それはぜひ見たいものですが、いったい誰が持っているのです?", "潤州の張氏の家にあるのです。金山寺へでも行った時に、門を叩いてご覧なさい。私が紹介状を書いて上げます" ], [ "なぜまたそれがご不審なのです?", "いや、別に不審という訳ではないのですが、実は、――" ], [ "これまでは私が煙客先生から、聞かせられた話なのです", "では煙客先生だけは、たしかに秋山図を見られたのですか?" ], [ "先生は見たと言われるのです。が、たしかに見られたのかどうか、それは誰にもわかりません", "しかしお話の容子では、――", "まあ先をお聴きください。しまいまでお聴きくだされば、また自ら私とは違ったお考が出るかもしれません" ], [ "これは?", "これは癡翁第一の名作でしょう。――この雲煙の濃淡をご覧なさい。元気淋漓じゃありませんか。林木なぞの設色も、まさに天造とも称すべきものです。あすこに遠峯が一つ見えましょう。全体の布局があのために、どのくらい活きているかわかりません" ], [ "その後王氏も熱心に、いろいろ尋ねてみたそうですが、やはり癡翁の秋山図と言えば、あれ以外に張氏も知らなかったそうです。ですから昔煙客先生が見られたという秋山図は、今でもどこかに隠れているか、あるいはそれが先生の記憶の間違いに過ぎないのか、どちらとも私にはわかりません。まさか先生が張氏の家へ、秋山図を見に行かれたことが、全体幻でもありますまいし、――", "しかし煙客先生の心の中には、その怪しい秋山図が、はっきり残っているのでしょう。それからあなたの心の中にも、――", "山石の青緑だの紅葉の硃の色だのは、今でもありあり見えるようです", "では秋山図がないにしても、憾むところはないではありませんか?" ] ]
底本:「日本文学全集28芥川龍之介集」集英社    1972(昭和47)年9月8日発行 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年5月15日公開 2009年9月16日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "大雅は余程呑気な人で、世情に疎かった事は、其室玉瀾を迎えた時に夫婦の交りを知らなかったと云うので略其人物が察せられる。", "大雅が妻を迎えて夫婦の道を知らなかったと云う様な話も、人間離れがしていて面白いと云えば、面白いと云えるが、丸で常識のない愚かな事だと云えば、そうも云えるだろう。" ] ]
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行    (「序」は、筑摩書房刊 ちくま文庫『芥川龍之介全集7』) 親本:岩波書店刊「芥川龍之介全集」    1977(昭和52)年~1978(昭和53)年 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月13日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "大雅は余程呑気な人で、世情に疎かつた事は、其室玉瀾を迎へた時に夫婦の交りを知らなかつたと云ふので略其人物が察せられる。", "大雅が妻を迎へて夫婦の道を知らなかつたと云ふ様な話も、人間離れがしてゐて面白いと云へば、面白いと云へるが、丸で常識のない愚かな事だと云へば、さうも云へるだらう。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集 第十三巻」岩波書店    1996(平成8)年11月8日発行 初出:「文芸春秋 第一年第一号~第三年第一一号」    1923(大正12)年1月1日~1925(大正14)年11月1日 入力:五十嵐仁 校正:林 幸雄 2007年8月15日作成 2007年10月14日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "何の用でせう。", "まづ、物貰ひですな。信施でもしてくれと云ふのでせう。" ], [ "病――ですかな。", "さうです。" ], [ "では、針でも使ひますかな。", "なに、もつと造作のない事です。", "では呪ですかな。", "いや、呪でもありません。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店    1995(平成7)年11月8日発行 親本:「鼻」春陽堂    1918(大正7)年7月8日発行 入力:earthian 校正:林めぐみ 1998年11月13日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "へえ、乞食かね", "乞食さ。毎日、波止場をうろついているらしい。己はここへよく来るから、知っている" ] ]
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月12日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000160", "作品名": "出帆", "作品名読み": "しゅっぱん", "ソート用読み": "しゆつはん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1916(大正5)年10月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-12T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card160.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "羅生門・鼻・芋粥", "底本出版社名1": "角川文庫、角川書店", "底本初版発行年1": "1950(昭和25)年10月20日", "入力に使用した版1": "1985(昭和60)年11月10日改版38版", "校正に使用した版1": "1985(昭和60)年11月10日改版38版", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/160_ruby_1235.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/160_15199.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "はい、もう泣きは致しません。御房は、――御房の御住居は、この界隈でございますか?", "住居か? 住居はあの山の陰じゃ。" ], [ "住居と云っても、檜肌葺きではないぞ。", "はい、それは承知して居ります。何しろこんな離れ島でございますから、――" ], [ "成経様や康頼様が、御話しになった所では、この島の土人も鬼のように、情を知らぬ事かと存じましたが、――", "なるほど、都にいるものには、そう思われるに相違あるまい。が、流人とは云うものの、おれたちは皆都人じゃ。辺土の民はいつの世にも、都人と見れば頭を下げる。業平の朝臣、実方の朝臣、――皆大同小異ではないか? ああ云う都人もおれのように、東や陸奥へ下った事は、思いのほか楽しい旅だったかも知れぬ。", "しかし実方の朝臣などは、御隠れになった後でさえ、都恋しさの一念から、台盤所の雀になったと、云い伝えて居るではありませんか?", "そう云う噂を立てたものは、お前と同じ都人じゃ。鬼界が島の土人と云えば、鬼のように思う都人じゃ。して見ればこれも当てにはならぬ。" ], [ "抱いていた児も少将の胤じゃよ。", "なるほど、そう伺って見れば、こう云う辺土にも似合わない、美しい顔をして居りました。", "何、美しい顔をしていた? 美しい顔とはどう云う顔じゃ?", "まあ、眼の細い、頬のふくらんだ、鼻の余り高くない、おっとりした顔かと思いますが、――", "それもやはり都の好みじゃ。この島ではまず眼の大きい、頬のどこかほっそりした、鼻も人よりは心もち高い、きりりした顔が尊まれる。そのために今の女なぞも、ここでは誰も美しいとは云わぬ。" ], [ "やはり土人の悲しさには、美しいと云う事を知らないのですね。そうするとこの島の土人たちは、都の上臈を見せてやっても、皆醜いと笑いますかしら?", "いや、美しいと云う事は、この島の土人も知らぬではない。ただ好みが違っているのじゃ。しかし好みと云うものも、万代不変とは請合われぬ。その証拠には御寺御寺の、御仏の御姿を拝むが好い。三界六道の教主、十方最勝、光明無量、三学無碍、億億衆生引導の能化、南無大慈大悲釈迦牟尼如来も、三十二相八十種好の御姿は、時代ごとにいろいろ御変りになった。御仏でももしそうとすれば、如何かこれ美人と云う事も、時代ごとにやはり違う筈じゃ。都でもこの後五百年か、あるいはまた一千年か、とにかくその好みの変る時には、この島の土人の女どころか、南蛮北狄の女のように、凄まじい顔がはやるかも知れぬ。", "まさかそんな事もありますまい。我国ぶりはいつの世にも、我国ぶりでいる筈ですから。", "所がその我国ぶりも、時と場合では当てにならぬ。たとえば当世の上臈の顔は、唐朝の御仏に活写しじゃ。これは都人の顔の好みが、唐土になずんでいる証拠ではないか? すると人皇何代かの後には、碧眼の胡人の女の顔にも、うつつをぬかす時がないとは云われぬ。" ], [ "姫はどうじゃ? 伯母御前にはようなついているか?", "はい。御睦しいように存じました。" ], [ "わたしは都にいた時の通り、御側勤めをするつもりです。年とった一人の母さえ捨て、兄弟にも仔細は話さずに、はるばるこの島へ渡って来たのは、そのためばかりではありませんか? わたしはそうおっしゃられるほど、命が惜いように見えるでしょうか? わたしはそれほど恩義を知らぬ、人非人のように見えるでしょうか? わたしはそれほど、――", "それほど愚かとは思わなかった。" ], [ "おれがこの島へ流されたのは、治承元年七月の始じゃ。おれは一度も成親の卿と、天下なぞを計った覚えはない。それが西八条へ籠められた後、いきなり、この島へ流されたのじゃから、始はおれも忌々しさの余り、飯を食う気さえ起らなかった。", "しかし都の噂では、――" ], [ "僧都の御房も宗人の一人に、おなりになったとか云う事ですが、――", "それはそう思うに違いない。成親の卿さえ宗人の一人に、おれを数えていたそうじゃから、――しかしおれは宗人ではない。浄海入道の天下が好いか、成親の卿の天下が好いか、それさえおれにはわからぬほどじゃ。事によると成親の卿は、浄海入道よりひがんでいるだけ、天下の政治には不向きかも知れぬ。おれはただ平家の天下は、ないに若かぬと云っただけじゃ。源平藤橘、どの天下も結局あるのはないに若かぬ。この島の土人を見るが好い。平家の代でも源氏の代でも、同じように芋を食うては、同じように子を生んでいる。天下の役人は役人がいぬと、天下も亡ぶように思っているが、それは役人のうぬ惚れだけじゃ。", "が僧都の御房の天下になれば、何御不足にもありますまい。" ], [ "成親の卿の天下同様、平家の天下より悪いかも知れぬ。何故と云えば俊寛は、浄海入道より物わかりが好い。物わかりが好ければ政治なぞには、夢中になれぬ筈ではないか? 理非曲直も弁えずに、途方もない夢ばかり見続けている、――そこが高平太の強い所じゃ。小松の内府なぞは利巧なだけに、天下を料理するとなれば、浄海入道より数段下じゃ。内府も始終病身じゃと云うが、平家一門のためを計れば、一日も早く死んだが好い。その上またおれにしても、食色の二性を離れぬ事は、浄海入道と似たようなものじゃ。そう云う凡夫の取った天下は、やはり衆生のためにはならぬ。所詮人界が浄土になるには、御仏の御天下を待つほかはあるまい。――おれはそう思っていたから、天下を計る心なぞは、微塵も貯えてはいなかった。", "しかしあの頃は毎夜のように、中御門高倉の大納言様へ、御通いなすったではありませんか?" ], [ "そこが凡夫の浅ましさじゃ。ちょうどあの頃あの屋形には、鶴の前と云う上童があった。これがいかなる天魔の化身か、おれを捉えて離さぬのじゃ。おれの一生の不仕合わせは、皆あの女がいたばかりに、降って湧いたと云うても好い。女房に横面を打たれたのも、鹿ヶ谷の山荘を仮したのも、しまいにこの島へ流されたのも、――しかし有王、喜んでくれい。おれは鶴の前に夢中になっても、謀叛の宗人にはならなかった。女人に愛楽を生じたためしは、古今の聖者にも稀ではない。大幻術の摩登伽女には、阿難尊者さえ迷わせられた。竜樹菩薩も在俗の時には、王宮の美人を偸むために、隠形の術を修せられたそうじゃ。しかし謀叛人になった聖者は、天竺震旦本朝を問わず、ただの一人もあった事は聞かぬ。これは聞かぬのも不思議はない。女人に愛楽を生ずるのは、五根の欲を放つだけの事じゃ。が、謀叛を企てるには、貪嗔癡の三毒を具えねばならぬ。聖者は五欲を放たれても、三毒の害は受けられぬのじゃ。して見ればおれの知慧の光も、五欲のために曇ったと云え、消えはしなかったと云わねばなるまい。――が、それはともかくも、おれはこの島へ渡った当座、毎日忌々しい思いをしていた。", "それはさぞかし御難儀だったでしょう。御食事は勿論、御召し物さえ、御不自由勝ちに違いありませんから。", "いや、衣食は春秋二度ずつ、肥前の国鹿瀬の荘から、少将のもとへ送って来た。鹿瀬の荘は少将の舅、平の教盛の所領の地じゃ。その上おれは一年ほどたつと、この島の風土にも慣れてしまった。が、忌々しさを忘れるには、一しょに流された相手が悪い。丹波の少将成経などは、ふさいでいなければ居睡りをしていた。", "成経様は御年若でもあり、父君の御不運を御思いになっては、御歎きなさるのもごもっともです。", "何、少将はおれと同様、天下はどうなってもかまわぬ男じゃ。あの男は琵琶でも掻き鳴らしたり、桜の花でも眺めたり、上臈に恋歌でもつけていれば、それが極楽じゃと思うている。じゃからおれに会いさえすれば、謀叛人の父ばかり怨んでいた。", "しかし康頼様は僧都の御房と、御親しいように伺いましたが。", "ところがこれが難物なのじゃ。康頼は何でも願さえかければ、天神地神諸仏菩薩、ことごとくあの男の云うなり次第に、利益を垂れると思うている。つまり康頼の考えでは、神仏も商人と同じなのじゃ。ただ神仏は商人のように、金銭では冥護を御売りにならぬ。じゃから祭文を読む。香火を供える。この後の山なぞには、姿の好い松が沢山あったが、皆康頼に伐られてしもうた。伐って何にするかと思えば、千本の卒塔婆を拵えた上、一々それに歌を書いては、海の中へ抛りこむのじゃ。おれはまだ康頼くらい、現金な男は見た事がない。", "それでも莫迦にはなりません。都の噂ではその卒塔婆が、熊野にも一本、厳島にも一本、流れ寄ったとか申していました。", "千本の中には一本や二本、日本の土地へも着きそうなものじゃ。ほんとうに冥護を信ずるならば、たった一本流すが好い。その上康頼は難有そうに、千本の卒塔婆を流す時でも、始終風向きを考えていたぞ。いつかおれはあの男が、海へ卒塔婆を流す時に、帰命頂礼熊野三所の権現、分けては日吉山王、王子の眷属、総じては上は梵天帝釈、下は堅牢地神、殊には内海外海竜神八部、応護の眦を垂れさせ給えと唱えたから、その跡へ並びに西風大明神、黒潮権現も守らせ給え、謹上再拝とつけてやった。", "悪い御冗談をなさいます。" ], [ "すると康頼は怒ったぞ。ああ云う大嗔恚を起すようでは、現世利益はともかくも、後生往生は覚束ないものじゃ。――が、その内に困まった事には、少将もいつか康頼と一しょに、神信心を始めたではないか? それも熊野とか王子とか、由緒のある神を拝むのではない。この島の火山には鎮護のためか、岩殿と云う祠がある。その岩殿へ詣でるのじゃ。――火山と云えば思い出したが、お前はまだ火山を見た事はあるまい?", "はい、たださっき榕樹の梢に、薄赤い煙のたなびいた、禿げ山の姿を眺めただけです。", "では明日でもおれと一しょに、頂へ登って見るが好い。頂へ行けばこの島ばかりか、大海の景色は手にとるようじゃ。岩殿の祠も途中にある、――その岩殿へ詣でるのに、康頼はおれにも行けと云うたが、おれは容易には行こうとは云わぬ。", "都では僧都の御房一人、そう云う神詣でもなさらないために、御残されになったと申して居ります。", "いや、それはそうかも知れぬ。" ], [ "もし岩殿に霊があれば、俊寛一人を残したまま、二人の都返りを取り持つくらいは、何とも思わぬ禍津神じゃ。お前はさっきおれが教えた、少将の女房を覚えているか? あの女もやはり岩殿へ、少将がこの島を去らぬように、毎日毎夜詣でたものじゃ。所がその願は少しも通らぬ。すると岩殿と云う神は、天魔にも増した横道者じゃ。天魔には世尊御出世の時から、諸悪を行うと云う戒行がある。もし岩殿の神の代りに、天魔があの祠にいるとすれば、少将は都へ帰る途中、船から落ちるか、熱病になるか、とにかくに死んだのに相違ない。これが少将もあの女も、同時に破滅させる唯一の途じゃ。が、岩殿は人間のように、諸善ばかりも行わねば、諸悪ばかりも行わぬらしい。もっともこれは岩殿には限らぬ。奥州名取郡笠島の道祖は、都の加茂河原の西、一条の北の辺に住ませられる、出雲路の道祖の御娘じゃ。が、この神は父の神が、まだ聟の神も探されぬ内に、若い都の商人と妹背の契を結んだ上、さっさと奥へ落ちて来られた。こうなっては凡夫も同じではないか? あの実方の中将は、この神の前を通られる時、下馬も拝もされなかったばかりに、とうとう蹴殺されておしまいなすった。こう云う人間に近い神は、五塵を離れていぬのじゃから、何を仕出かすか油断はならぬ。このためしでもわかる通り、一体神と云うものは、人間離れをせぬ限り、崇めろと云えた義理ではない。――が、そんな事は話の枝葉じゃ。康頼と少将とは一心に、岩殿詣でを続け出した。それも岩殿を熊野になぞらえ、あの浦は和歌浦、この坂は蕪坂なぞと、一々名をつけてやるのじゃから、まず童たちが鹿狩と云っては、小犬を追いまわすのも同じ事じゃ。ただ音無の滝だけは本物よりもずっと大きかった。", "それでも都の噂では、奇瑞があったとか申していますが。", "その奇瑞の一つはこうじゃ。結願の当日岩殿の前に、二人が法施を手向けていると、山風が木々を煽った拍子に、椿の葉が二枚こぼれて来た。その椿の葉には二枚とも、虫の食った跡が残っている。それが一つには帰雁とあり、一つには二とあったそうじゃ。合せて読めば帰雁二となる、――こんな事が嬉しいのか、康頼は翌日得々と、おれにもその葉を見せなぞした。成程二とは読めぬでもない。が、帰雁はいかにも無理じゃ。おれは余り可笑しかったから、次の日山へ行った帰りに、椿の葉を何枚も拾って来てやった。その葉の虫食いを続けて読めば、帰雁二どころの騒ぎではない。『明日帰洛』と云うのもある。『清盛横死』と云うのもある。『康頼往生』と云うのもある。おれはさぞかし康頼も、喜ぶじゃろうと思うたが、――", "それは御立腹なすったでしょう。", "康頼は怒るのに妙を得ている。舞も洛中に並びないが、腹を立てるのは一段と巧者じゃ。あの男は謀叛なぞに加わったのも、嗔恚に牽かれたのに相違ない。その嗔恚の源はと云えば、やはり増長慢のなせる業じゃ。平家は高平太以下皆悪人、こちらは大納言以下皆善人、――康頼はこう思うている。そのうぬ惚れがためにならぬ。またさっきも云うた通り、我々凡夫は誰も彼も、皆高平太と同様なのじゃ。が、康頼の腹を立てるのが好いか、少将のため息をするのが好いか、どちらが好いかはおれにもわからぬ。", "成経様御一人だけは、御妻子もあったそうですから、御紛れになる事もありましたろうに。", "ところが始終蒼い顔をしては、つまらぬ愚痴ばかりこぼしていた。たとえば谷間の椿を見ると、この島には桜も咲かないと云う。火山の頂の煙を見ると、この島には青い山もないと云う。何でもそこにある物は云わずに、ない物だけ並べ立てているのじゃ。一度なぞはおれと一しょに、磯山へ槖吾を摘みに行ったら、ああ、わたしはどうすれば好いのか、ここには加茂川の流れもないと云うた。おれがあの時吹き出さなかったのは、我立つ杣の地主権現、日吉の御冥護に違いない。が、おれは莫迦莫迦しかったから、ここには福原の獄もない、平相国入道浄海もいない、難有い難有いとこう云うた。", "そんな事をおっしゃっては、いくら少将でも御腹立ちになりましたろう。", "いや、怒られれば本望じゃ。が、少将はおれの顔を見ると、悲しそうに首を振りながら、あなたには何もおわかりにならない、あなたは仕合せな方ですと云うた。ああ云う返答は、怒られるよりも難儀じゃ。おれは、――実はおれもその時だけは、妙に気が沈んでしもうた。もし少将の云うように、何もわからぬおれじゃったら、気も沈まずにすんだかも知れぬ。しかしおれにはわかっているのじゃ。おれも一時は少将のように、眼の中の涙を誇ったことがある。その涙に透かして見れば、あの死んだ女房も、どのくらい美しい女に見えたか、――おれはそんな事を考えると、急に少将が気の毒になった。が、気の毒になって見ても、可笑しいものは可笑しいではないか? そこでおれは笑いながら、言葉だけは真面目に慰めようとした。おれが少将に怒られたのは、跡にも先にもあの時だけじゃ。少将はおれが慰めてやると、急に恐しい顔をしながら、嘘をおつきなさい。わたしはあなたに慰められるよりも、笑われる方が本望ですと云うた。その途端に、――妙ではないか? とうとうおれは吹き出してしもうた。", "少将はどうなさいました?", "四五日の間はおれに遇うても、挨拶さえ碌にしなかった。が、その後また遇うたら、悲しそうに首を振っては、ああ、都へ返りたい、ここには牛車も通らないと云うた。あの男こそおれより仕合せものじゃ。――が、少将や康頼でも、やはり居らぬよりは、いた方が好い。二人に都へ帰られた当座、おれはまた二年ぶりに、毎日寂しゅうてならなかった。", "都の噂では御寂しいどころか、御歎き死にもなさり兼ねない、御容子だったとか申していました。" ], [ "では都の噂通り、あの松浦の佐用姫のように、御別れを御惜しみなすったのですか?", "二年の間同じ島に、話し合うた友だちと別れるのじゃ。別れを惜しむのは当然ではないか? しかし何度も手招ぎをしたのは、別れを惜しんだばかりではない。――一体あの時おれの所へ、船のはいったのを知らせたのは、この島にいる琉球人じゃ。それが浜べから飛んで来ると、息も切れ切れに船々と云う。船はまずわかったものの、何の船がはいって来たのか、そのほかの言葉はさっぱりわからぬ。あれはあの男もうろたえた余り、日本語と琉球語とを交る交る、饒舌っていたのに違いあるまい。おれはともかくも船と云うから、早速浜べへ出かけて見た。すると浜べにはいつのまにか、土人が大勢集っている。その上に高い帆柱のあるのが、云うまでもない迎いの船じゃ。おれもその船を見た時には、さすがに心が躍るような気がした。少将や康頼はおれより先に、もう船の側へ駈けつけていたが、この喜びようも一通りではない。現にあの琉球人なぞは、二人とも毒蛇に噛まれた揚句、気が狂ったのかと思うたくらいじゃ。その内に六波羅から使に立った、丹左衛門尉基安は、少将に赦免の教書を渡した。が、少将の読むのを聞けば、おれの名前がはいっていない。おれだけは赦免にならぬのじゃ。――そう思ったおれの心の中には、わずか一弾指の間じゃが、いろいろの事が浮んで来た。姫や若の顔、女房の罵る声、京極の屋形の庭の景色、天竺の早利即利兄弟、震旦の一行阿闍梨、本朝の実方の朝臣、――とても一々数えてはいられぬ。ただ今でも可笑しいのは、その中にふと車を引いた、赤牛の尻が見えた事じゃ。しかしおれは一心に、騒がぬ容子をつくっていた。勿論少将や康頼は、気の毒そうにおれを慰めたり、俊寛も一しょに乗せてくれいと、使にも頼んだりしていたようじゃ。が、赦免の下らぬものは、何をどうしても、船へは乗れぬ。おれは不動心を振い起しながら、何故おれ一人赦免に洩れたか、その訳をいろいろ考えて見た。高平太はおれを憎んでいる。――それも確かには違いない。しかし高平太は憎むばかりか、内心おれを恐れている。おれは前の法勝寺の執行じゃ。兵仗の道は知る筈がない。が、天下は思いのほか、おれの議論に応ずるかも知れぬ。――高平太はそこを恐れているのじゃ。おれはこう考えたら、苦笑せずにはいられなかった。山門や源氏の侍どもに、都合の好い議論を拵えるのは、西光法師などの嵌り役じゃ。おれは眇たる一平家に、心を労するほど老耄れはせぬ。さっきもお前に云うた通り、天下は誰でも取っているが好い。おれは一巻の経文のほかに、鶴の前でもいれば安堵している。しかし浄海入道になると、浅学短才の悲しさに、俊寛も無気味に思うているのじゃ。して見れば首でも刎ねられる代りに、この島に一人残されるのは、まだ仕合せの内かも知れぬ。――そんな事を思うている間に、いよいよ船出と云う時になった。すると少将の妻になった女が、あの赤児を抱いたまま、どうかその船に乗せてくれいと云う。おれは気の毒に思うたから、女は咎めるにも及ぶまいと、使の基安に頼んでやった。が、基安は取り合いもせぬ。あの男は勿論役目のほかは、何一つ知らぬ木偶の坊じゃ。おれもあの男は咎めずとも好い。ただ罪の深いのは少将じゃ。――" ], [ "しかしその後は格別に、御歎きなさる事はなかったのですか?", "歎いても仕方はないではないか? その上時のたつ内には、寂しさも次第に消えて行った。おれは今では己身の中に、本仏を見るより望みはない。自土即浄土と観じさえすれば、大歓喜の笑い声も、火山から炎の迸るように、自然と湧いて来なければならぬ。おれはどこまでも自力の信者じゃ。――おお、まだ一つ忘れていた。あの女は泣き伏したぎり、いつまでたっても動こうとせぬ。その内に土人も散じてしまう。船は青空に紛れるばかりじゃ。おれは余りのいじらしさに、慰めてやりたいと思うたから、そっと後手に抱き起そうとした。するとあの女はどうしたと思う? いきなりおれをはり倒したのじゃ。おれは目が眩らみながら、仰向けにそこへ倒れてしもうた。おれの肉身に宿らせ給う、諸仏諸菩薩諸明王も、あれには驚かれたに相違ない。しかしやっと起き上って見ると、あの女はもう村の方へ、すごすご歩いて行く所じゃった。何、おれをはり倒した訳か? それはあの女に聞いたが好い。が、事によると人気はなし、凌ぜられるとでも思ったかも知れぬ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「中央公論」    1922(大正11)年1月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2012年3月20日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "どうだい? 大したものじゃないか? 白襷隊になるのも名誉だな。", "何が名誉だ?" ], [ "こちとらはみんな死に行くのだぜ。して見ればあれは××××××××××××××そうって云うのだ。こんな安上りな事はなかろうじゃねえか?", "それはいけない。そんな事を云っては×××すまない。", "べらぼうめ! すむもすまねえもあるものか! 酒保の酒を一合買うのでも、敬礼だけでは売りはしめえ。" ], [ "第×聯隊だ。", "パン聯隊だな。" ], [ "はい。歩兵第×聯隊であります。", "そうか。大元気にやってくれ。" ], [ "どうだい、握手で××××のは?", "いけねえ。いけねえ。人真似をしちゃ。" ], [ "そうだ。みんな御国のために捨てる命だ。", "おれは何のためだか知らないが、ただ捨ててやるつもりなのだ。×××××××でも向けられて見ろ。何でも持って行けと云う気になるだろう。" ], [ "はい。", "お前だな、こいつらを掴まえたのは? 掴まえた時どんなだったか?" ], [ "私が歩哨に立っていたのは、この村の土塀の北端、奉天に通ずる街道であります。その支那人は二人とも、奉天の方向から歩いて来ました。すると木の上の中隊長が、――", "何、木の上の中隊長?" ], [ "はい。中隊長は展望のため、木の上に登っていられたのであります。――その中隊長が木の上から、掴まえろと私に命令されました。", "ところが私が捉えようとすると、そちらの男が、――はい。その髯のない男であります。その男が急に逃げようとしました。……", "それだけか?", "はい。それだけであります。", "よし。" ], [ "間牒でなければ何故逃げたか?", "それは逃げるのが当然です。何しろいきなり日本兵が、躍りかかってきたのですから。" ], [ "何か、これは?", "私は鍼医です。" ], [ "しかし靴とはまた考えたものですね。――おい、もうその連中には着物を着せてやれ。――こんな間牒は始めてです。", "軍司令官閣下の烱眼には驚きました。" ], [ "わしはすぐに靴と睨んだ。", "どうもこの辺の住民はいけません。我々がここへ来た時も、日の丸の旗を出したのですが、その癖家の中を検べて見れば、大抵露西亜の旗を持っているのです。" ], [ "つまり奸佞邪智なのじゃね。", "そうです。煮ても焼いても食えないのです。" ], [ "何、二人とも上げます。", "そうか? それは気前が好いな。" ], [ "将軍が中止を命じたのです。", "なぜ?", "下品ですから、――将軍は下品な事は嫌いなのです。" ], [ "第×師団の余興? ああ、あのピストル強盗か?", "ピストル強盗ばかりじゃない。閣下はあれから余興掛を呼んで、もう一幕臨時にやれと云われた。今度は赤垣源蔵だったがね。何と云うのかな、あれは? 徳利の別れか?" ], [ "閣下は今夜も七時から、第×師団の余興掛に、寄席的な事をやらせるそうだぜ。", "寄席的? 落語でもやらせるのかね?", "何、講談だそうだ。水戸黄門諸国めぐり――" ], [ "春だね、いくら満洲でも。", "内地はもう袷を着ているだろう。" ], [ "何か御用ですか? お父さん。", "うん。まあ、そこにおかけ。" ], [ "今日は?", "今日は河合の――お父さんは御存知ないでしょう。――僕と同じ文科の学生です。河合の追悼会があったものですから、今帰ったばかりなのです。" ], [ "この壁にある画だね、これはお前が懸け換えたのかい?", "ええ、まだ申し上げませんでしたが、今朝僕が懸け換えたのです。いけませんか?", "いけなくはない。いけなくはないがね、N閣下の額だけは懸けて置きたい、と思う。", "この中へですか?" ], [ "この中へ懸けてはいけないかね?", "いけないと云う事もありませんが、――しかしそれは可笑しいでしょう。", "肖像画はあすこにもあるようじゃないか?" ], [ "あれは別です。N将軍と一しょにはなりません。", "そうか? じゃ仕方がない。" ], [ "お前は、――と云うよりもお前の年輩のものは、閣下をどう思っているね?", "別にどうも思ってはいません。まあ、偉い軍人でしょう。" ], [ "あれもやはり人格者かい?", "ええ、偉い画描きです。", "N閣下などとはどうだろう?" ], [ "どうと云っても困りますが、――まあN将軍などよりも、僕等に近い気もちのある人です。", "閣下のお前がたに遠いと云うのは?", "何と云えば好いですか?――まあ、こんな点ですね、たとえば今日追悼会のあった、河合と云う男などは、やはり自殺しているのです。が、自殺する前に――" ], [ "写真をとっても好いじゃないか? 最後の記念と云う意味もあるし、――", "誰のためにですか?", "誰と云う事もないが、――我々始めN閣下の最後の顔は見たいじゃないか?", "それは少くともN将軍は、考うべき事ではないと思うのです。僕は将軍の自殺した気もちは、幾分かわかるような気がします。しかし写真をとったのはわかりません。まさか死後その写真が、どこの店頭にも飾られる事を、――" ], [ "雨ですね。お父さん。", "雨?" ] ]
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月12日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000156", "作品名": "将軍", "作品名読み": "しょうぐん", "ソート用読み": "しようくん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1922(大正11)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-12T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card156.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集4", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年1月27日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第8刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第8刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/156_ruby_1221.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/156_15202.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "あれは丸善の金どんのお母さんだよ。", "どうして又金どんのお母さんがあんなに泣いてゐるんだらう。", "なにね、始皇帝が今日東京中の学者をみんな日比谷公園の池へ抛りこんで、生埋めにしちまつたらう。それで金どんもやつぱり生埋めにされちまつたもんだから、それであんなにお母さんが泣いてゐるのさ。", "だつて金どんは学者でも何でもないぢやないか。", "学者ぢやないけれど、金どんはあんまり生物識を振まはすから、丸善ぢや学者つて綽名がついてゐるんだよ。だから警察でも大学教授や何かの同類だと思つて、生埋めにしてしまつたのさ。" ], [ "しかし何か書けるでせう。", "書けば、あなたに頼まれて書くと云ふ事を書くだけです。", "それでもいいから、書いてくれ給へ。" ] ]
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003801", "作品名": "饒舌", "作品名読み": "じょうぜつ", "ソート用読み": "しようせつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-22T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3801.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1971(昭和46)年6月5日", "入力に使用した版1": "1979(昭和54)年4月10日初版第11刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "土屋隆", "校正者": "松永正敏", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3801_ruby_27221.zip", "テキストファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3801_27309.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "あたし? あたしは来年十二。", "きょうはどちらへいらっしゃるのですか?", "きょう? きょうはもう家へ帰る所なの。" ], [ "きょうは何日だか御存知ですか?", "十二月二十五日でしょう。", "ええ、十二月二十五日です。十二月二十五日は何の日ですか? お嬢さん、あなたは御存知ですか?" ], [ "ええ、それは知っているわ。", "ではきょうは何の日ですか? 御存知ならば云って御覧なさい。" ], [ "本所深川はまだ灰の山ですな。", "へええ、そうですかねえ。時に吉原はどうしたんでしょう?", "吉原はどうしましたか、――浅草にはこの頃お姫様の婬売が出ると云うことですな。" ], [ "どこかの子がつけたんだろう、棒か何か持って来て?", "それでも二本並んでいるでしょう?", "だって二人でつけりゃ二本になるもの。" ], [ "じゃ何さ、このすじは?", "何でしょう? ほら、ずっと向うまで同じように二すじ並んでいるでしょう?" ], [ "よう、つうや、何だって云えば?", "まあ、考えて御覧なさい。何か二つ揃っているものですから。――何でしょう、二つ揃っているものは?" ], [ "死んでしまうって、どうすること?", "死んでしまうと云うことはね、ほら、お前は蟻を殺すだろう。……" ], [ "殺された蟻は死んでしまったのさ。", "殺されたのは殺されただけじゃないの?", "殺されたのも死んだのも同じことさ。", "だって殺されたのは殺されたって云うもの。", "云っても何でも同じことなんだよ。", "違う。違う。殺されたのと死んだのとは同じじゃない。", "莫迦、何と云うわからないやつだ。" ], [ "海の色は可笑しいねえ。なぜ青い色に塗らなかったの?", "だって海はこう云う色なんだもの。", "代赭色の海なんぞあるものかね。", "大森の海は代赭色じゃないの?", "大森の海だってまっ青だあね。", "ううん、ちょうどこんな色をしていた。" ], [ "あの女の子はどうして出ないの?", "女の子? どこかに女の子がいるのかい?" ], [ "ううん、いはしないけれども、顔だけ窓から出したじゃないの?", "いつさ?", "玩具屋の壁へ映した時に。", "あの時も女の子なんぞは出やしないさ。", "だって顔を出したのが見えたんだもの。", "何を云っている?" ], [ "工兵じゃつまらないなあ。よう、川島さん。あたいも地雷火にしておくれよ、よう。", "お前はいつだって俘になるじゃないか?" ], [ "嘘をついていらあ。この前に大将を俘にしたのだってあたいじゃないか?", "そうか? じゃこの次には大尉にしてやる。" ], [ "あら、お目覚になっていらっしゃるんですか?", "どうして?", "だって今お母さんって仰有ったじゃありませんか?" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月8日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000155", "作品名": "少年", "作品名読み": "しょうねん", "ソート用読み": "しようねん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1924(大正13)年4、5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card155.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/155_ruby_1146.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/155_15203.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "これ、この船中に、一人として虱の恩を蒙らぬ者がござるか。その虱を取つて食ふなどとは、恩を仇でかへすのも同前ぢや。", "身共は、虱の恩を着た覚えなどは、毛頭ござらぬ。", "いや、たとひ恩を着ぬにもせよ、妄に生類の命を断つなどとは、言語道断でござらう。" ] ]
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年3月16日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000148", "作品名": "虱", "作品名読み": "しらみ", "ソート用読み": "しらみ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「希望」1916(大正5)年5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-03-16T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card148.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文学大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "野口英司", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/148_ruby_264.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-09T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "6", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/148_15134.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-09T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "どこの犬でしょう? 春夫さん。", "どこの犬だろう? 姉さん。" ], [ "僕はここに住んでいるのです。この大正軒と云うカフェの中に。――おじさんはどこに住んでいるのです?", "おじさんかい?――おじさんはずっと遠い町にいる。" ], [ "じゃもうおじさんは家へ帰ろう。", "まあお待ちなさい。おじさんの御主人はやかましいのですか?", "御主人? なぜまたそんなことを尋ねるのだい?", "もし御主人がやかましくなければ、今夜はここに泊って行って下さい。それから僕のお母さんにも命拾いの御礼を云わせて下さい。僕の家には牛乳だの、カレエ・ライスだの、ビフテキだの、いろいろな御馳走があるのです。", "ありがとう。ありがとう。だがおじさんは用があるから、御馳走になるのはこの次にしよう。――じゃお前のお母さんによろしく。" ], [ "じゃ名前だけ聞かして下さい。僕の名前はナポレオンと云うのです。ナポちゃんだのナポ公だのとも云われますけれども。――おじさんの名前は何と云うのです?", "おじさんの名前は白と云うのだよ。", "白――ですか? 白と云うのは不思議ですね。おじさんはどこも黒いじゃありませんか?" ], [ "それでも白と云うのだよ。", "じゃ白のおじさんと云いましょう。白のおじさん。ぜひまた近い内に一度来て下さい。", "じゃナポ公、さよなら!", "御機嫌好う、白のおじさん! さようなら、さようなら!" ], [ "驚いたわねえ、春夫さん。", "どうしたんだろう? 姉さん。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「女性改造」    1923(大正12)年8月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2012年3月22日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000149", "作品名": "白", "作品名読み": "しろ", "ソート用読み": "しろ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「女性改造」1923(大正12)年8月", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card149.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/149_ruby_1581.zip", "テキストファイル最終更新日": "2012-03-22T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/149_15204.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2012-03-22T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "1" }
[ [ "僕等は蜃気楼を見に出て来たんだよ。君も一しょに行かないか?", "蜃気楼か? ――" ], [ "幸福らしいね。", "君なんぞは羨しい仲間だろう。" ], [ "僕は何だか気味が悪かった。", "僕もいつの間に来たのかと思いましたよ。" ], [ "何だい、それは? Sr. H. Tsuji …… Unua …… Aprilo …… Jaro ……1906……", "何かしら? dua …… Majesta ……ですか? 1926としてありますね。", "これは、ほれ、水葬した死骸についていたんじゃないか?" ], [ "だって死骸を水葬する時には帆布か何かに包むだけだろう?", "だからそれへこの札をつけてさ。――ほれ、ここに釘が打ってある。これはもとは十字架の形をしていたんだな。" ], [ "縁起でもないものを拾ったな。", "何、僕はマスコットにするよ。……しかし1906から1926とすると、二十位で死んだんだな。二十位と――", "男ですかしら? 女ですかしら?", "さあね。……しかし兎に角この人は混血児だったかも知れないね。" ], [ "K君はどうするの?", "僕はどうでも、………" ], [ "何をしているの?", "何ってことはないけれど、………ちょっとこう火をつけただけでも、いろんなものが見えるでしょう?" ], [ "昼間ほどの獲物はなかった訣だね。", "獲物? ああ、あの札か? あんなものはざらにありはしない。" ], [ "ここいらにもいろんなものがあるんだろうなあ。", "もう一度マッチをつけて見ようか?", "好いよ。………おや、鈴の音がするね。" ], [ "あたしは今夜は子供になって木履をはいて歩いているんです。", "奥さんの袂の中で鳴っているんだから、――ああ、Yちゃんのおもちゃだよ。鈴のついたセルロイドのおもちゃだよ。" ], [ "それがふと思い出して見ると、三四年前にたった一度談話筆記に来た婦人記者なんだがね。", "じゃ女の運転手だったの?", "いや、勿論男なんだよ。顔だけは唯その人になっているんだ。やっぱり一度見たものは頭のどこかに残っているのかな。", "そうだろうなあ。顔でも印象の強いやつは、………", "けれども僕はその人の顔に興味も何もなかったんだがね。それだけに反って気味が悪いんだ。何だか意識の閾の外にもいろんなものがあるような気がして、………", "つまりマッチへ火をつけて見ると、いろんなものが見えるようなものだな。" ], [ "そうらしいね。", "砂と云うやつは悪戯ものだな。蜃気楼もこいつが拵えるんだから。………奥さんはまだ蜃気楼を見ないの?", "いいえ、この間一度、――何だか青いものが見えたばかりですけれども。………", "それだけですよ。きょう僕たちの見たのも。" ], [ "じゃおやすみなさい。", "おやすみなさいまし。" ], [ "いつになるかな。………東京からバタはとどいているね?", "バタはまだ。とどいているのはソウセェジだけ。" ] ]
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:「婦人公論 第十二年第三号」    1927(昭和2)年3月1日発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月24日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000147", "作品名": "蜃気楼", "作品名読み": "しんきろう", "ソート用読み": "しんきろう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「婦人公論 第十二年第三号」1927(昭和2)年3月1日", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-24T00:00:00", "最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card147.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "昭和文学全集 第1巻", "底本出版社名1": "小学館", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年5月1日", "入力に使用した版1": "1987(昭和62)年5月1日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "芥川龍之介全集 第八卷", "底本の親本出版社名1": "岩波書店", "底本の親本初版発行年1": "1978(昭和53)年3月22日", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/147_ruby_1325.zip", "テキストファイル最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/147_15135.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "1" }
[ [ "何処へでも旅行すれば好いぢやないか。君なぞは独身なんだし。", "所が貧乏暇なしでね。" ], [ "だが君も随分長い間、この店に勤めてゐるぢやないか。一体今は何をしてゐるんだ。", "僕か。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1971(昭和46)年10月5日初版第5刷発行 入力校正:j.utiyama 1999年2月15日公開 2003年10月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "002322", "作品名": "塵労", "作品名読み": "じんろう", "ソート用読み": "しんろう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-15T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card2322.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集 第四巻", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1971(昭和46)年6月5日", "入力に使用した版1": "1971(昭和46)年10月5日初版第5刷", "校正に使用した版1": "1971(昭和46)年10月5日初版第5刷", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "j.utiyama", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/2322_ruby_1511.zip", "テキストファイル最終更新日": "2003-10-20T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/2322_13459.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2003-10-20T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "鳩を助けてやろうと思ったのだ。", "私たちだって助けてやる心算でしたわ。" ], [ "ほんとうですわ。", "どうして嘘だと御思い?", "あなたばかり鳩が可愛いのじゃございません。" ], [ "どうした? 怪我はしなかったか?", "何、したってかまいはしません。今日と云う今日こそあいつらに、一泡吹かせてやったのですから。――それよりあなたこそ、御怪我はありませんか。", "うん、瘤が一つ出来ただけだった。" ], [ "どうです。瘤は痛みますか。", "大して痛まない。", "米を噛んでつけて置くと好いそうですよ。", "そうか。それは好い事を聞いた。" ], [ "評判だけ大きいのです。", "それだけでも結構ですよ。すべての事は評判があって、始めてあり甲斐があるのですから。" ], [ "そうでしょうか。じゃ評判がなかったら、いくら私が剛力でも――", "さらに剛力ではなくなるのです。", "しかし人が掬わなくっても、砂金は始から砂金でしょう。", "さあ、砂金だとわかるのは、人に掬われてからの上じゃありませんか。", "すると人が、ただの砂を砂金だと思って掬ったら――", "やはりただの砂でも砂金になるでしょう。" ], [ "何だかそれじゃ砂金になっても、つまらないような気がしますが。", "勿論つまらないものなのですよ。それ以上に考えるのは、考える方が間違っているのです。" ], [ "いつぞや力競べがあった時、あなたと岩を擡げ合って、死んだ男がいたじゃありませんか。", "気の毒な事をしたものです。" ], [ "気の毒ですが、莫迦げていますよ。第一私に云わせると、競争する事がすでによろしくない。第二に到底勝てそうもない競争をするのが論外です。第三に命まで捨てるに至っては、それこそ愚の骨頂じゃありませんか。", "しかし私は何となく気が咎めてならないのですが。", "何、あれはあなたが殺したのじゃありません。力競べを面白がっていた、ほかの若者たちが殺したのです。", "けれども私はあの連中に、反って憎まれているようです。", "それは勿論憎まれますよ。その代りもしあなたが死んで、あなたの相手が勝負に勝ったら、あの連中はきっとあなたの相手を憎んだのに違いないでしょう。", "世の中はそう云うものでしょうか。" ], [ "わからない方が結構ですよ。さもないとあなたも私のように、何もする事が出来なくなります。", "どうしてですか。" ], [ "もう瘤は御癒りですか。", "うん、とうに癒った。" ], [ "生米を御つけになりましたか。", "つけた。あれは思ったより利き目があるらしかった。" ], [ "じゃもう一つ、好い事を御教えしましょうか。", "何だ。その好い事と云うのは。" ], [ "勾玉をくれ? くれと云えばやらないものでもないが、勾玉を貰ってどうするのだ?", "まあ、黙って頂かせて下さい。悪いようにはしませんから。", "嫌だ。どうするのだか聞かない内は、勾玉なぞをやる訳には行かない。" ], [ "御好きじゃありませんか、あの思兼尊の姪を。", "そうか。あれは思兼尊の姪か。" ], [ "これは立派な勾玉ですね、こんな性の好い琅玕は、そう沢山はありますまい。", "この国の物じゃない。海の向うにいる玉造が、七日七晩磨いたと云う玉だ。" ], [ "待っていて下さい。必ず二三日中には、吉左右を御聞かせしますから。", "うん、急がなくって好いが。" ], [ "君の玉かい。", "いいえ、素戔嗚尊の玉です。" ], [ "その代り君には御礼をするよ。刀が欲しければ刀を進上するし、玉が欲しければ玉も進上するし、――", "駄目ですよ。その勾玉は素戔嗚尊が、ある人に渡してくれと云って、私に預けた品なのですから。", "へええ、ある人へ渡してくれ? ある人と云うのは、ある女と云う事かい。" ], [ "勿論多少は面倒が起るかも知れないさ。しかしそのくらいな事はあっても、刀なり、玉なり、鎧なり、乃至はまた馬の一匹なり、君の手にはいった方が――", "ですがね、もし先方が受け取らないと云ったら、私はこの玉を素戔嗚尊へ返さなければならないのですよ。", "受け取らないと云ったら?" ], [ "ええ、渡しました。", "そうか。それでおれも安心した。", "ですが――", "ですが? 何だい。", "急には御返事が出来ないと云う事でした。", "何、急がなくっても好い。" ], [ "離せ。こら、何をする。離さないか。", "貴様が白状するまでは離さない。", "離さないと――" ], [ "この勾玉は――おれが――おれが馬と取換えたのだ。", "嘘をつけ。これはおれが――" ], [ "嘘をつけ。", "離さないか。貴様こそ、――ああ、喉が絞まる。――あれほど離すと云った癖に、貴様こそ嘘をつく奴だ。", "証拠があるか、証拠が。" ], [ "渡したと云うのは嘘か?", "いえ、嘘じゃありません。ほんとうです。ほんとうです。" ], [ "ほんとうですが、――ですが、実はあの琅玕の代りに、珊瑚の――その管玉を……", "どうしてまたそんな真似をしたのだ?" ], [ "そうしてその玉は渡したのだな。", "渡しました。渡しましたが――" ], [ "火つけを殺せ。", "盗人を殺せ。", "素戔嗚を殺せ。" ], [ "何、素戔嗚尊が乱暴を始めた?", "はい、それ故大勢の若者たちが、尊を搦めようと致しますと、平生尊の味方をする若者たちが承知致しませんで、とうとうあのように何年にもない、大騒動が始まったそうでございますよ。" ], [ "おれは主人の帰るのを待っているのだ。", "待って、――どうなさるのでございますか。", "太刀打をしようと思うのだ。おれは女を劫して、盗人を働いたなどとは云われたくない。" ], [ "男は一人もいないのか。", "一人も居りません。", "この近くの洞穴には?", "皆私の妹たちが、二三人ずつ住んで居ります。" ], [ "妹たちは大勢いるのか。", "十六人居ります。――ただ今姥が知らせに参りましたから、その内に皆御眼にかかりに、出て参るでございましょう。" ], [ "こう申す内にもいつ何時、大蛇が参るかわかりませんが、あなたは――", "大蛇を退治する心算です。" ], [ "退治すると仰有っても、大蛇は只今申し上げた通り、一方ならない神でございますから――", "そうです。", "万一あなたがそのために、御怪我をなさらないとも限りませんし、――", "そうです。", "どうせ私は犠になるものと、覚悟をきめた体でございます。たといこのまま、――", "御待ちなさい。" ], [ "私はあなたをおめおめと大蛇の犠にはしたくないのです。", "それでも大蛇が強ければ――", "仕方がないと云うのですか。たとい仕方がないにしても、私はやはり戦うのです。" ], [ "私が大蛇の犠になるのは、神々の思召しでございます。", "そうかも知れません。しかし犠になると云う事がなかったら、あなたは今時分たった一人、こんな所に来てはいないでしょう。して見ると神々の思召しは、あなたを大蛇の犠にするより、反って私に大蛇の命を断たせようと云うのかも知れません。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「大阪毎日新聞 夕刊」    1920(大正9)年3月~6月 入力:j.utiyama 校正:湯地光弘 1999年8月27日公開 2012年3月17日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000153", "作品名": "素戔嗚尊", "作品名読み": "すさのおのみこと", "ソート用読み": "すさのおのみこと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大阪毎日新聞 夕刊」1920(大正9)年3月~6月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-08-27T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card153.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集3", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年12月1日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年4月1日第8刷", "校正に使用した版1": "1997(平成9)年4月15日第9刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "湯地光弘", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/153_ruby_2349.zip", "テキストファイル最終更新日": "2012-03-17T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "7", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/153_15205.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2012-03-17T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "2" }
[ [ "いえ、それは話しません。私の方から云い出すのは、余り母に残酷ですから。母も死ぬまでその事は一言も私に話しませんでした。やはり話す事は私にも、残酷だと思っていたのでしょう。実際私の母に対する情も、子でない事を知った後、一転化を来したのは事実です。", "と云うのはどう云う意味ですか。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「新潮」    1920(大正9)年7月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2012年3月22日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "番頭さん。聞えませんか? 私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。", "まことに御気の毒様ですが、――" ], [ "それはうちへおよこしよ。うちにいれば二三年中には、きっと仙人にして見せるから。", "左様ですか? それは善い事を伺いました。では何分願います。どうも仙人と御医者様とは、どこか縁が近いような心もちが致して居りましたよ。" ], [ "別にこれと云う訣もございませんが、ただあの大阪の御城を見たら、太閤様のように偉い人でも、いつか一度は死んでしまう。して見れば人間と云うものは、いくら栄耀栄華をしても、果ないものだと思ったのです。", "では仙人になれさえすれば、どんな仕事でもするだろうね?" ], [ "はい。仙人になれさえすれば、どんな仕事でもいたします。", "それでは今日から私の所に、二十年の間奉公おし。そうすればきっと二十年目に、仙人になる術を教えてやるから。", "左様でございますか? それは何より難有うございます。", "その代り向う二十年の間は、一文も御給金はやらないからね。", "はい。はい。承知いたしました。" ], [ "では仙術を教えてやるから、その代りどんなむずかしい事でも、私の云う通りにするのだよ。さもないと仙人になれないばかりか、また向う二十年の間、御給金なしに奉公しないと、すぐに罰が当って死んでしまうからね。", "はい。どんなむずかしい事でも、きっと仕遂げて御覧に入れます。" ], [ "それから左の手も放しておしまい。", "おい。おい。左の手を放そうものなら、あの田舎者は落ちてしまうぜ。落ちれば下には石があるし、とても命はありゃしない。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000144", "作品名": "仙人", "作品名読み": "せんにん", "ソート用読み": "せんにん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "1922(大正11)年", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card144.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/144_ruby_1107.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/144_15208.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "私のような商売をしている人間には、雨位、人泣かせのものはありません。", "ははあ、何御商売かな。", "鼠を使って、芝居をさせるのです。", "それはまたお珍しい。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月6日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000143", "作品名": "仙人", "作品名読み": "せんにん", "ソート用読み": "せんにん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1916(大正5)年8月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card143.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集1", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年9月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年10月5日第13刷", "校正に使用した版1": "1997(平成9)年4月15日第14刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971年3月~11月に刊行", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/143_ruby_833.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/143_15209.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "三重子も生憎肥っているのだよ。", "君よりもか?", "莫迦を言え。俺は二十三貫五百目さ。三重子は確か十七貫くらいだろう。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:奥西久美 1998年12月11日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000152", "作品名": "早春", "作品名読み": "そうしゅん", "ソート用読み": "そうしゆん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「東京日日新聞」1925(大正14)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card152.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "奥西久美", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/152_ruby_908.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/152_15211.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "天井は張り換へなかつたのかな。", "張り換へたんだがね。鼠のやつにはかなはないよ。" ], [ "和本は虫が食ひはしませんか?", "食ひますよ。そいつにも弱つてゐるんです。" ] ]
底本:「芥川龍之介作品集第三巻」昭和出版社    1965(昭和40)年12月20日発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月26日公開 2003年10月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "002321", "作品名": "漱石山房の冬", "作品名読み": "そうせきさんぼうのふゆ", "ソート用読み": "そうせきさんほうのふゆ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1923(大正12)年1月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card2321.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介作品集 第三巻", "底本出版社名1": "昭和出版社", "底本初版発行年1": "1965(昭和40)年12月20日", "入力に使用した版1": "", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/2321_ruby_1353.zip", "テキストファイル最終更新日": "2003-10-20T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/2321_13452.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2003-10-20T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "つまり馬に乗つた時と同じなのさ。", "カントの論文に崇られたんだね。" ] ]
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003744", "作品名": "続野人生計事", "作品名読み": "ぞくやじんせいけいごと", "ソート用読み": "そくやしんせいけいこと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3744.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1971(昭和46)年6月5日", "入力に使用した版1": "1979(昭和54)年4月10日初版第11刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "土屋隆", "校正者": "松永正敏", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3744_ruby_27272.zip", "テキストファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3744_27360.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "あたしも出なければ悪いでしょうか?", "それは悪いさ。" ], [ "だって帝国ホテルでやるんでしょう?", "帝国ホテル――か?", "あら、御存知なかったの?", "うん、……おい、チョッキ!" ], [ "帝国ホテルじゃ洋食でしょう?", "当り前なことを言っている。", "それだからあたしは困ってしまう。", "なぜ?", "なぜって……あたしは洋食の食べかたを一度も教わったことはないんですもの。", "誰でも教わったり何かするものか!……" ], [ "そりゃ十六日だって十七日だって……", "だからさ、まだ三日もある。そのうちに稽古をしろと言うんだ。", "じゃあなた、あしたの日曜にでもきっとどこかへつれて行って下さる!" ], [ "気の毒だわね、こんなにお客がなくっては。", "常談言っちゃいけない。こっちはお客のない時間を選って来たんだ。" ], [ "あなた、けさの新聞を読んで?", "うん。", "本所かどこかのお弁当屋の娘の気違いになったと云う記事を読んで?", "発狂した? 何で?" ], [ "職工か何かにキスされたからですって。", "そんなことくらいでも発狂するものかな。", "そりゃするわ。すると思ったわ。あたしもゆうべは怖い夢を見た。……", "どんな夢を?――このタイはもう今年ぎりだね。", "何か大へんな間違いをしてね、――何をしたのだかわからないのよ。何か大へんな間違いをして汽車の線路へとびこんだ夢なの。そこへ汽車が来たものだから、――", "轢かれたと思ったら、目を醒ましたのだろう。" ], [ "いいえ、轢かれてしまってからも、夢の中ではちゃんと生きているの。ただ体は滅茶滅茶になって眉毛だけ線路に残っているのだけれども、……やっぱりこの二三日洋食の食べかたばかり気にしていたせいね。", "そうかも知れない。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月3日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "でもこの間は遅刻したぜ。", "この間?", "国語の時間にさ。" ], [ "あの先生には、僕も叱られた。", "遅刻で?", "いいえ、本を忘れて。" ], [ "泉はちゃくいぜ、あいつは教員用のチョイスを持っているもんだから、一度も下読みなんぞした事はないんだとさ。", "平野はもっとちゃくいぜ。あいつは試験の時と云うと、歴史の年代をみな爪へ書いて行くんだって。", "そう云えば先生だってちゃくいからな。", "ちゃくいとも。本間なんぞは receive のiとeと、どっちが先へ来るんだか、それさえ碌に知らない癖に、教師用でいい加減にごま化しごま化し、教えているじゃあないか。" ], [ "能勢、能勢、あのお上さんを見ろよ。", "あいつは河豚が孕んだような顔をしているぜ。", "こっちの赤帽も、何かに似ているぜ。ねえ能勢。", "あいつはカロロ五世さ。" ], [ "そいつは適評だな。", "見ろ。見ろ。あの帽子を。", "日かげ町か。", "日かげ町にだってあるものか。", "じゃあ博物館だ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000030", "作品名": "父", "作品名読み": "ちち", "ソート用読み": "ちち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1916(大正5)年5月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card30.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集1", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年9月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年10月5日第13刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/30_ruby_749.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/30_15215.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "よろしゅうござりまする、しかと向後は慎むでございましょう。", "おお、二度と過をせぬのが、何よりじゃ。" ], [ "御尤もでございます。佐渡守様もあのように、仰せられますからは、残念ながら、そうなさるよりほかはございますまい。が、まず一応は、御一門衆へも……", "いや、いや、隠居の儀なら、林右衛門の成敗とは変って、相談せずとも、一門衆は同意の筈じゃ。" ], [ "それも、たった一度じゃ。", "恐れながら、その儀ばかりは。", "いかぬか。" ], [ "どなたでござる。", "これは、人を殺したで、髪を切っているものでござる。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月6日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000173", "作品名": "忠義", "作品名読み": "ちゅうぎ", "ソート用読み": "ちゆうき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「黒潮」1917(大正6)年3月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card173.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集1", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年9月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年10月5日第13刷", "校正に使用した版1": "1997(平成9)年4月15日第14刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/173_ruby_837.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/173_15216.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "おばば。", "……" ], [ "何か用でもおありか。", "いや、別に用じゃない。" ], [ "ただ、沙金がこのごろは、どこにいるかと思ってな。", "用のあるは、いつも娘ばかりさね。鳶が鷹を生んだおかげには。" ], [ "用と言うほどの用じゃないが、今夜の手はずも、まだ聞かないからな。", "なに、手はずに変わりがあるものかね。集まるのは羅生門、刻限は亥の上刻――みんな昔から、きまっているとおりさ。" ], [ "じゃ沙金はまた、たれかあすこの侍とでも、懇意になったのだな。", "なに、やっぱり販婦か何かになって、行ったらしいよ。", "なんになって行ったって、あいつの事だ。当てになるものか。", "お前さんは、相変わらずうたぐり深いね。だから、娘にきらわれるのさ。やきもちにも、ほどがあるよ。" ], [ "そんな事じゃ、しっかりしないと、次郎さんに取られてしまうよ。取られてもいいが、どうせそうなれば、ただじゃすまないからね。おじいさんでさえ、それじゃ時々、目の色を変えるんだから、お前さんならなおさらだろうじゃないか。", "わかっているわな。" ], [ "それがなかなか、わからないんだよ。今でこそお前さんだって、そうやって、すましているが、娘とおじいさんとの仲をかぎつけた時には、まるで、気がふれたようだったじゃないか。おじいさんだって、そうさ、あれで、もう少し気が強かろうものなら、すぐにお前さんと刃物三昧だわね。", "そりゃもう一年前の事だ。", "何年前でも、同じ事だよ。一度した事は、三度するって言うじゃないか。三度だけなら、まだいいほうさ。わたしなんぞは、この年まで、同じばかを、何度したか、わかりゃしないよ。" ], [ "なんの、藤判官だといって、高が青侍の四人や五人、わたしだって、昔とったきねづかさ。", "ふん、おばばは、えらい勢いだな。そうして、こっちの人数は?", "いつものとおり、男が二十三人。それにわたしと娘だけさ。阿濃は、あのからだだから、朱雀門に待っていて、もらう事にしようよ。", "そう言えば、阿濃も、かれこれ臨月だったな。" ], [ "あの阿呆をね。たれがまあ手をつけたんだか――もっとも、阿濃は次郎さんに、執心だったが、まさかあの人でもなかろうよ。", "親のせんぎはともかく、あのからだじゃ何かにつけて不便だろう。", "そりゃ、どうにでもしかたはあるのだけれど、あれが不承知なのだから、困るわね。おかげで、仲間の者へ沙汰をするのも、わたし一人という始末さ。真木島の十郎、関山の平六、高市の多襄丸と、まだこれから、三軒まわらなくっちゃ――おや、そう言えば、油を売っているうちに、もうかれこれ未になる。お前さんも、もうわたしのおしゃべりには、聞き飽きたろう。" ], [ "じゃ、いずれまた、日が暮れてから、会おう。", "あいさ。それまでは、お前さんも、ゆっくり昼寝でもする事だよ。" ], [ "なんだえ。これは。疫病にかかっている人じゃないか。", "そうさ。とてもいけないというので、どこかこの近所の家で、捨てたのだろう。これじゃ、どこでも持てあつかうよ。" ], [ "それを、お前さんはまた、なんだって、見てなんぞいるのさ。", "なに、今ここを通りかかったら、野ら犬が二三匹、いい餌食を見つけた気で、食いそうにしていたから、石をぶつけて、追い払ってやったところさ。わたしが来なかったら、今ごろはもう、腕の一つも食われてしまったかもしれない。" ], [ "いったい、生きているのかえ。それとも、死んでいるのかえ。", "どうだかね。", "気らくだよ、この人は。死んだものなら、犬が食ったって、いいじゃないか。" ], [ "そんな事をしたって、だめだよ。さっきなんぞは、犬に食いつかれてさえ、やっぱりじっとしていたんだから。", "それじゃ、死んでいるのさ。" ], [ "死んでいたって、犬に食わせるのは、ひどいやね。", "何がひどいものかね。死んでしまえば、犬に食われたって、痛くはなしさ。" ], [ "死ななくったって、ひくひくしているよりは、いっそ一思いに、のど笛でも犬に食いつかれたほうが、ましかもしれないわね。どうせこれじゃ、生きていたって、長い事はありゃせずさ。", "だって、人間が犬に食われるのを、黙って見てもいられないじゃないか。" ], [ "そのくせ、人間が人間を殺すのは、お互いに平気で、見ているじゃないか。", "そう言えば、そうさ。" ], [ "――ええと、平六の家は、お前さんも知っているだろう。これをまっすぐに行って、立本寺の門を左へ切れると、藤判官の屋敷がある。あの一町ばかり先さ。ついでだから、屋敷のまわりでもまわって、今夜の下見をしておおきよ。", "なにわたしも、始めからそのつもりで、こっちへ出て来たのさ。", "そうかえ、それはお前さんにしては、気がきいたね。お前さんのにいさんの御面相じゃ、一つ間違うと、向こうにけどられそうで、下見に行っても、もらえないが、お前さんなら、大丈夫だよ。", "かわいそうに、兄きもおばばの口にかかっちゃ、かなわないね。", "なに、わたしなんぞはいちばん、あの人の事をよく言っているほうさ。おじいさんなんぞと来たら、お前さんにも話せないような事を、言っているわね。", "それは、あの事があるからさ。", "あったって、お前さんの悪口は、言わないじゃないか。", "じゃおおかた、わたしは子供扱いにされているんだろう。" ], [ "そりゃわたしも、気をつけている。", "気をつけていてもさ。" ], [ "気をつけていてもだわね。", "しかし、兄きの思わくは兄きの思わくで、わたしには、どうにもできないじゃないか。", "そう言えば、実もふたもなくなるがさ。実はわたしは、きのう娘に会ったのだよ。すると、きょう未の下刻に、お前さんと寺の門の前で、会う事になっていると言うじゃないか。それで、お前さんのにいさんには半月近くも、顔は合わせないようにしているとね、太郎さんがこんな事を知ってごらん。また、お前さん、一悶着だろう。" ], [ "じゃよくって。きっと忘れちゃいやよ。", "大丈夫だよ。おれがひきうけたからは、大船に乗った気でいるがいい", "だって、わたしのほうじゃ命がけなんですもの。このくらい、念を押さなくちゃしようがないわ。" ], [ "おれのほうも、これで命がけさ。", "うまく言っているわ。" ], [ "見なくってさ。", "あれはね。――まあここへかけましょう。" ], [ "あいつのばかと言ったら、ないのよ。わたしの言う事なら、なんでも、犬のようにきくじゃないの。おかげで、何もかも、すっかりわかってしまった。", "何がさ。", "何がって、藤判官の屋敷の様子がよ。そりゃひとかたならないおしゃべりなんでしょう。さっきなんぞは、このごろ、あすこで買った馬の話まで、話して聞かしたわ。――そうそう、あの馬は太郎さんに頼んで盗ませようかしら。陸奥出の三才駒だっていうから、まんざらでもないわね。", "そうだ。兄きなら、なんでもお前の御意次第だから。", "いやだわ。やきもちをやかれるのは、わたし大きらい。それも、太郎さんなんぞ、――そりゃはじめは、わたしのほうでも、少しはどうとか思ったけれど、今じゃもうなんでもないわ。", "そのうちに、わたしの事もそう言う時が来やしないか。", "それは、どうだかわかりゃしない。" ], [ "おこったの? じゃ、来ないって言いましょうか。", "内心女夜叉さね。お前は。" ], [ "そんなに疑うのなら、いい事を教えてあげましょうか。", "いい事?", "ええ" ], [ "わたしね、あいつにすっかり、話してしまったの。", "何を?", "今夜、みんなで藤判官の屋敷へ、行くという事を。" ], [ "わたしこう言ったの。わたしの寝る部屋は、あの大路面の檜垣のすぐそばなんですが、ゆうべその檜垣の外で、きっと盗人でしょう、五六人の男が、あなたの所へはいる相談をしているのが聞こえました。それがしかも、今夜なんです。おなじみがいに、教えてあげましたから、それ相当の用心をしないと、あぶのうござんすよって。だから、今夜は、きっと向こうにも、手くばりがあるわ。あいつも、今人を集めに行ったところなの。二十人や三十人の侍は、くるにちがいなくってよ。", "どうしてまた、そんなよけいな事をしたのさ。" ], [ "あなたのためにしたの。", "どうして?" ], [ "殺しちゃ悪い?", "悪いよりも――兄きを罠にかけて――", "じゃあなた殺せて?" ], [ "しかし、それは卑怯だ。", "卑怯でも、しかたがなくはない?" ], [ "おばばはどうする?", "死んだら、死んだ時の事だわ。" ], [ "しかし、兄きは――", "わたしは、親も捨てているのじゃない?" ], [ "おぬしこそ、何をする。", "おれか。おれならこうするわ。" ], [ "人殺し。人殺し。助けてくれ。親殺しじゃ。", "ばかな事を。たれがおぬしなぞ殺すものか。" ], [ "おぬしは、なんで阿濃を、あのような目にあわせた。さあそのしさいを言え。言わねば……", "言う。言う。――言うがな。言ったあとでも、おぬしの事じゃ。殺さないものでも、なかろう。", "うるさい。言うか、言わぬか。", "言う。言う。言う。が、まず、そこを放してくれ。これでは、息がつまって、口がきけぬわ。" ], [ "薬? では、堕胎薬だな。いくら阿呆でも、いやがる者をつかまえて、非道な事をするおやじだ。", "それ見い。言えと言うから、言えば、なおおぬしは、わしを殺す気になるわ。人殺し。極道。", "たれがおぬしを殺すと言った?", "殺さぬ気なら、なぜおぬしこそ、太刀の柄へ手をかけているのじゃ。" ], [ "おぬしを殺すような太刀は、持たぬわ。", "殺せば、親殺しじゃて。" ], [ "親殺しじゃよ。――なぜと言えばな。沙金は、わしの義理の子じゃ。されば、つながるおぬしも、子ではないか。", "じゃ、その子を妻にしているおぬしは、なんだ。畜生かな、それともまた、人間かな。" ], [ "相変わらず、達者な口だて。", "何が達者な口じゃ。" ], [ "されば、おぬしにきくがな、おぬしは、このわしを、親と思うか。いやさ、親と思う事ができるかよ。", "きくまでもないわ。", "できまいな", "おお、できない。", "それが手前勝手じゃ。よいか。沙金はおばばのつれ子じゃよ。が、わしの子ではない。されば、おばばにつれそうわしが、沙金を子じゃと思わねばならぬなら、沙金につれそうおぬしも、わしを親じゃと思わねばなるまいがな。それをおぬしは、わしを親とも思わぬ。思わぬどころか、場合によっては、打ち打擲もするではないか。そのおぬしが、わしにばかり、沙金を子と思えとは、どういうわけじゃ。妻にして悪いとは、どういうわけじゃ。沙金を妻にするわしが、畜生なら、親を殺そうとするおぬしも、畜生ではないか。" ], [ "そのうちに、わしはおばばに情人がある事を知ったがな。", "そんなら、おぬしはきらわれたのじゃないか。", "情人があったとて、わしのきらわれたという、証拠にはならぬ。話の腰を折るなら、もうやめじゃ。" ], [ "おぬしのような畜生には、これがちょうど、相当だわ。", "畜生呼ばわりは、おいてくれ。沙金は、おぬしばかりの妻かよ。次郎殿の妻でもないか。されば、弟の妻をぬすむおぬしもやはり、畜生じゃ。" ], [ "囲まれて、どうしたえ。", "どうしたか、わかりません。が、事によると、――まあそれもあの人の事だから、万々大丈夫だろうと思いますがな。" ], [ "冗談じゃないよ。どうせ死ぬものなら、自然に死なしておやりな。", "なるほどな、それもそうじゃ。" ], [ "まず助かるまいな。", "死んだのを見たと言うたのは、たれじゃ。", "わしは、五六人を相手に切り合うているのを見た。", "やれやれ、頓生菩提、頓生菩提。", "次郎さんも、見えないぞ。", "これも事によると、同じくじゃ。" ], [ "阿濃のあほうが見えぬの。", "なるほど、そうじゃ。", "おおかた、この上に寝ておろう。", "や、上で猫が鳴くぞ。" ], [ "猫も化けるそうな。", "阿濃の相手には、猫の化けた、老いぼれが相当じゃよ。" ], [ "爺も、とうとう死んだの。", "さればさ。阿濃を手ごめにした主も、これで知れたと言うものじゃ。", "死骸は、あの藪中へ埋めずばなるまい。", "鴉の餌食にするのも、気の毒じゃな。" ], [ "生死事大。", "無常迅速。", "生き顔より、死に顔のほうがよいようじゃな。", "どうやら、前よりも真人間らしい顔になった。" ] ]
底本:「羅生門・鼻・芋粥・偸盗」岩波文庫、岩波書店    1960(昭和35)年11月25日第1刷発行    1993(平成5)年9月20日第46刷発行 底本の親本:「芥川竜之介全集」岩波書店    1954(昭和29)年~1955(昭和30)年 初出:「中央公論」    1917(大正6)年4、7月 入力:福田芽久美 校正:野口英司 1998年10月4日公開 2007年9月24日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000031", "作品名": "偸盗", "作品名読み": "ちゅうとう", "ソート用読み": "ちゆうとう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1917(大正6)年4、7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-10-04T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card31.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "羅生門・鼻・芋粥・偸盗", "底本出版社名1": "岩波文庫、岩波書店", "底本初版発行年1": "1960(昭和35)年11月25日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年9月20日第46刷", "校正に使用した版1": "1991(平成3)年2月15日第40刷", "底本の親本名1": "芥川竜之介全集", "底本の親本出版社名1": "岩波書店", "底本の親本初版発行年1": "1954(昭和29)年~1955(昭和30)年", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "福田芽久美", "校正者": "野口英司", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/31_ruby_584.zip", "テキストファイル最終更新日": "2007-09-24T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "4", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/31_15217.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-09-24T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "1" }
[ [ "つまらない所だな、蕪湖と云うのは。――いや一蕪湖ばかりじゃないね。おれはもう支那には飽き厭きしてしまった。", "お前は一体コシャマクレテいるからな。支那は性に合わないのかも知れない。" ] ]
底本:「上海游記・江南游記」講談社文芸文庫、講談社    2001(平成13)年10月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店    1996(平成8)年9月9日発行 ※()内の編者による注記は省略しました。 入力:門田裕志 校正:岡山勝美 2015年2月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "051216", "作品名": "長江游記", "作品名読み": "ちょうこうゆうき", "ソート用読み": "ちようこうゆうき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 915", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2015-03-31T00:00:00", "最終更新日": "2015-02-28T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card51216.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "上海游記・江南游記", "底本出版社名1": "講談社文芸文庫、講談社", "底本初版発行年1": "2001(平成13)年10月10日", "入力に使用した版1": "2001(平成13)年10月10日第1刷", "校正に使用した版1": "2001(平成13)年10月10日第1刷", "底本の親本名1": "芥川龍之介全集 第十一巻", "底本の親本出版社名1": "岩波書店", "底本の親本初版発行年1": "1996(平成8)年9月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "門田裕志", "校正者": "岡山勝美", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/51216_ruby_55977.zip", "テキストファイル最終更新日": "2015-02-28T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/51216_56022.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2015-02-28T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "あら、皆さんはいらっしゃいませんの?", "ええ。きょうは誰も、……まあ、どうかおはいりなさい。" ], [ "あなたのお部屋は涼しいでしょう。", "ええ、……でも手風琴の音ばかりして。", "ああ、あの気違いの部屋の向うでしたね。" ], [ "フライ鍋の中へでも落ちたようですね。", "あたしは毛虫は大嫌い。", "僕は手でもつまめますがね。", "Sさんもそんなことを言っていらっしゃいました。" ], [ "時々剣を出しますわね。", "蜂の剣は鉤のように曲っているものですね。" ], [ "こちらの椅子をさし上げましょうか?", "いえ、これで結構です。" ], [ "昨晩はお休みになれなかったでしょう?", "いいえ、……何かあったのですか?", "あの気の違った男の方がいきなり廊下へ駈け出したりなすったものですから。", "そんなことがあったんですか?", "ええ、どこかの銀行の取りつけ騒ぎを新聞でお読みなすったのが始まりなんですって。" ], [ "Sさんは神経質でいらっしゃるでしょう?", "ええ、まあ神経質と云うのでしょう。", "人ずれはちっともしていらっしゃいませんね。", "それは何しろ坊ちゃんですから、……しかしもう一通りのことは心得ていると思いますが。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月3日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000166", "作品名": "手紙", "作品名読み": "てがみ", "ソート用読み": "てかみ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card166.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集6", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年3月24日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年2月25日第6刷", "校正に使用した版1": "1997(平成9)年4月15日第8刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/166_ruby_1459.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/166_15219.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "誰じゃい、おぬしは?", "伝三の倅の伝吉だ。怨みはおぬしの身に覚えがあるだろう。" ], [ "さあ、その伝三の仇を返しに来たのだ。さっさと立ち上って勝負をしろ。", "何、立ち上れじゃ?" ], [ "立ち居さえ自由にはならぬ体じゃ。", "嘘をつけ。嘘を……" ] ]
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月8日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000034", "作品名": "伝吉の敵打ち", "作品名読み": "でんきちのかたきうち", "ソート用読み": "てんきちのかたきうち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1924(大正13)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card34.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集5", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年2月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年4月10日第6刷", "校正に使用した版1": "1996(平成8)年7月15日第7刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/34_ruby_1130.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/34_15220.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "伯母さん、これは何と云う樹?", "どの樹?", "この莟のある樹。" ] ]
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:「改造 第八卷第十一号」    1926(大正15)年10月1日発行 入力:j.utiyama 校正:山本奈津恵 1998年10月5日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000167", "作品名": "点鬼簿", "作品名読み": "てんきぼ", "ソート用読み": "てんきほ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造 第八卷第十一号」1926(大正15)年10月1日", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-10-05T00:00:00", "最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card167.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "昭和文学全集 第1巻", "底本出版社名1": "小学館", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年5月1日", "入力に使用した版1": "1987(昭和62)年5月1日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "芥川龍之介全集 第八卷", "底本の親本出版社名1": "岩波書店", "底本の親本初版発行年1": "1978(昭和53)年3月22日", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "山本奈津恵", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/167_ruby_588.zip", "テキストファイル最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "5", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/167_15143.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "3" }
[ [ "これはね。或芸者の記念品なんだ。", "へへえ、記念品にしちや又、妙なものを貰つたもんだな。" ] ]
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "003807", "作品名": "東京小品", "作品名読み": "とうきょうしょうひん", "ソート用読み": "とうきようしようひん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3807.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1971(昭和46)年6月5日", "入力に使用した版1": "1979(昭和54)年4月10日初版第11刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "土屋隆", "校正者": "松永正敏", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3807_ruby_27232.zip", "テキストファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3807_27320.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-06-27T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "翁とは何の翁じゃ。", "おう、翁とばかりでは御合点まいるまい。ありようは、五条の道祖神でござる。", "その道祖神が、何としてこれへ見えた。", "御経を承わり申した嬉しさに、せめて一語なりとも御礼申そうとて、罷り出たのでござる。" ], [ "道命が法華経を読み奉るのは、常の事じゃ。今宵に限った事ではない。", "されば。" ], [ "されば、恵心の御房も、念仏読経四威儀を破る事なかれと仰せられた。翁の果報は、やがて御房の堕獄の悪趣と思召され、向後は……", "黙れ。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000135", "作品名": "道祖問答", "作品名読み": "どうそもんどう", "ソート用読み": "とうそもんとう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大阪朝日新聞夕刊」1917(大正6)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card135.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集1", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年9月24日", "入力に使用した版1": "1995(平成7)年10月5日第13刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/135_ruby_765.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/135_15221.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "ではおれが好いことを一つ教へてやらう。今この夕日の中に立つて、お前の影が地に映つたら、その頭に当る所を夜中に掘つて見るが好い。きつと車に一ぱいの黄金が埋まつてゐる筈だから。", "ほんたうですか。" ], [ "私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしようかと思つてゐるのです。", "さうか。それは可哀さうだな。ではおれが好いことを教へてやらう。今この夕日の中へ立つて、お前の影が地に映つたら、その腹に当る所を、夜中に掘つて見るが好い。きつと車に一ぱいの――" ], [ "いや、お金はもう入らないのです。", "金はもう入らない? ははあ、では贅沢をするにはとうとう飽きてしまつたと見えるな。" ], [ "それは面白いな。どうして又人間に愛想が尽きたのだ?", "人間は皆薄情です。私が大金持になつた時には、世辞も追従もしますけれど、一旦貧乏になつて御覧なさい。柔しい顔さへもして見せはしません。そんなことを考へると、たとひもう一度大金持になつた所が、何にもならないやうな気がするのです。" ], [ "大丈夫です。決して声なぞは出しはしません。命がなくなつても、黙つてゐます。", "さうか。それを聞いて、おれも安心した。ではおれは行つて来るから。" ], [ "もしお前が黙つてゐたら、おれは即座にお前の命を絶つてしまはうと思つてゐたのだ。――お前はもう仙人になりたいといふ望も持つてゐまい。大金持になることは、元より愛想がつきた筈だ。ではお前はこれから後、何になつたら好いと思ふな。", "何になつても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです。" ] ]
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年5月20日公開 2004年3月12日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000170", "作品名": "杜子春", "作品名読み": "とししゅん", "ソート用読み": "とししゆん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「赤い鳥」1920(大正9)年7月号", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-05-20T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card170.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文学大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "野口英司", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/170_ruby_348.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-12T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "6", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/170_15144.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-12T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "ではおれが好いことを一つ教えてやろう。今この夕日の中に立って、お前の影が地に映ったら、その頭に当る所を夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから", "ほんとうですか" ], [ "私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしようかと思っているのです", "そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いことを教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その腹に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの――" ], [ "いや、お金はもういらないのです", "金はもういらない? ははあ、では贅沢をするにはとうとう飽きてしまったと見えるな" ], [ "それは面白いな。どうして又人間に愛想が尽きたのだ?", "人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辞も追従もしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。柔しい顔さえもして見せはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持になったところが、何にもならないような気がするのです" ], [ "大丈夫です。決して声なぞは出しません。命がなくなっても、黙っています", "そうか。それを聞いて、おれも安心した。ではおれは行って来るから" ], [ "もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ。――お前はもう仙人になりたいという望も持っていまい。大金持になることは、元より愛想がつきた筈だ。ではお前はこれから後、何になったら好いと思うな", "何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです" ] ]
底本:「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社    1968(昭和43)年11月15日発行    1989(平成元)年5月30日46刷 初出:「赤い鳥」    1920(大正9)年7月号 入力:蒋龍 校正:noriko saito 2005年1月7日作成 2013年10月29日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[ [ "何時までも押してゐて好い?", "好いとも" ], [ "われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから。", "あんまり帰りが遅くなるとわれの家でも心配するずら。" ] ]
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年3月23日公開 2004年3月13日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000169", "作品名": "トロツコ", "作品名読み": "トロッコ", "ソート用読み": "とろつこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「大観」1922(大正11)年3月", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-03-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card169.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文学大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "野口英司", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/169_ruby_276.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-13T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/169_15145.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-13T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "何時までも押していて好い?", "好いとも" ], [ "われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから", "あんまり帰りが遅くなるとわれの家でも心配するずら" ] ]
底本:「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社    1968(昭和43)年11月15日発行    1984(昭和59)年12月25日38刷改版    1989(平成元)年5月30日46刷 入力:蒋龍 校正:鈴木厚司 2004年10月31日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "043016", "作品名": "トロッコ", "作品名読み": "トロッコ", "ソート用読み": "とろつこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2004-11-16T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card43016.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "蜘蛛の糸・杜子春", "底本出版社名1": "新潮文庫、新潮社", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年11月15日、1984(昭和59)年12月25日38刷改版", "入力に使用した版1": "1989(平成元)年5月30日46刷", "校正に使用した版1": "1988(昭和63)年5月25日45刷", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "蒋龍", "校正者": "鈴木厚司", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/43016_ruby_16663.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-10-31T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "0", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/43016_16836.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-10-31T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "ええ、五つの時に洗礼を受けました。", "さうしてこんな商売をしてゐるのかい。" ], [ "この商売をしなければ、阿父様も私も餓ゑ死をしてしまひますから。", "お前の父親は老人なのかい。", "ええ――もう腰も立たないのです。", "しかしだね、――しかしこんな稼業をしてゐたのでは、天国に行かれないと思やしないか。", "いいえ。" ], [ "ええ、ほんたうだわ。私の姉さんもあなたのやうに、どうしても病気が癒らなかつたのよ。それでも御客に移し返したら、ぢきによくなつてしまつたわ。", "その御客はどうして?", "御客はそれは可哀さうよ。おかげで目までつぶれたつて云ふわ。" ], [ "ではあなたは召上らないのでございますか。", "私かい。私は支那料理は嫌ひだよ。お前はまだ私を知らないのかい。耶蘇基督はまだ一度も、支那料理を食べた事はないのだよ。" ], [ "さうかい。それは不思議だな。だが、――だがお前は、その後一度も煩はないかい。", "ええ、一度も。" ] ]
底本:「現代日本文學大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 初出:「中央公論」中央公論社    1920(大正9)年7月 入力:j.utiyama 校正:柳沢成雄 1998年11月12日公開 2020年2月2日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000105", "作品名": "南京の基督", "作品名読み": "なんきんのキリスト", "ソート用読み": "なんきんのきりすと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1920(大正9)年7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-13T00:00:00", "最終更新日": "2020-02-02T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card105.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "現代日本文学大系 43 芥川龍之介集", "底本出版社名1": "筑摩書房", "底本初版発行年1": "1968(昭和43)年8月25日", "入力に使用した版1": "1968(昭和43)年8月25日初版第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "柳沢成雄", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/105_ruby_773.zip", "テキストファイル最終更新日": "2020-02-02T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "4", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/105_15146.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2020-02-02T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "2" }
[ [ "わたくしは賤しいものでございまする。とうていあなた様のお弟子たちなどと御一しょにおることは出来ませぬ。", "いやいや、仏法の貴賤を分たぬのはたとえば猛火の大小好悪を焼き尽してしまうのと変りはない。……" ] ]
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月1日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000109", "作品名": "尼提", "作品名読み": "にだい", "ソート用読み": "にたい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card109.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集6", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1987(昭和62)年3月24日", "入力に使用した版1": "1993(平成5)年2月25日第6刷", "校正に使用した版1": "1997(平成9)年4月15日第8刷", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "かとうかおり", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/109_ruby_1423.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/109_15222.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "第一年上のものを擲るということは、修身の道にもはずれている訣です。", "年上のものを? この木樵りはわたしよりも年下です。", "冗談を言ってはいけません。", "いえ、冗談ではありません。わたしはこの木樵りの母親ですから。" ], [ "わたしはこの倅のために、どの位苦労をしたかわかりません。けれども倅はわたしの言葉を聞かずに、我儘ばかりしていましたから、とうとう年をとってしまったのです。", "では、……この木樵りはもう七十位でしょう。そのまた木樵りの母親だというあなたは、一体いくつになっているのです?", "わたしですか? わたしは三千六百歳です。" ] ]
底本:「蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇」岩波文庫、岩波書店    1990(平成2)年8月16日第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年5月15日公開 2004年1月13日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "001031", "作品名": "女仙", "作品名読み": "にょせん", "ソート用読み": "によせん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "不詳", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-05-15T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1031.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇", "底本出版社名1": "岩波文庫、岩波書店", "底本初版発行年1": "1990(平成2)年8月16日", "入力に使用した版1": "1990(平成2)年8月16日第1刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "", "底本の親本出版社名1": "", "底本の親本初版発行年1": "", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/1031_ruby_1963.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-02-06T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "3", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/1031_14564.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-02-06T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }
[ [ "傑作です。", "傑作――ですか。これは面白い。" ], [ "これは面白い。元来この画はね、会員の画じゃないのです。が、何しろ当人が口癖のようにここへ出す出すと云っていたものですから、遺族が審査員へ頼んで、やっとこの隅へ懸ける事になったのです。", "遺族? じゃこの画を描いた人は死んでいるのですか。", "死んでいるのです。もっとも生きている中から、死んだようなものでしたが。" ], [ "どうして?", "この画描きは余程前から気が違っていたのです。", "この画を描いた時もですか。", "勿論です。気違いででもなければ、誰がこんな色の画を描くものですか。それをあなたは傑作だと云って感心してお出でなさる。そこが大に面白いですね。" ] ]
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年12月28日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{ "作品ID": "000113", "作品名": "沼地", "作品名読み": "ぬまち", "ソート用読み": "ぬまち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1919(大正8)年5月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card113.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名": "竜之介", "姓読み": "あくたがわ", "名読み": "りゅうのすけ", "姓読みソート用": "あくたかわ", "名読みソート用": "りゆうのすけ", "姓ローマ字": "Akutagawa", "名ローマ字": "Ryunosuke", "役割フラグ": "著者", "生年月日": "1892-03-01", "没年月日": "1927-07-24", "人物著作権フラグ": "なし", "底本名1": "芥川龍之介全集3", "底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房", "底本初版発行年1": "1986(昭和61)年12月1日", "入力に使用した版1": "1996(平成8)年4月1日第8刷", "校正に使用した版1": "", "底本の親本名1": "筑摩全集類聚版芥川龍之介全集", "底本の親本出版社名1": "筑摩書房", "底本の親本初版発行年1": "1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月", "底本名2": "", "底本出版社名2": "", "底本初版発行年2": "", "入力に使用した版2": "", "校正に使用した版2": "", "底本の親本名2": "", "底本の親本出版社名2": "", "底本の親本初版発行年2": "", "入力者": "j.utiyama", "校正者": "もりみつじゅんじ", "テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/113_ruby_995.zip", "テキストファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS", "テキストファイル文字集合": "JIS X 0208", "テキストファイル修正回数": "2", "XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/113_15225.html", "XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2004-03-15T00:00:00", "XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS", "XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208", "XHTML/HTMLファイル修正回数": "0" }